1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
縁の下のバイオリン弾き
124 動物
2016年4月1日
西村 万里 西村 万里 [にしむら・まさと]

1948年東京生まれ。大学で中国文学を専攻したあと香港に6年半くらし、そのあとはアメリカに住んでいる。2012年に27年間日本語を教えたカリフォルニア大学サンディエゴ校を退職。趣味はアイルランドの民族音楽 (ヴァイオリンをひく)と水彩画を描くこと。妻のリンダと旅行するのが最大のよろこび。
昨年末生まれたチータの赤ちゃんが公開されたというので、サファリ・パークまで見に行ってきた。

サンディエゴ動物園は世界的に有名だ。市内バルボア公園にあり、世界最大級の規模を誇っている。また郊外の丘陵地にサファリ・パークと名づけた分園をもっている。こちらのほうはアフリカやアジアに似せた環境の中、ほとんど放し飼いの動物たちが広大な草原でのびのびと生息している。動物園としては考えられるかぎりの考慮が払われているように思われる。

チータの赤ちゃんは6匹いた。母親とともに木の下、岩陰に寝転んでいてなにをするでもないが、その愛らしい姿が来園者の人気を呼んでいる。そのとなりのライオンのセクションではたてがみもりっぱなオスのライオンが腹を見せてねころんでいるめずらしい姿もみられた。この二つのセクションはむろん距離をとって分かたれていて、動物たちが一緒になることはないが、ちょっと見にはアフリカの草原に来たような感覚におそわれる。かと思うとそのそばの人工の湖にはフラミンゴが群れており、そのむこうにはカンガルーが飛び回っている、という具合だ。

しかし、サファリ・パークはまだしも、バルボア公園の動物園のほうは問題があると感じることが多い。広いといってもやはりそこは動物園、おりにいれられているわけではないが、シマウマやサイが所在なげにうろついているのを見ると、故郷の原野から遠く離れたサンディエゴに連れてこられて人間の見世物になっているのはかわいそうだという気になる。オランウータンなんか、ガラスの仕切りごしに見る姿は時に哲学者を思わせるたたずまいで、かれを見てはしゃぎまわっている人間のほうがずっと幼稚で野蛮に見えることがある。

この広い園内を歩き回るのはちょっと、という人のためにディーゼルエンジンのバスが走る。ここぞというところでドライバーはバスをとめ、キリンやゾウをゆびさして解説を加えるのだが、その間動物たちは(まわりの人間たちも)排気ガスの攻撃にさらされる。夏場は観光客のために夜9時まで営業し、大音響でロックの生演奏なんかやっているから夜行性でない動物はおちおち寝てもいられない。

もちろんサンディエゴ動物園は絶滅にひんした種の保護と育成に力をいれている。単に遠いアフリカやアジアから動物をつれてきて実物を見せる、というだけではなく、おそかれはやかれ野生のものはいなくなってしまうことを見越してその種の存続に貢献している。近い将来、ベンガル、スマトラ、シベリアの各地からトラが蒸発してしまうのは確実だ。それにひきかえ、サンディエゴ動物園では近年もトラのこどもが生まれて元気にそだっている。パンダの赤ちゃんも生まれている。そこにこそ動物園の存在理由がある、といわれればその経営にどんなに不備不満があろうとも、ごもっとも、といって引き下がるほかはないように見える。

しかし、ほんとうにそうだろうか。私は動物園そのものの基本概念に疑問をもっている。実物を見ることによってしかその動物に対する認識を持つことができなかった昔はさておき、現在では映像によって動物の生態を記録することができる。それで十分ではないか。どのみち動物とのほんとうの交流はできないのだ。早い話、世界中のすべての動物園がなくなっても、こまる人はいない。

動物のことをほんとうに心配するなら、かれらの故郷でまっとうな暮らしができるような保護に力をいれるのが筋ではないだろうか。どんなに自由にのびのびと暮らしているように見えても、それは表向きだけのことで、所詮はとらわれの身である。

