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アボカド泥棒 |
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2004年8月11日 |
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 | 雨宮 和子 [あめみや かずこ]
1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。 |
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▲ こんなに鈴なりのアボカドは、泥棒の誘惑のもと。 |
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▲ まだ小さいアボカドが大きくなったとき、カリフォルニア・アボカド協会発行の警告が守ってくれるかどうか… 「アボカドの窃盗は、禁錮1年、罰金5000ドル以上の罰金で罰せられる」と書いてあるけど。 |
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伊豆の寿太郎さんのアボカドを寄ってたかって食べ尽くしてしまうのは,カラスでしたね。寿太郎さんはミカンが専門だから、アボカドをカラスにただ食いされてしまっても,仕方がないと諦められるのかもしれません。でも、伊豆半島のミカン畑が全部アボカド園で、そこに一斉にカラスが押し寄せて来たら… 仕方がないでは済まされないでしょうね。
実はカリフォルニアのアボカド園にはそれと似た深刻な問題があるのです。いえいえ,カラスのことではありません。アボカド泥棒なのです。なにしろ大産地のカリフォルニアでも、アボカドがスーパーで1個2ドル近くもすることがありますから、アボカドはまさに「緑の金」(Green Gold)。そんなアボカドがたわわになっている木は文字通り「金のなる木」に見えるでしょう。そんな木が目の前にずらっと並んでいたら,働かず、投資もせずに、一儲けしようなどと思っている者には、たまらない誘惑なのに違いありません。こそ泥、大泥、計画的グループ、横流しなど、ありとあらゆる形態のアボカド泥棒が出てくる由縁です。
こそ泥は、小さな袋に詰めて持ち出す程度。大泥は車やトラックでやって来て、ごっそり盗んでいきます。計画的な泥棒になると、内部の者と結託して収穫したアボカドの一部を隠しておき,後でトラックで取りに来るということを繰り返すのです。生産者のほとんどはアボカド園には居住していませんから、盗まれてもなかなかわからない。カリフォルニアで生産されるアボカドの5分の1から4分の1は盗まれているのではないかという推定もあるくらいです。被害額たるや,大変なものです。
生産者にとっては、アボカドの木は単なる「金のなる木」ではありません。灌漑用水費、人件費、土地代など膨大な費用がかかっているのですから。そういう費用はアボカドを売った収入で賄わなければなりません。盗難防止に必死になるののも当然でしょう。警察もアボカド盗難防止や窃盗犯逮捕には目を光らせています。私は去年の秋,トーマス任せにせずに自分もアボカド栽培の知識を少々身に付けようと,毎週1度のアボカド・セミナーに通ったのですが、その第1日目に、警察からアボカド盗難の防ぎ方や見つけ方の説明がありました。頑丈な柵を付けることとか、落ち葉の下にアボカドがまとめて隠されていたら、これは後から誰かが取りにくるつもりだと考えていいとか、ちょっと考えると当たり前のようなことばかりでしたが、生産者にできることは限られているのです。
トーマスは夜間のアボカド・パトロールを雇った年がありました。彼のアボカド園が大豊作の年で、他の生産者の収穫が全部終わって値が上がるまで、彼は収穫せずにじっと待っていたのです。その賭けが当たって,アボカドの値は急上昇し始めました。となると、アボカド泥棒の活動も活発になることが予想されたのです。警備会社は毎晩不定時刻にアボカド園にやって来て、その周辺を車でパトロールしました。そんなことではこそ泥は防げませんが,大泥は寄り付かないでしょう。不幸中の幸いとでも言いましょうか,アボカド泥棒の被害額は大きくても兇暴になったことはなく、アボカド強盗という話は聞いたことがありません。それでもカリフォルニアでは、100ドル以上の農産物の窃盗は軽犯罪(misdemeanor)ではなく、重大犯罪(felony)とみなされています。農業がカリフォルニアの基幹産業の1つだからでしょう。
幸いにも,トーマスは大泥にあったことはありません。それより彼が頭を痛めたのは、使用人による横流しでした。兄弟親子全員が1カ所で働いていたとき、仲買業者と結託して、定期的に横流しをしていたのです。夕方になってからアボカドを取りに来た業者にトーマスがかち合って発覚し、彼はすぐさまその家族全員を解雇しました。警察に突き出したってよかったのですが,まぁ、それは大目に見たのです。それ以来、家族だけではなく、出身地の違う他人と必ずいっしょに働かせるようにしています。(つまり、分割統治です。残念だけど。)
仲買人とグルになった横流しは再発していませんが、トーマスは気を許してはいません。自分で小出しに売っているらしい労働者もいたりしました。そんなときトーマスは、ちゃんと見張っているぞ、という姿勢をわざわざ見せて、それが続くことを防いできました。できることなら、解雇などはしたくありませんからね。
メキシコ人だから,労働者だから、盗みをするような悪人なのだ、というのではありません。メキシコ人労働者の立場を、トーマスはこう説明します。 「メキシコでは何百年もの間、使用人は雇用者に安くこき使われてきたから,雇用者から何かを奪ってバランスを取るのは当然と考えやすいんだ。雇用関係が変わっても、そういう考え方はなかなか変わらないんだよ」 ということがわかっていても、労働者に問題があるときのトーマスは,本当に気が重そうです。
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