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ボーダーを越えて
13 働く人々
2003年6月7日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 労働者の寝泊まりするトレーラーハウスの1つ。
▲ ルイースは植えたトウモロコシがスクスク伸びていくのがうれしくて、毎日見守っている。
▲ トレーラーの外で、父親フヮンの床屋をするパオリーノ。フヮンは酒に酔って農園内で喧嘩を始め、相手をナイフで傷つけたため、即時解雇される羽目になった。別の農園で仕事を見つけたが、トーマスの農園のトレーラーにパオリーノといっしょに住み続けている。
前回ご紹介したマルセリーノは、5月末日に帰郷しました。1ヶ月は待った方がいいという警告が来たのに、半月待っただけで帰ったのは、息子の結婚式を早く済ませたいからなのか、それとも殺人事件が気になるのか‥ どちらにせよ、3ヶ月したら戻って来ると言って帰ったそうです。

トーマスの農園では、労働者は入れ代わり立ち代わり帰郷します。故郷の畑の種播きだとか、作物を収穫するとか、家族が病気だとか、いろいろな理由で毎年何ヶ月かはメキシコに帰るのです。誰がいつ帰り、いつ農園に戻って来るかは労働者次第。でも、一遍に全員に帰られたら困りますので、交代で帰ってもらうようにしているのです。その代わり、農園に戻ってきたときの職は保証する、と約束しています。メキシコやもっと南の中米から職を求めて絶えず人が流れ込んで来るのですから、必ず職があるということは労働者にとっては大きな利点なのですが、トーマスにとっても、同じ労働者を雇った方が職場が安定しますし、安心して仕事を任せられるので、帰郷の交代制は両者にとって便利なのです。

マルセリーノは3日3晩バスに揺られて、メキシコ南部の村へ帰っていきましたが、他の労働者たちは近年は国境沿いのティファナからの飛行機で行き来するようになりました。メキシコ航空会社が民営化されてから航空運賃が安くなったことと、長年アメリカ側で働き続けた労働者の懐に余裕が出てきたからです。でもマルセリーノが、息子の結婚式には大金を注いでも、「バスなら片道80ドルで済むから」と言って、自分の便利さのためにお金を使ったりはしないのは、読み書きができず、スペイン語も満足に話せないので、一人で飛行機に乗るのは不安なのかもしれません。

労働者はカリフォルニア州公定最低賃金の時給6ドル75セントで雇われています。収穫の契約制のときは、月に3000ドルぐらい稼ぎますが、普通は平均して手取り1000ドルから1200ドルほどの月収で、その7割以上をメキシコの家族へ仕送りするそうです。日本で考えたらその額はたいしたものではないでしょう。でも、メキシコの貧しい農村では大変な金額なのです。なにしろ、メキシコの最低賃金は1日につき4ドル40セントなのですから。(これで去年の暮に上がったとニュースになったくらいです。)この数字を見ただけでも、メキシコの農村や小さな町が、アメリカへ出稼ぎに出た人たちからの仕送りに頼っているのが、おわかりでしょう。

出稼ぎに来た労働者たちは、農園内のトレーラーに寝泊まりしています。トレーラーとはいえ、住処は住処。しかもサンディエゴの住宅費はボストンに次いで全国第2位と言われるほど高いので、住居費も光熱費もタダというのは、労働者には大変な節約になります。食費は安いので、娯楽費を差し引いても、無駄遣いさえしなければ、収入の大部分を仕送りできるのです。

農園の職長は、重要な灌漑の責任者でもあるので、常時いてくれないと困りますから、モービルホームという別のトレーラーハウスに、メキシコから呼び寄せた家族といっしょに永住しています。一方、家族から離れた労働者たちは男ばかりの生活ですから、帰郷は一番の楽しみに違いありません。少しでも故郷と同じように生活しようと、主食のトウモロコシやトマトをトレーラーの隣に植えたりしています。

と言うと、のどかに聞こえるかもしれませんが、人を雇うというのはむずかしいですね。ときには問題も起こります。その1つは、労働者間のいざこざ。アルコールが入って暴力沙汰にでもなったりしたら、即クビ、とトーマスは決めています。実際、そうしたこともあるのです。もう1つの大きな問題は、アボカドの横流し。なにしろ需要の大きい商品で、アボカドの盗難や横流しはアボカド産業の最大の問題なのです。トーマスは、自分たちが食べるのはいくら食べても構わないが、横流ししたら、即解雇する、と警告してあります。解雇しなければならなかったこともありました。

それでも、他の農園よりトーマスの所で働く方がいいと、労働者が言ってくれたのを耳にしたことがあります。理由は、雨が降っても必ず仕事をくれるし、アボカド採取の契約価格が他の農園より5割も高いし、おまけに、農園主自身が自分たちと同じように泥まみれになって働くから、なのでそうです。トーマスより労働者の方がよっぽどきれいな格好をしている、と言って私は笑ってしまうのですが。
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34 番外編:クリスマス・ディナー
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