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ボーダーを越えて
5 トーマスのギャンブル(1)
2003年2月22日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 採集されたアボカドは、ビンに集められるのを待っている。
▲ 3つのビンに入れられたアボカドは、パッキングハウスの集荷場へ運ばれる。背後の小型トラックは、農園内で採集されたアボカドの運搬用。
サンディエゴ郡は、自称他称、アメリカの「アボカドの都」(Avocado Capital)。アメリカ産アボカドの95%をカリフォルニアが生産し、そのうちの60%をサンディエゴ郡が占めているからです。アボカドの生産地は沿岸沿いに北上して、ベンチューラ、サンタバーバラ、そしてサンルイソビスポ郡まで続いています。

私たちはサンディエゴ市のすぐ北、デルマーという海岸町に住んでいますが、トーマスの農園は、我が家から内陸に向かって東北東へおよそ30マイル(48km)のラモナという町のはずれに2ケ所あります。直通のフリーウェイ(高速道路)がないので、トーマスは毎日片道1時間かけて農園に「通勤」するのです。

うちの近くにフリーウェイが南北に走っていますが、それを南へ、これまた30マイルほど行くと、40分弱でメキシコとの国境にぶつかります。我が家から国境までの中間地点にアボカド園が1つありますが、それを除くと、トーマスとその近所のアボカド園はカリフォルニアでは最南端。アボカドはもともと亜熱帯性植物なので、当然のことながら南の暖かい所に育つ実は早く成熟します。しかもトーマスの農園は、午後の強い日射しをいっぱい浴びる西南向きの斜面にある上、大ヒーターの役割を果たしてくれる大きな岩がゴロゴロしていて、トーマスは毎年、収穫の先頭を切るんです。

なんて言うと、自慢話に聞こえるかもしれませんが、実はこれ、ギャンブルなんです。

アボカドも他の果樹と同じで、春に実を結んだ果実が食べられるようになるのは秋以降。でも、実が前回お話した乾重量割合の一定水準に達しないと、市場には出せません。といっても、1つ1つの実を検査するのではなくて、州の食糧農業部が、前シーズンの経過やその年の開花状況を基準にして乾重量割合を予測し、それぞれの品種の市場放出日(maturity release dates)を各サイズによって決めているのです。

ここでちょっとサイズに触れると、中型サイズは#48といいますが、それはラグ(lug)と呼ばれる25ポンド(11kg強)入りの箱にアボカドが48個入るから。それより一回り大きいと40個しか入らないので#40(もっと大きいと、#36、#32、#28)、小さいと60個入るので#60(もっと小さいと、#70、#84)、という具合です。日本では、ハースの#48と#40には#4225、#60以下の大きさのものには#4046、ぐっと大きいものは#4770というラベルが貼ってあるようですが、その数字はどこから来たのやら‥

今シーズンの市場放出日は、ハースの#48が12月12日、#40は11月28日、#60は年明けの1月2日でした。でも、トーマスは感謝祭(11月第4木曜日)前に収穫を始めたい。乾重量割合が20.8%になっていれば、公式の市場放出日の前でも市場に出せますが、それには実際に検査を受けてパスしなければなりません。まず、収穫予定の場所から実を5個、州の農業部へ持って行ってテストしてもらう。それに通ったら、本格的に収穫してビン(bin)というアボカド1000ポンド(453kg)分の採集箱に入れ、生産者から収穫を買い付けるパッキングハウス(packing house)の集荷場へ運ぶ。そこに州の検査員がやってきて、ビンの中からランダムに5個選んでテストする。それにパスすればビンのアボカドはOK、というわけです。パスしなかったら? ビンの中のアボカドは全部廃棄処分。テストに通るか通らないか、結果が出るまではヒヤヒヤです。

そんなことなら市場放出日まで待てばいいのに、と思われるかもしれませんが、市場放出日の前と後とでは、アボカドの生産者価格が大違いなんです。11月は北限のサンルイソビスポから前シーズンのアボカドが細々と市場に出てくるだけで、供給量は最小限。それで生産者価格が飛び抜けて高い。トーマスのギャンブルはそれを狙っているんです。

おかげさまで、このギャンブルはこれまでいつも当たってきました。ヤレヤレ‥
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