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ボーダーを越えて
7 女性花・男性花
2003年3月12日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 太陽に向かって咲くアボカドの花。この花は今年の1月下旬に咲いたもの。
▲ 円錐花序にまとまっている花。この左上にハチが止まっているのですが、見えますか?
▲ トーマスのアボカド園のハチ巣箱。
アボカドの花が咲き始めてきました。といっても、「アボカドの花って、どういうの?」と、サンディエゴに住んでいる人でさえ首をかしげるくらい、アボカドの花は目立たないものです。薄黄色の花は小指の爪ぐらいの大きさしかありません。ところが、並外れた咲き方をするんです。

細長い茎の先に咲く花は、植物学で「円錐花序」(panicle)という形のこぶし大の固まりで枝のあちこちに何千、何万とつきます。1本の木に通算百万の花が咲くのも珍しくありません。遠くから見てアボカドの木の表面が薄黄色に覆われていたら、花が咲いているということです。

咲いている、といっても、桜や桃のように一斉に満開になるわけではありません。よぅく見ると、ちっちゃな花の1つ1つが独立して開いたり閉じたりしているのです。それもただやたら勝手に開閉するのではなく、目的に向かって規律正しく、開き、閉じ、そして翌日また開いて、閉じ、それで終了する。

そもそも、花は実を結ぶこと、つまり種の保存が目的で、そのために真ん中にメシベが突き出し、その周りに花粉いっぱいのオシベがある。メシベのてっぺんに花粉が付くと、やがてメシベの下が膨らんで実になる。と、中学校の自然科学の授業で学びましたよね。ところが、アボカドの花は、最初に開いたときはメシベだけ、つまり女性花なのです。開くといっても、とてもしとやかで、慎み深そうな開き方をします。そして2時間から4時間後には閉じてしまう。翌日再び開いたときには、今度はオシベだけの男性花。しかも花粉が十分振り撒けるように花弁が反り返って思いきり開き、まさにマッチョそのもの。

この過程は、アボカドの研究では世界一であるカリフォルニア大学リバーサイド校の以下のウェブサイトで、Video: Avocado Flowering Cycleをクリックすると見ることができます。これを初めて見たとき、私は自然の知恵(などと言っていいものかどうか)に感動しました。みなさんも是非ご覧になってください。(残念ながらダイアルアップではこれは見ることができません。)
http://ucavo.ucr.edu/AvocadoWebSite%20folder/AvocadoWebSite/Flowering/FlowerCycle.html

なぜこんな開花の仕方をするのかというと、同じ花からの受粉、つまり近親相姦を避けるため。その方が頑健な子孫ができるのは、植物も動物も同じですね。アボカドは実に高度な種の保存方法を身に付けているわけです。しかも、1つの円錐花序の花全部が同時に開いたり閉じたりするのではなく、1つ1つの花が独立行動を取るのです。すごいでしょう? その過程は、上述のウェブサイトで、Video: Dynamics of Avocado Flowering をクリックすると見られます。これもお勧めします。
http://ucavo.ucr.edu/AvocadoWebSite%20folder/AvocadoWebSite/Flowering/Dynamics.html

花の開き方にはA型とB型の2種類あります。A型は女性花が午前中開き、昼下がりまでには閉じてしまう。そして翌日の午後、男性花が開くのです。私たちに一番馴染みの深いハースは、このA型です。B型は、昼下がりに女性花が開いて、閉じるのは夕方近く。男性花が開くのは翌日の午前中です。ハースに先立ってアボカド産業の主体だったフエルテはこのB型です。A型もB型も、男性花が開いた後は再び閉じ、2度と開くことはありません。

生殖方法が高度とはいえ、植物ですから、愛の相手を求めて動くことはできません。だれかに花粉を運んでもらう必要があるのです。だれがその役を担うのか。ここで研究者の間で論争があります。1つは、風が主で、ミツバチが補うという説。もう1つは、アボカドの花粉は風が運ぶには重すぎるから、絶対にミツバチが必要だという説。どちらの説も、観察と実験を繰り返した上で出されていて、机上の仮説ではありません。この論争に決着がつくまでには、もっと研究が続けられることでしょう。

とはいえ、ミツバチの効用はわかっていますから、カリフォルニアのアボカド生産者はミツバチの力を借りています。トーマスもミツバチ業者と提携して、ハチ巣箱をアボカド園に置き、アボカドの花の受粉をしてもらい、ミツバチ業者はアボカドの蜜を採集しています。アボカドとミツバチとの関係と同じような相互補助を、人間同士も結んでいるわけですね。

もう1つ肝心なのは、気温です。アボカドは亜熱帯出身ですから、一日の最低気温と最高気温の平均が21.1℃以上でないと、花は規則的に開閉せず、ミツバチを引き寄せる甘い蜜も十分出せません。もっと詳しくいうと、昼間の最高気温も大切で、A型は22℃、B型は26℃でないと、開花しないのです。また、平均気温が48時間連続して15.5℃以上、最低気温が12.8℃以上でないと、実は結ばないのです。花が咲いてもその90%は受精せずに落ちてしまう。そこで、アボカドは実を結ぶまで次から次へと花を咲かせる。サンディエゴでは大体1月から咲き始め、5月頃まで咲き続けますが、延々と7月まで咲き続けてやっと実ができたという例もあります。

実を結ぶためにいつでも花を咲かせるアボカドは「日和見主義なんだよ」なんて、農産アドバイザーのベン・ファーバーさんは言いますが、もともとアボカドにとっては自然条件の極限であるカリフォルニアでは、1本の木に花が百万咲いても実として育つのは千個ぐらいですから、アボカドが必死になって花を咲かせるのも無理もありませんね。原産地のメキシコやグァテマラでは、当然のことながら、実になる率はもっと高く、開花期間ももっと短いのです。
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