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ボーダーを越えて
20 アボカド事始め
2004年1月1日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ カリフォルニアにも移植されたクレオーヨの一種。
▲ クリスマスに焼いた七面鳥の残りで作ったスープにアボカドを入れた、こんな簡単なものが、なかなかいけるのです。
2004年も、アボカドについていろいろお話していくつもりです。この「アボカド物語」にご意見やご質問、また提案などをお寄せください。できるだけ取り上げて、ご要望に応えたいと思っていますので、今年もどうぞよろしく。

    * * *

昨年、カリフォルニアの生産者の立場から、アボカドについて書きましたが、新年を迎えたいま、改めてアボカドの始まりからお話しましょう。

アボカドが世界中のスーパーマーケットで売られるようになったのは、この20年にもならないくらい最近のことです。国際商品としてのアボカドは、カリフォルニアで大々的に栽培されたことが始まりなのですが、アボカドの原産地はメキシコ中央から南部の高原地帯、グアテマラの高原地帯、そしてグァテマラからパナマに渡る海岸部低地の3ケ所。これらの原産地から出たアボカドの種類は、それぞれ、メキシコ系、グァテマラ系、西インド諸島系(と言っても、この種類が実際に西インド諸島に到達するのは、ヨーロッパ人の到来以降なのですが)と呼ばれ、それぞれ特徴を異にします。(それについては、すでに連載の第2回目でちょっと触れました。)

それでは原産地ではいつごろからアボカドを食べ始めたのでしょう。メキシコの1万年ほど前に人類が居住していた地点から、アボカドの種が発見されているそうですから、そのころからすでに、メキシコの先住民はアボカドを食べていたと考えられます。それは野生のアボカドなのですが、年代が下るにつれて、考古学地点で発見されるアボカドの種が大きくなっていく。つまり、アボカドの選別が繰り返されていた証拠なのですね。紀元前6千年から5千年になると、アボカドの実が一段と大きくなり、また種の形も真ん丸から卵形にと変わって、アボカドが植樹され、育てられていたことが明らかになるそうです。詳しい年代はわかりませんが、グアテマラ系や西インド諸島系も同様に、長い時間をかけて徐々に品種改良が進められたものと思われます。

こうして1万年もかけて先住民が品種改良を続けてきてくれたおかげで、メキシコやグァテマラには大変な種類のアボカドがあります。村の数だけ種類があると言ってもいいくらい。それだけ、色や形や大きさや味の違うアボカドが無数にあると言うことです。そういうアボカドの種類には特別な名前などなく、もちろん特許権なんかもありません。一把ひとからげに、クリオーヨ(または原始アボカド)と呼ばれています。こういう途方もなく長い間の先住民の努力がなければ、私たちの食べるアボカドはなかったことでしょう。

アボカドは古代からメキシコやグアテマラの先住民に大変に重宝がられてきました。13世紀初頭にメキシコ北部から現在のメキシコ市地域に移動して周辺部族を制覇し、メキシコ中央部に君臨したアズテック族が帝国を築くと、王様は果樹園に何十種類ものアボカドの木を植えたそうですよ。アボカドはヨーロッパ人による征服前のアメリカの住民にとって、貴重なカロリー源であり、タンパク質源でもあったのです。(ちなみに、アズテック帝国は1519年から1521年にかけて侵略したスペイン人によって崩壊してし、その後南北アメリカは次々にスペインとポルトガルの支配下に置かれてしまいました。)

では、スペインに征服される前のメキシコ人やグアテマラ人はどうやってアボカドを食べたのか、というと、それはよくわかっていない。どうやらグァカモーレのようにして食べたということは確からしいです。(グァカモーレについては第3回目で述べました。)アボカドをつぶして、刻んだトマトやネギ、またシラントロ(英語ではコリアンダーとも呼ばれます)を混ぜ、それをトウモロコシをひいた粉で作ったトルティーアにつけて食べるという、いまでもメキシコ人やグアテマラ人が好むグァカモーレの食べ方とほとんど変わりがありません。昨年メキシコから出版された『アボカド:メキシコの緑の黄金、ミチョアカンの誇り』というアボカド料理の本には、9種類のグアァカモーレが載っています。それほどメキシコ人にとってはグァカモーレは大切なのですね。

メキシコ南部(ユカタン半島とチアパス州)からグァテマラに文化を繁栄させたマヤ族は、アボカドを細切りにしてトルティアで巻いたり、シチューのような煮込みに、食べる直前にアボカドの細切りを入れて食べたりしたことがわかっているそうです。(食べる直前にアボカドを入れるのは、アボカドは熱にさらされると苦味が出るからです。)これもマヤ人に限りません。数年前にメキシコ市の大衆食堂でチキンスープを注文したら、どんぶりになみなみと注がれたチキンスープの上にアボカドが数切れ載っていました。ペルーやエクアドルでも同じことをよくやるそうです。アボカドは表面がスープで暖められてトロッとした舌触りになり、中はまだひんやりしていて、その組み合わせがなんとも言えないほどおいしいですよ。具のたっぷり入ったスープに、アボカドは本当にぴったりです。お雑煮に入れてもいいと思いますよ。皆さんもやってみませんか。
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