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僕の偏見紀行
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
2008年6月20日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ワーズワースホテル前で、古い石造りのこじんまりした
気持ちのいいホテル。森の香りがした。
▲ ワーズワースのお墓そばの小川と石の橋。
▲ 「ヒル・トップ」前の牧場で遊ぶ羊の親仔。
ブラックフェイスという種で、文字通り顔が
黒くて可愛い。
ポートリーからの帰りは、来た時とは逆まわりに、スカイ島を1周してフェリーで本土へ戻った。そこからバスは、英国最高峰ベン・ネヴィス山麓を経て、太古の氷河が刻んだ雄大な峰や谷が続くグレンコー峡谷を走り抜けた。

グレンコー峡谷を過ぎるまでは上天気で、周りの大自然の壮大さを楽しむことができたが、ローモンド湖へつく頃には、曇り空から時折小雨が降ってきた。

小雨に煙るローモンド湖のクルーズの後、グラスゴーへ着いた頃には本降りとなってしまった。ジョージ・スウエアでは、スコットランドの偉人達の銅像がハトの糞にまみれ、降りしきる雨に濡れそぼっていた。

翌朝、雨の中を訪れたグラスゴー大聖堂は、雨にぬれ黒々と重苦しい雰囲気で聳えていた。ただ聖堂に入ると、暗い中で壮大なつくりのステンドグラスが美しく輝き、ほっとした。これまでも多くの人々が、救いを求めてここに来、この輝きに、どれだけ心癒されたことだろう。

グラスゴーを後にして、バスは一路イングランド北部湖水地方を目指して走った。イングランドとの境界線の手前には、「スコットランド最後の家」と大書した看板を掲げた家が立ち、大きなスコットランド国旗が堂々と風にひるがえっていた。これは個人の家ということであったが、僕等には希薄な、国家に対する思いの強さを感じた。

イングランドとスコットランドはほんの数百年前までは、互いに血を流し覇権を争った敵国だったのだ。イギリスというのはまさにUNEITED KINGDOMなのだと僕はあらためて思い知らされた。それにしても僕は西洋史の教室で、一体何を学んで来たのだろう。

湖水地方の小さな町グラスミアの「ワーズワース・ホテル」にバスは到着した。町全体が森の中のような、大きな木々に囲まれた、静かで気持ちのいい町だった。古い石造りのホテルの玄関先には、暖炉用の薪が山済みされ、かぐわしい森の香りが満ちていた。こじんまりしたホテルは家族経営とかで、外観は古い造りを残しながら、水周りの設備は新しく清潔だった。

夕食前に散歩に出かけた。ホテルのすぐそばに緑溢れる庭園が広がり、その奥にワーズワースの墓がひっそりとたたずんでいた。その脇には水鳥の遊ぶ小さな川が流れ、向こうの方には、石造りの橋が夕もやに霞んで架かっているのが見え、まさしく名画のような光景に見入ってしまった。

翌日は世界的観光地として有名な湖水地方を巡った。さすがにどこへ行っても観光客の姿が多い。特に、ベアトリクス・ポターのギャラリーや、彼女の住居跡である「ヒル・トップ」など、世界中から人が押し寄せて来たのでは、と思うほどの大盛況ぶりだった。見学は予約制で、分単位で指定された時間に行かないと中へ入れない。実にピーター・ラビットの力は偉大だった。

ここに来るまで無関心だった僕は、彼女とハリー・ポッターを混同するようなお粗末さであったが、彼女直筆の、巧みに擬人化された可愛い動物達のスケッチには感動した。

こうやって築いた財産の全てを彼女はナショナルトラストに寄付し、そのお陰で今でもいくつもの農場や湖などの美しい自然が、当時と変わることなく守られているのだ。彼女が遺産をトラストに託す際に残した唯一の条件は、何も変えてはならない、ということだけだった。

美しい自然の風景をそのまま残すことの大変さを思い、彼女の偉大さをあらためて思い知った。彼女を偲ぶギャラリーは弁護士だった夫の古い事務所跡であり、「ヒル・トップ」の住まいも簡素な2階建てのありふれた農家でしかない。その他はありのままの大自然があるばかりで、新たに付け加えられたものは何も無い。我国の何某を偲ぶ記念館などとは、根本的にその哲学が異なる世界だった。

ワーズワースの散歩道は、彼のコテージ跡から次に移り住んだ住居跡まで全長3キロ弱、気持ちのいい山道だった。森の木々の下を通り、高台から眼下の湖を眺め、斜面で遊ぶ羊達を横目で見ながら、緩やかなアップダウンの道は続いた。約1時間のあっという間のウォーキングだった。

同じグループの風邪気味でグロッキーだった、60代後半と思われるご婦人も無事歩き通した。気持ちのいい大自然の空気の中を歩いて、かえって元気になったということだった。それくらい心地よい散歩道だった。ワーズワース自身もこの散歩道を愛し、自作の詩を吟じながら坂道を登り降りしたそうだ。

翌朝早めに起きて、朝もやの中をしばらく散歩した。トレッキング旅行にきたのだろうか、山仕度をした家族連れによく出会った。こんなところにしばらく滞在して、山や湖をきままに歩けたらどんなにいいだろう。

マンチェスター空港でバスと別れ、ロンドンのヒースロー空港へ向かった。イギリス最後の空港は巨大で混雑を極めていた。複雑な建物を乗り継ぎのため移動し、煩雑な安全検査を通り抜け、やっとの思いで目的のゲートにたどり着いてほっとした。

この空港の混雑振りと集まっている人種の多彩さには驚いた。まさしくサッチャーの目指した改革開放の結果が、善し悪しは別として、現われていた。確かにイギリスは活気に溢れている、しかし活躍して繁栄を謳歌しているのはイギリス人ばかりではない、いわゆるウインブルドン現象を見る思いがした。それに引き換え、帰り着いた成田は夜の9時頃だったが、閑散として人影も少なかった。  (続く)
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60 南会津の旅 弁愡浚村)
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57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
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37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
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33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
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28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
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25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
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14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
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6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
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1 東北紅葉雪見風呂
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