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僕の偏見紀行
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
2009年4月11日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 幽閉された王のアグラ城内住居からタージ・マハルを望む。どんな想いで眺めていたのだろうか。
▲ 幽閉された王の住まいの天井あたり。金と貴石の装飾が美しい。この住まいは以前に王自らが建設していた。幽閉といっても息子に楽隠居させられたようなものだろう。
▲ タージ・マハルの大理石に刻まれた精緻なレリーフ。この上縁には貴石と金飾りがほどこされている。
タージ・マハルへの道にも銃を構えた兵士の姿が多かった。それは異常に厳しい所持品検査と合わせて、背後に聳える優美な建築物にそぐわない雰囲気だった。

昨日ベナレスからデリーへ空路移動し、さらにバスでホコリの激しい街道を200km走ってアグラのホテルへ着いたのは深夜だった。乾燥した空気とホコリでのどの調子もおかしくなっていた。

ヤムナー河畔のアグラはかってムガール帝国文化の花開いた町、今も世界中からその豊富な歴史遺産を目指して観光客が集まる。周辺にはタージ・マハルの他に、アグラ城、ファテープル・スィークリー城址と3ヶ所も有名な世界遺産が存在する。

タージ・マハルへの道筋では兵士の他にみやげ物屋が並び、物売りがたむろしていた。つきまとう物売りを押しのけ、厳しい検査を潜り抜けようやく門内へ入る。大きな門の向こうには写真などでおなじみの美しい光景が広がっていた。

強い日差しを受けて白い大理石がまぶしく輝き、優美で落ち着いた、なんともいえないシンメトリーの美の極致。コルカタの雑踏やガンジス河畔で祈る人の姿に衝撃を受けた僕は、これが同じ国の光景かと目を疑う。

この墓は赤砂岩で基本形が作られ、その上に白い大理石を張り巡らしている。大理石には繊細な花や唐草模様のレリーフが刻まれ、随所に鮮やかな貴石と金細工がちりばめられ、片隅の壁を見るだけでもため息が出るほど美しい。

この墓は、一人の王がたった一人の女性の死を悼んで、22年という途方もない時間と国が傾くほどの財を費やして建造した。それにしてもこの狂気にも似た情熱を持った王の下で、国民はどんなに大変だったろうか。これに比べれば、例えば信長や秀吉といった日本の王たちの狂気と情熱は謙虚で簡素なものであった。

この情熱的な王、ムガル帝国第5代皇帝シャー・ジャハーンは、そのあまりの散財ぶりを心配した息子によって近くのアグラ城に幽閉されてしまう。幽閉といっても自ら築いた贅沢な住まいからは、亡き妻のねむるタージ・マハルがよく見える。そこからのタージ・マハルもまた、ゆったりと流れるヤムナー河畔に静かにたたずみ、絵のように美しい。

この情熱王は息子に止められなければ、さらに対岸に自らの墓として「黒いタージ・マハル」を建設するつもりだったらしい。とんでもない幸せなお方だと思う。

アグラ城は赤砂岩の堅固な要塞でもあるが、豪華な宮殿もあった。白大理石で飾られた壁の一部が剥がされたり、貴石や金細工が無くなっているのが目立つ。ガイドによるとイギリス統治下にその兵士たちが持ち去ったという。なんということか、優雅な文化に野蛮な行為を行なう精神の貧しさを思った。

旅の終わりはデリーだった。おりしもインドでは結婚シーズンで、街のいたるところでお祝いのパレードを見た。きらびやかな電飾車を先頭に、派手な制服姿のバンドがにぎやかな音楽をかなでながら行進している。インドの結婚式は何かと物入りだ。

宿泊したホテルでも庭園を借り切って盛大な結婚パーティが行われていた。夜遅くまでバンド音楽が鳴り響き、花火が盛大に打ち上げられた。

最後にガイドに案内してもらった店で、カレーやガラムマサラなどの香辛料や、冬瓜を砂糖漬けにしたとてつもなく甘いお菓子などを買い込んでホテルへ向かった。

強烈な体験と見聞の連続だったインド、翌朝僕は未消化の混沌を抱えたまま帰国便へ乗り込んだ。   (終わり)
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24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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