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僕の偏見紀行
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
2008年6月8日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ホテル「ザ・ジョージ」の部屋からの眺め、仰向くほど高いところにある窓からは、隣の教会の尖塔が見えた。
▲ エジンバラ大学構内にて。重厚な雰囲気の建物が多かった。
▲ エジンバラ大学内の学食にて。バーがあり、お昼でも美味しいビールが飲める。造りは図書館のようだった。
パリで乗り換えエジンバラ空港に着いたのはもう夜の9時半を過ぎていた。やたら愛想のいい係官のいる入国審査を経てロビーへ出るとガランとして人影もまばらだった。

のどが渇いたので自販機で水を買うと、これがあまり冷えていないガス入りだった。僕にとって久しぶりのヨーロッパ第一歩の味は、砂糖抜きのラムネみたいな、ざらざらした違和感だった。

ここから11日間のスコットランドの旅が始まる。今回はこの春、僕の母校を退官された恩師ムラカミ先生を案内役とする、旅行社のベテランガイドを含めた総勢14名が同行メンバーである。

ムラカミ先生は英語言語学が専門で、特に古いスコットランド言語の研究者だ。若い頃には、エジンバラ大学に研究のため留学し、今回の旅では先生が学んだ研究室も訪問する予定だ。

迎えのバスに乗って着いたのは「ザ・ジョージ」という古いホテルだった。造りは古い石造りながら、内部の設備は快適な近代的しつらえだった。バスルームの金具類は全てピカピカに磨き上げられ、清潔この上ない。部屋の天井は高く、縦長の窓がとんでもなく高いところにあって、見えるのは夜空と教会の尖塔といった具合である。建物の構造自体は昔のままということだろう。

ところが、ピカピカのバスルームの使い勝手は良くなかった。以前の経験から覚悟はしていたが、シャワーやバスタブの栓などとても扱いづらい。バスタブの栓などはとうとう動かなくなり、お湯の排水が出来ない始末である。

この栓は単に上から落とし込むのではなく、湯口の下辺りのハンドルを回して開閉する仕掛けになっており、なんでこの様な複雑な機構を採用しているのか理解できない。

エジンバラには3泊する予定なので翌朝はゆっくり起きて、散歩しながらエジンバラ大学へ向かった。古い石造りの町並みは余計なものが一切無く、静かな調和に満ちて美しかった。川沿いには今が盛りの新緑が輝き、やや冷たい風も心地よかった。

研究室には先生の旧知の方が待っていて、早速熱い紅茶とショートブレッドのご馳走になった。あつあつの紅茶にたっぷりの冷たい牛乳を注いでいただくお茶は、しばらく歩いた体にとても美味しかった。

ここでいわばスコットランド学入門といった主旨で、外国の素人向けに言語や民俗にまつわるお話をきかせてもらった。

お茶をご馳走してくれたカナダ出身の女性の先生によると、今の時期のスコットランドの気候、つまり変わりやすく、雨や霧が多く、風が吹けば肌寒い天気のことを、地元の人はうっとしい気分をこめて「It’s dreich!」と表現するらしい。なにかドイツ風の発音だが、このほかにもドイツ風の発音がいろいろとあるようで面白かった。ただこの言葉は帰国後、研究社の英和辞書では見つけることができなかった。

もう一人の先生は「ゲーム」について民俗学的研究をしており、スコットランドの皮のボールを敵のゴールへ蹴りこむというゲームと、沖縄の「大綱引き」を比較研究していた。まさかエジンバラ大で沖縄の話が出るとは思ってなかったので一段と興味深かった。

どちらも村の人々が二手に別れて競い合い、その結果によってその年の収穫を占うという形であり、一方が勝てば農業、その逆は漁業がいいと言った風である。

どちらもよく似たところがあるが、例えばスコットランドのボールゲームは、いつもの服装で、特別な舞台の設定もなく、村の橋のたもととか、川岸とかなんでもないところがゴールだったりする。しかもそれを決着がつくまで延々と数日かけて行うこともあるという。

僕はその話を聞きながら、なんの面白みもなさそうなゲームを、延々と続けるスコットランドの人々の気力、あるいはそんなものを面白がる精神のありようが、とても興味深く面白かった。つくづく世界は広いものだと感じた。

もしかしたら、これは「ハレとケ」という日本人固有の精神文化と、そうでない民族との差ではないかと僕は思った。つまり日本人にとって、ゲーム(祭り)はハレの行事であり、特別の衣装と舞台装置が必須であるが、スコットランドの人々にとって、ゲームを含めあらゆることが日常(ケ)の中で行われるのではないかと思うのだ。

このことは、たとえば旅行やバカンスのありかたでもいえる。我々にとって、例えば海外旅行などはハレの行事であるため、おしゃれをしてお土産も盛大に買い込むというパターンが一般的である。一方スコットランドを含め、ヨーロッパの人々のバカンスは少し異なるように思えるのだが。

こんなことを考えながら久しぶりに受けた大学の講義はとても楽しかった。研究室の後、折角だからということで、大学の学食へも行った。重厚な造りの食堂は古い図書館のような感じで、周りの書棚には革表紙のラテン語辞書などが並んでおり、さすがエジンバラ大学といった雰囲気だった。

学食といってもバーがあり、ウエイターもいて、みんな気軽にビールなど飲んだりしていた。そこで我々もボリュームたっぷりのスープと巨大なハンバーガーを頂いたが、こればかりは世界共通の学食仕様であった。 (続く)
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