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僕の偏見紀行
53 風に吹かれて八丈島(3)
2008年5月10日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 青空に聳える八丈富士と裾野に広がるフリージア畑、
春の光に色鮮やかに咲き誇っていた。
▲ 八丈富士とフリージアを背景に太鼓を打つ人々、
美しい光景だった。
▲ 「服部屋敷」という有力者の屋敷跡で
行われている民謡と太鼓のショー、
素朴な味わいの唄と踊りだった
祭りの会場に着くと、八丈富士の裾野にフリージアの花畑が広がり、今を盛りと咲き誇っていた。八丈富士の山腹の柔らかな緑に、フリージアの鮮やかな赤・黄・白の群落が映えとても美しい。

観光客は一人20本まで無料だと茶店で聞いて早速畑に向かう。花は根っこから抜いて持ち帰ることになっており、そのための竹べらを貸してくれる。

なるべくつぼみのあるものを採るのだ、と係りのオバサンに教わったけど結構難しかった。思い切って根の深いところまで竹べらを突っ込むのがコツのようだった。

採った20本は係りのオバサンが丁寧に新聞紙でくるんでくれ、無事に家まで持ち帰ることができた。

茶店でお抹茶に明日葉入りの生八橋など頂いていると、かたわらに大きな太鼓がおいてあるのに気づいた。尋ねると八丈太鼓の演奏用のもので、もうすぐ始まるという。太鼓の好きな僕は、これは幸運だと楽しみにして開始を待った。

初めての八丈太鼓の出だしは、素朴でのどかだった。2人が太鼓の両側に分かれて打つのだが、一方が下拍子といってベースのリズムを刻み、もう一方の上拍子がベースに合わせ自在に演奏する。

僕が熱心に太鼓のすぐそばで見物していると、演奏していたオジサンがいろいろと八丈太鼓について教えてくれた。

八丈太鼓は本来人に聞かせるものではない。島人達が自ら楽しむためのものだ。夏の夜など砂浜に太鼓を引き出し、月の光の下で一杯やりながら、それぞれ好きに太鼓を打って楽しむ。これは島の歴史を刻んだ、多くの流人や漂流者達が、自らの無聊を慰めることからそうなったという。

この流人の島という歴史は、島の民謡にも色濃く表れている。次の日見学した、島の人々による素朴な民謡と踊りのショーも、島原や佐渡など全国各地の唄と踊りが随所に入ったものだった。

やや単調で、所作も地味な踊りと哀調を帯び唄には、遠い故郷を偲ぶ、流人達の想いがこもり、胸に迫るものがあった。使われる楽器は太鼓だけで、笛や三味線などは無い。それは簡素でひっそりとした、演ずる人自身を慰める音楽だった。

それにしても、と僕は思った。月の光を浴びながら一杯やり、そして興がのれば太鼓を打ち、かつ唄う。いいなー、これぞ人間らしい生活だ、と僕は心底羨ましかった。

教えてくれたオジサンも、数年前に都内から移住したリタイア組だった。もともと民謡が好きで八丈太鼓の魅力にはまってしまった、と嬉しそうに語ってくれた。

晴れ渡る空に八丈富士の緑の頂きが聳え、中腹には名残りの山桜の薄い緑が点在している。山すそにはフリージアの鮮烈な赤や黄が帯をなして広がっている。

その傍らの桜の木の下で、春の光を浴びて人々が楽しげに太鼓を打っている。それは思わず胸が熱くなる程美しい光景だった。

八丈太鼓は老若男女を問わずみんなが自由に打つ、下拍子のリズムにのって自由自在に楽しげに打つ、若者は激しく闘うように、あるいは挑むように打つ、黄八丈をまとった女性達は優雅に舞うように、あるいは踊るように打つ。

僕も勧められバチを持った。僕は、初めての八丈太鼓にとまどい四苦八苦しながらも、心の底から楽しかった。そして、心地よい春風と太鼓の響きはいつまでも飽きることが無かった。太鼓に魅せられ島へ移住したオジサンの気持ちが良くわかった。(終わり)
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64 インド紀行(1)遠かったインド
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62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
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57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
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53 風に吹かれて八丈島(3)
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24 知床の青いそら、光と風
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