それは夢物語だ、といわれるのは百も承知だ。しかし、当初は夢物語だと考えられていたことが、年月がたつにしたがってひとびとの興味を呼び起こし、世論を変え、ついには実現した、ということも少なくない。

そんなことを考えさせられたのはつい二週間前、シーワールドがオルカ(シャチ)の繁殖を中止すると発表したからだ。オルカを訓練してさまざまな芸を見せるショーがシーワールドのよびものだった。シーワールドはユニバーサル・スタジオの経営で、サンディエゴのほかにフロリダ州やテキサス州にもあるし、フランスにもある。

このシーワールドでのオルカの取り扱いが非人道的であるとして非難がたかまった。オルカにかぎらずくじらやイルカは高度に発達した知能を持っているとされている。オルカは日本ではイルカの類だとされているけれど、くじらとイルカのちがいはあいまいで、はっきりした区別はないそうだ。

そのオルカを捕獲し、狭い動物園のおりに等しい水槽に何頭もいれて一緒に生活させる。大海原では1日に100キロ泳ぐというオルカがこんな生活を強いられたら、大変なストレスに苦しむことになる。こどもが生まれると親と引き離してほかの遊園地に売り飛ばしてしまう。家族愛に富む母オルカは悲嘆のどんぞこに叩き込まれる。

そして毎日何回もショーに出演させられる。トレーナーの指示にしたがって水中から何頭も一緒にとびあがったり、トレーナーを背中のせておよいだり、観客に水をかけたりする。オルカはなにしろ同類の中でも最大の体格を持っているからこのショーは迫力がある。観客はおおよろこびだ。

でもそのストレスのために自然界にいれば人間と同じぐらいの寿命を持つオルカが、20年から30年しか生きられない。

2010年にフロリダで1頭のオルカがトレーナーの女性を水に引き込んでおぼれさせるという事件が起きた。オルカは単にトレーナーを殺しただけではなく、片腕をひきちぎったり、頭皮をはがしたりというショッキングな行為にでた。

ユニバーサルは最初トレーナーの不注意による事故だとしてかたづけようとしたが、ほかのトレーナーから、同じような事件が以前にも起こっていたという声があがった。このため世論はユニバーサルに対してきびしくなり、ついに会社を屈服させたのである。

ショーにたずさわって何年にもなるオルカがこういう復讐的な行動をとったのはこの動物が絶望的な怒りに駆られていたからにちがいない。非人道的、というか非動物的なあつかいに対する捨て身の反撃だったのだろう。

シーワールドには現在自然界から捕獲したくじらは一頭もいない。すべてシーワールド内で人工的に産み育てたくじらばかりだ。トレーナーを殺したオスくじらはこの繁殖計画の立役者で、できた子くじらを売って会社は利益を上げてきた。

そこに非難が集中したので、この人工的な繁殖プログラムの中止が決定された。ショーの内容もおおはばに改善され、サーカスのみせもの的要素は近い将来なくなるもようだ。

のこるオルカは自然界で生きる技術を持っていないということで、現在の水槽よりはずっと広い場所で余生を送ることになる。

こういう実例があるから、動物園の廃止もけっして夢ではない。野生動物を身近に見られなくなるとしたら将来の子供達にはきのどくだけれど、動物とのふれあいはなにも野生動物にかぎったことではないだろう。

サファリ・パークには「ペット・ズー」といって子供達が動物とじかにふれあうことのできるコーナーがある。でも中に入ってみるとその動物はやぎとかひつじとか、子供に害をあたえないおとなしい動物ばかりだ。それでいいではないか。

一頭のやぎがフレンドリーな感じで近寄ってきたので、私が頭をなでてやろうとすると、やにわに手に持っていた動物園の地図にかみつき、ひっぱる。敵はこの紙切れを食べることが目的だったのだ。そうはさせじと大汗かいて地図をとりかえしたけれど、動物も人間と同じだなあと思っておかしかった。彼らにとっても「花よりだんご」は真実であるにちがいない。


