1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
ボーダーを越えて
27 子宝のもと?
2004年4月23日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 1924年にグァテマラ先住民家族を訪れたウィルソン・ポプノウ氏。(出典=Frederic Rosengarten, Jr.著 Wilson Popenoe: Agricultural Explorer, Educator, and Friend of Latin America, p.46)
▲ アボカド(これはニムリオ)をトルティアといっしょに食べるグァテマラ先住民の少女。(出典=上書, p.52)
前回にご紹介したウィルソン・ポプノウさんの探究心は格別なものでした。アボカド探検にグァテマラ中を駆け回ったばかりでなく、見つけたアボカド1つ1つについても、自分で味見し、栄養価を調べようと意気揚々だったようです。そのために、グァテマラを歩き回った1年ちょっとの間に食べたアボカドの数は1000個以上にもなったとのこと。平均して1日に3個も食べたことになります。それでアボカドにうんざりしたということはなかったようですから、大したものですね。

話は横道に逸れますが、私は30年近く前に、アイダホの田舎でラスベリー摘みをしたことがあります。遠くからでもラスベリーの香りがプンプンするほどどっさりなっている所を見つけ、大きなバケツを2つ持って行ってせっせと摘んでいきました。ところが1つ目のバケツがいっぱいになったころには、ラスベリー独特の甘い香りに圧倒され、その場にいるだけでもだんだん苦痛になってしまいました。それで、2つ目のバケツが半分にもならないうちに断念。それ以来ずうっとラスベリーを避けていて、それが直るのに25年はかかったものです。ラスベリーへの思い入れなど、私には皆無だったことの証拠ですね。

話を本筋に戻しましょう。ウィルソンさんは味だけではなく、アボカドの栄養価についても、自分で確かめようというやる気で満々でした。グァテマラ先住民の間では、半分に割ったアボカドで頭をこすると髪がどんどん伸びるとか、アボカドを籠の鳥に食べさせると一層いい声で鳴くようになるとか、鶏は卵を2倍も産むようになるとかいう言い伝えがあったので、ウィルソンさんは、そんなに栄養のあるものなら、アボカドだけで普通に生きて行かれるかどうかためしてみようという気になりました。

そこで、グァテマラの古都アンティグァの下宿屋に逗留していたときに、食事はアボカドだけにしてみようと決めたのです。そのことを大家さんであるセニョーラ(女将さん)に話すと、そんなことは身体に良くないと大反対されてしまいました。それでも怯まず、科学的実験は遂行しなくてはと、翌日から早速実行に移しました。

実験第2日目の朝、アボカドを朝食として食べていると、セニョーラがドアをノックしました。そしてウィルソンさんの顔を見るなり、申し訳ないけどすぐ出て行ってくれ、と言うではありませんか。ウィルソンさんはびっくりしました。
「いったい、僕が何をしたと言うのですか?」 お金はいつもきちんと払っているし、夜遅く帰ってきたことも、酔っぱらって騒いだこともなく、追い出されるようなことをした覚えは全くありません。
「何も悪いことはしていませんよ、いまのところ‥」と、セニューラは煮え切らない口振り。
それでは、なぜ?と問い詰めると、セニョーラはもじもじしていましたが、思い切ったように口を開きました。
「アボカドは食べ過ぎるといけないって、申し上げたでしょう? うちには年頃の娘が2人いるんです。若い男の人がアボカドをそんなにどっさり食べたら、娘に何をしでかすか‥ ですから、アボカドしか食べないなんていうことはすぐ止めるか、いますぐうちから出て行くか、どちらかにしてください!」
つまり、アボカドには媚薬効果があると信じられていたのです。
ウィルソン・ポプノウさんは若くても紳士でした。すぐさま実験は中止したそうです。

アボカドの媚薬的効果は、グァテマラだけでなく、アボカドを何百年と食べてきた地域全体に信じられているようです。我が配偶者のトーマスは、南米のエクアドルで除虫菊栽培指導の仕事を2年ほどしていたことがあるのですが、食堂でアボカド入りスープなどを注文すると、「今夜は情熱的なセニョリータとデートかい?」などとからかわれたそうです。(これは私と出会うずっと前のことであります。念のため。)

アボカドのそんな点が、去年の秋にスペインで開かれた世界アボカド会議の昼食の席で、話題になりました。そうしたら、同席したメキシコ人のおじさんが、メキシコにはこんなことわざがあると言って、ウィンクしました。
「アワカテ マドゥロ、チャマコ セグーロ」(Aguacate maduro, chamaco seguro)、つまり「熟れたアボカド、子宝のもと」というわけです。

トーマスの説明では、アボカドには亜鉛が多く含まれており、亜鉛は精子の製造を促進するのだということです。そのことを確認しようといろいろ調べてみたのですが、どうもこれという文献にはまだ出会うことができずにいます。ただ、アボカドが栄養価の高い果実だということは確かです。たとえば、タンパク質は普通の果実の3〜4倍はありますし、ポタシウムやその他のミネラルもたっぷり。ビタミンB6やCやEも、また繊維質もいっぱいで、おまけにコレステロールはゼロ。ウィルソン・ポプノウさんが毎日アボカドしか食べないという実験を続けていたら、アボカドの高い栄養価が十二分に証明されたに違いありません。とすると、普通の食事をした上にアボカドも食べたら精力がつく、と考えても不思議ではないでしょう。

