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僕の偏見紀行
39 50年の時を超えて
2007年1月1日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲  先年大噴火した普賢岳火口を望む。現在も噴煙が立ち昇り、不気味な溶岩ドームがせりあがる。
▲  島原の武家屋敷通り、道の中央を清らかな流れが走っている。島原は雲仙に降った雨が湧き出す名水の里である。
 昨年の正月、郷里の九州で行われた小学校時代の同窓会で、恩師のタカハシ先生が95歳でお元気だということを聞いた。

 小学校1〜2年生時代にお世話になった先生は、退職後郷里の九州平戸にお帰りになった。独身の女教師であった先生はそのまま郷里の妹さん一家の近くにお一人で住んでおられた。

 今にして思えば、僕等がお世話になった頃先生は40代半ばだったろうか、とても厳しい先生だった。その授業は女先生とはいえ熱意と迫力に満ちていた。悪たれ坊主どもも先生に一喝されるとちぢみ上がったものだ。

 それでも先生の情熱とその底にある思いやりは幼かった僕等にも伝わり、仲間と自宅まで遊びに出かけたりもした。先生が少し早めに退職して郷里に帰られる際には、お世話になった仲間と記念に和机をお贈りした。先生の自宅に夜道を親達も一緒にお邪魔して、その引き出しの裏にそれぞれの名前を拙い字で書いたことが忘れられない。

 その後、高校や大学への入学、社会に出る時など、何度かは先生を訪ねて平戸まで出かけた。しかし社会人になると、僕も仲間もそれぞれの人生との悪戦苦闘にまぎれ、平戸を訪れることは今まで40年間無かった。

 同窓会以来、ずっと先生のことが気になっていた。しかし昔の仲間も今は関東と九州に分かれており、それぞれの日程調整は思いのほか難航した。

 さらに高校時代の旧友カズオくんが九州有数の雲仙温泉で、老舗旅館の社長をしているというニュースも飛び込んできた。大手ホテルチェーンで永らく総支配人を勤めていた彼はその手腕を見込まれ、老舗旅館数軒をまとめて再建するべく奮闘中である。

 結局、イサオちゃん・ユウコちゃん・キヨシくんと僕の4名で11月に平戸から雲仙へ行くことにした。さらにそれぞれの配偶者も同道しようということになり、合計8名での九州平戸・雲仙への旅となった。

 先生へお知らせすると、95歳とは思えぬ力強い達筆で喜んでお待ちするとのお手紙を頂いた。お元気ではあるが、身の回りのことが大変になってきたので、現在はケアハウスにお住まいということであった。

 お手紙を拝見して、60過ぎて未だに字の下手くそな僕は恐れ入ってしまった。今でも新聞やテレビは欠かすことなく毎日みて、社会情勢にも関心をお持ちという、最近とみに記憶力が怪しくなった僕は不肖の教え子であることを恥じた。

 ところが出かける直前に先生の姪御さんから、先生が転倒して大腿骨を骨折したという知らせが届いた。予定では平戸では先生との会食など楽しみにしていたのにどうしようと迷った。しかしみんなで楽しみにしていたことだし、お見舞いにひと目だけでもと出かけることにした。

 先生は平戸のケアハウスから佐世保の病院に移って、治療とリハビリに取り組んでおられた。流石の気丈な先生も、4〜50年ぶりの再会に涙された。車椅子にすわり涙で顔をくしゃくしゃにされる先生を見て胸が一杯になった。

 一人ずつ先生に近況報告したり、用意したお土産をお渡しした。先生はそれぞれについてよく記憶しておられ、こちらが忘れてしまったことまで鮮明に語られた。その先生のお話を聞きながら、僕はこれが本当の知性の力なのだろうと感嘆した。

 病院に長居もかなわず、名残を惜しみつつ先生とお別れした。先生は固辞する僕等にかまわずエレベーター近くまで車椅子で送って下さった。こんな時どんな言葉でお別れしたらいいのか、もどかしさだけがつのった。

 雲仙に向かう途中の愛野峠の展望台では、千々石湾に沈む夕陽が海面を鮮やかな朱色に染めていた。輝く海を背景に記念写真を撮りながら、あんなに幼かった旧友たちが、それぞれに年月を経て還暦老人となりながら、良き配偶者に恵まれ幸せに満ちて立っている、僕はそのことに密かに感動した。

 雲仙では老舗旅館でカズオくんが待っていた。彼の心づくしの料理と焼酎を満喫しながら、懐かしい高校時代の思い出話に盛り上がった。高校時代硬派だったカズオくんの意外なロマンス談など思い出話は尽きることがなかった。

 翌日は先年大噴火し、今も荒々しい活動が持続している普賢岳の火口を遠望したり、麓の島原の古い町並みを散策した。島原の趣きある武家屋敷跡を歩きながら、遠い昔の修学旅行を思い出していた。

 今回の旅は50年の時空を超えて僕等を幼かった小学生の時代まで引き戻してくれた。そこでは懐かしい恩師はやはり僕等にとってまぎれもなくいくつになっても「先生」であった。
 
 今回久しぶりに再会した95歳の恩師は自らの生き方で、僕等にそれぞれの残りの人生について多くを教えて下さった。
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
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68 インド紀行(5)夜行寝台「ハウラー・カルカ・メイル・2311号」
67 インド紀行(4)ダージリン滞在
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65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
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52 風に吹かれて八丈島(2)
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28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
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26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
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6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
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