くじらといえば日本人にとって見過ごすことのできない問題だ。固有の文化としてくじらを捕獲し、食べてきたのに、それがいけないといってくじらを食べもしない西欧人が日本を非難する。日本はこの何十年ほとんど世界中を敵にまわして闘ってきた。

だが、くじら論争は紆余曲折(うよきょくせつ)をへて日本の完敗におわった。2年前、オランダの国際司法裁判所で反捕鯨国のオーストラリアが起こした訴訟で、敗北したのだ。

南極海でくじらをとるために、調査捕鯨という名目をかかげていたのに、調査に必要だとして日本がみずから設定した目標頭数に、実際の捕獲数が届いていなかった。要するに日本人がくじらを食べなくなったので、需要がなくなったのだ。だれも食べない鯨肉をとってもしかたがない。調査捕鯨は中止された。

和歌山県の太地をはじめとする沿岸捕鯨は存在理由があると思うけれど、これも風前のともしびといってよい。政府はくじら産業の振興のためにくじら食をすすめているが、そうまでしなければならないのなら、勝負あった、といえよう。


くじら捕獲の是非はしかしそれで終わりになるわけではないと思う。その究極の問題点は「なぜくじらを殺してはならないか」ということだ。

西洋人があげる理由はくじらの知能の高さだ。つまり人間に近い知能を備えている動物を殺すのはしのびない、というわけだ。

一方で西洋人は人間に動物の運命を決める権利があると思っている。それはどうしてかというと聖書にそう書いてあるからだ、という。そんなことをいわれたって彼らの神様を信じていない私のような人間にとってはまったく説得力がない。単に人間の傲慢であると映る。

人間が「万物の霊長」で全ての動物は人間に奉仕する存在だ。だからこそ、その階段の上のほう、少しでも人間に近い動物は優位に立てる。牛やまぐろは殺してもよいが、猿や象を殺すのはよくない、ということだ。

私はこれに同意できない。これについては30年も前に本多勝一さんが「麦とロッキード」という本の中でくわしく書いているが、こういう考え方は「優れたもののみに生きる権利がある」「劣ったものは殺されてもしかたがない」というナチの人種主義に通じる思想だと思う。

実際16世紀頃のヨーロッパではあらたに発見されたアフリカ大陸の黒人や新世界のインディオが「人間」かどうかということで大議論があった。「半人前」という意見も出された。彼らと今論議されているくじらは紙一重の差だ。

西洋人の勝手な基準で「あれは人間」「これは半人間」「あれは優秀な動物」「これはだめな動物」などと決められたらたまったものじゃない。

日本に黒人がはじめてやってきたのは宣教師から一人の黒人が織田信長に献上されたときだ。かれはめずらしがられて信長のけらいになったが、「人間かどうか」などと論議されたことはない。黒さにおどろき、すみをぬっているのではないかと疑って、信長は男をよく洗ってみろと配下に命令した。人間だと思っていなければそんなことをするはずがない。


動物愛護には賛成だけれども、その根拠が「高い知能」にある、というのは納得できないのだ。

仏教の修行僧が錫杖(しゃくじょう)といって、てっぺんに金属の輪がついた杖を持つのはその輪が立てる音で道にいる虫に警告し、ふみつぶさないようにするためだ、と小学生のとき教わった。本当なのかどうか知らないが、私はこの話が気に入っている。










