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ボーダーを越えて
8 父親不明
2003年3月22日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 木から落ちた実の種から出た芽。
▲ 継ぎ木は大手術のようなもの。傷口はしばらくテープで縛っておく。
▲ 接ぎ木から育ったハースの木。高さ6メートルほどあるこの木は樹齢27年で、最も生産性の高い年齢。
私がカリフォルニアに移り住むようになったのはちょうど30年前のこと。その頃は、アボカドを食べるたびにエキゾチックな気分に包まれて、なんとなくウキウキしたものです。食べた後は、種に楊子を3本ほど刺し、水をはったビンの上に載せたりしましたっけ。すると、桃太郎が生まれてくるのはこんなふうなのかな、と思わせるように、アボカドの種が半分に割れて、真ん中から緑の芽が、そして下の方からは根が出てきます。それを土に植え代えたことはありませんでしたが。本気になって観葉植物として育てるつもりならば、種の上の方を4分の1ほどナイフで切り取り、鉢植用土(potting soil mix)を入れた鉢に、切り口が土の上に出るくらいに土をかぶせて埋め、湿り気を絶やさないようにして芽と根を出させるのが、一番効果的だそうです。

こうして芽が出て、アボカドの木として育っても、花が咲くまでには早くて5年、ときには13年もかかります。それでやっと花が咲いても、実はなかなかできません。アボカドの花の90%以上は受精せず、全く実を結ばずに落ちてしまうと前回お話しましたよね。さらに、せっかく実を結んでも、そのまた90%以上はちっちゃなうちに木から落ちてしまうのです。
「花が咲き終わってしばらくたった頃アボカド園を歩くと、ポタッ、ポタッ、ポタッ、という音が聞こえるよ」とトーマスは言います。小さなアボカドの実が次から次へと落ちる音なのです。花が次の世代を生み出す実へと成熟する率は、カリフォルニアでは0.1%以下。平均値は0.01%だそうです。

トーマスのアボカド園には1万本の木が植えてありましたが、木が大きくなってくると互いに養分や水分や光の競争をするので、現在は6千本に減らしてあります。そのうちの99%が、いまや世界的商品として市場を占めているハースです。アボカドの木の間を歩くと、木から落ちた実が発芽した幼い木をよく見かけます。こうしてハースの木がどんどん増えていく、のではありません。その木の母親はハースでも、ミツバチがどのアボカドの花粉を運んできたのかわからないので父親は不明。父親もハースだとしても、その子どもの遺伝子の組み合わせが親のと全く同じということはクローンでない限りありえないので、ハースの種からハースが生まれる可能性はゼロだ、とベン・ファーバーさんは断言します。人間の兄弟が、容姿や性格が両親や兄弟同士それぞれ違うのと同じだと言うのです。また後日ゆっくりお話しますが、そもそもハースの親の正体が不明で、いったいどんなアボカドだったのか、全くわかっていません。わかっているのは、ハースはグアテマラ系にメキシコ系が混ざったものということぐらい。

アボカド園のように周囲がハースだらけでも、アボカドは同種からの受粉は好まず、別の種類から受粉して交種(outcrossing)した花の方が受精しても実へと成熟する率がはるかに高いそうです。そのため、トーマスは受粉用として、ズタノを40本、フエルテを20本、ベーコンを2本、メキシコーラを1本、ワーツを10本、というように、全く違う種類のアボカドも植えてあります。ですから、ハースの木になる実の種は、ハースとフエルテ、ハースとズタノ、ハースとベーコンの合いの子かもしれないのです。つまり、ハースの木から落ちた種が出した芽が木に育ち、その木になった実はどんなアボカドになるのか、全く見当がつかないのです。

それでは、ハースはどうやって増えていくのでしょう? 答えは簡単。接ぎ木です。ハースのもともとの木から伸びた新芽を切り取り、根として適した種類(root stock)のアボカドの幹に接ぎ、次にその木の新芽を切り取って根用種のアボカドに接ぎ木する、ということを繰り返してきたのです。トーマスに言わせると、ハースのクローンを次々に作っていったわけです。そうやってハースは世界中に広がっていったのです。接ぎ木の知識と技術は、なにも現代のものではありません。アボカドの原産地の1つであるメキシコでは、各地に独特の品種が無数にあるそうですが、そういう品種はスペイン人による征服以前から、接ぎ木によって受け継がれてきた形跡があるそうです。

ところで、アボカドがなぜクスノキ科に属するのか、わかりました。(連載の第1回目で、理由はわからないと白状したのですが。)植物は花の構造に沿って分類するのだそうです。花の構造が似ていれば、植物そのものも似ているからだとか。クスノキ科には、クスノキやアボカドの他に、月桂樹、シナモン、ササフラスなどが属しますが、それぞれの花は互いによく似ているそうですよ。でも、それらの花がアボカドのように開閉を繰り返すかどうかは、専門家のベンにもわからないとか。多分、そこまで研究されていないだろうとのことです。(逆に言うと、アボカドの花の研究が進んでいるのは、アボカドが経済価値の高い果実だからです。)月桂樹の実は超ミニのアボカドのようだそうですが、残念ながら食用には向いていそうにありません。でも、1度見てみたい。
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