最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
NEW
僕の偏見紀行
時津 寿之
NEW
老舗の店頭から
齋藤 恵
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
徒然.... in California
明子・ミーダー
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
142 黒い雨
141 ベーコン
140 根付
139 プリーズ
138 キャベツあれこれ
137 スピリチュアル
136 柿と卵焼き
135 移動と定住
134 ベジタリアン
133 王女と真珠
132 七人
131 イディオムということ
130 平等
129
128 名誉殺人
127 ラフカディオ・ハーンのこと
126 楽器
125 ビスケット
124 動物
123 アイヌ
122 ヘクター・ザ・ヒーロー
121 レッツ・リヴ・ア・リトル
120 果実の皮
119 コンニャク問答
118 安岡力也の生涯
117 事実は小説より奇なり
116 レイルウェイマン
115 火を起こす
114 ふし穴
113 ジュリー・デューティー
112 目玉焼き
111 歌に歌われる
110 組織
109 人種差別
108 丸い足
107 宗教と女性
106 ディーベンコーン
105 神の味噌汁(みそしる)
104 健さんと平戸
103 バグパイプ考
102 ないです
101 聖地
100 マッカンチーズ
99 再造の恩(2)
98 再造(さいぞう)の恩(1)
97 行水
96 かまわぬ
95 本場もの
94 グーリックさんのこと
93 ケセラセラ
92 日本人の肖像
91 センス・オブ・ワンダー
90 カティ・フラードのこと
89 屋根瓦(やねがわら)
88 一人っ子政策
87 文化の違い
86 干し野菜
85 恐れを知らないギター
84 銀シャリ
83 ターナー
82 デリシャス
81 モハメッド・アリの大勝負
80 ハンマーダルシマー
79 白無常(はくむじょう)
78 アメリカいれずみ事情
77
76 ひつじ
75 ひげにまつわる話
74 ぐちゃぐちゃ
73 宗教の周辺(2)ヘズース
72 宗教の周辺(1)翼と銃
71 となりの芝生
70 ピンピンパンパン
69 帯とバックル
68 レ・ミゼラブル
67 テーブルマナー
66 朝の穀物
65 二人松浦
64 好きこそものの上手なれ
63 パイについて
62 Xのこと
61 琴棋書画(きんきしょが)
60 爪紅(つまべに)
59 絵に描いた餅(もち)
58 ブレーキ
57 シャーロック・ホームズとカレー
56 ポール・マッカートニー
55 野蛮な茶
54 パサディナ
53 複数たち
52 玉米(ぎょくまい)
51 それにつけても
50 はしとさじ
49 ローズバーグ
48 ジャカランダ
47 サンドイッチの話(2)「O.J.シンプソンとハンバーガー」
46 バンジョー
45 ジャージー・リリー
44 工夫
43 かゆのいろいろ
42 ホイットニー・ヒューストンと「ボディガード」
41 イニシャルについて
40 無用の人
39 具眼の士
38 天使も踏むをおそれるところ
37 ビスカイーノ
36 サンドイッチの話(1)「センス・オブ・プロポーション」
35 パトリシア・ハイスミス
34 茶飲み話
33 柴五郎とジョニー・ビーハン
32 戦場のゴムぞうり
31 やきもの
30 記憶としての絵
29 アイリッシュ・ミュージック
28 乳と蜜の流れる土地
27 レディ・ハミルトン
26 Mto.
25 『チャイナタウン」
24 ドライ・ランチ
23 プリンス談義
22 帽子の話(3)「新撰組」
21 アメリカの大学から
20 帽子の話(2)「衣冠を正す」
19 帽子の話(1)「男はつらいよ」
18 マイ・バレンタイン
17 理想
16 ビリー・ザ・キッドの恩赦
15 おらんだ正月
14 シャーベット(下)
13 シャーベット(上)
12 カナダロッキーへの旅―最終回
11 カナダロッキーへの旅―11
10 カナダロッキーへの旅―10
9 カナダロッキーへの旅―9
8 カナダロッキーへの旅―8
7 カナダロッキーへの旅―7
6 カナダロッキーへの旅―6
5 カナダロッキーへの旅―5
4 カナダロッキーへの旅―4
3 カナダロッキーへの旅―3
2 カナダロッキーへの旅―2
1 カナダロッキーへの旅―1
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 7 6 0 0 7 2 7
昨日の訪問者数0 4 0 6 3 本日の現在までの訪問者数0 5 2 4 2