媚薬効果が信じられているからか、それともアボカドの形のせいでしょうか、アボカド=アグァカテ(aguacate)の語源はアステカ族のナウァトル語のアウァカトル(ahuacatl)ですが、それは睾丸という意味なのです。
最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
NEW
僕の偏見紀行
時津 寿之
老舗の店頭から
齋藤 恵
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
徒然.... in California
明子・ミーダー
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
199 お葬式
198 とうとうやって来た日、そして雨
197 思い切り生きる
196 一夜が明けて
195 ヘザーと私の日本旅行記(6 下)文楽とフグ
194 ヘザーと私の日本旅行記(6 上)ショッピング
193 ヘザーと私の日本旅行記(5)多様な日本
192 ヘザーと私の日本旅行記(4 下)河津桜と温泉
191 ヘザーと私の日本旅行記(4 上)伊豆へ向かう
190 ヘザーと私の日本旅行記(3)葉山・鎌倉
189 ヘザーと私の日本旅行記(2)江戸・かっぱ橋・オフ会
188 ヘザーと私の日本旅行記(1) 日本到着
187 生ある日々を
186 花嫁の父
185 プラチナの裏地
184 家族をつなぐ指輪
183 「血の月」を追いかけて
182 ママハハだった母
181 アジア人(下)固定観念を越えて
180 ジプシーの目
179 選挙に映ったアメリカの顔
178 とうとう、きょう
177 アジア人(上)その概念
176 海軍出身
175 特攻志願
174 お祭り
173 ありがとう、で1年を
172 クリスマスプレゼントが今年もまた
171 スージー・ウォンの世界
170 秩序の秘訣
169 黒い雲の行方
168 ドアを開けたら
167 今年もまた
166 ボリビア(7)ボリビアで和菓子を
165 ボリビア(6)パクーの登場
164 ボリビア(5)卵の力、女性の力
163 ボリビア(4)小麦の都
162 ボリビア(3)米の都
161 ボリビア(2)2つの日系移住地
160 ボリビア(1)サンタクルス
159 闇の中で
158 みんなの宝物
157 新語の中身
156 年末のご挨拶
155 ピッチピッチチャップチャップ
154 神の仕業
153 ラタトゥイユ(2)レシピ
152 ラタトゥイユ(1)
151 プティ・タ・プティの最後の1片
150 ジプシーとの知恵競争は続く
149 豊かな粗食
148 中絶抗争
147 スーザン・ボイルの勝利
146 黄昏の親子関係
145 子ども好き
144 言葉雑感(8)regift
143 言葉雑感(7)「ん」の音
142 アメリカの理想
141 ときめく日の足音
140 言葉雑感(6)ミルクとは
139 ミルクの教訓
138 年末の独り言
137 投票日日誌
136 あと3日
135 ペイリンから見えるアメリカ
134 訴訟顛末記(1)まず弁護士を
133 園遊会で
132 柔の姿勢
131 言葉雑感(5)4文字言葉
130 豪邸の住人
129 言葉雑感(4)カミはカミでも
128 言葉雑感(3)ブタ年生まれ
127 言葉雑感(2)子年のネズミ
126 言葉雑感(1)グローバルなピリピリ
125 やって来た山火事(最終回)これから
124 やって来た山火事(9)いとおしい木々
123 やって来た山火事(8)現実に直面して
122 やって来た山火事(7)焦燥の2日間
121 やって来た山火事(6)私の方舟
120 やって来た山火事(5)避難準備
119 やって来た山火事(4)止まない風
118 やって来た山火事(3)第1日目の夜
117 やって来た山火事(2)第1日目の夕方
116 やって来た山火事(1)第1日目の昼下がり
115 しあわせな1日
114 チェ
113 メキシコの息づかい
112 「石の家」
111 「バッキンガム宮殿」での晩餐会
110 ケーキ1切れ
109 「豊かさ」の中身
108 イタリアの修道僧
107 3年ぶりの日本
106 キューバ:アメリカの恥
105 キューバ:バラコア
104 キューバ:甘い歴史の苦い思い出
103 キューバ:2つの通貨
102 キューバ:近過ぎて遠い国
101 ホンジュラス(最終回)去る者,残る者
100 ホンジュラス(19)シエンプレ・ウニードス
99 ホンジュラス(18)ガリフナ放送
98 あと1年、だったら
97 無信仰者のクリスマス
96 ホンジュラス(17)ガリフナ
95 ホンジュラス(16)バナナ共和国
94 ホンジュラス(15)マヤ文明の跡
93 ホンジュラス(14)牢獄の中と外
92 ホンジュラス(13)先住民の女性たち
91 ホンジュラス(12)一番安全な町
90 ホンジュラス(11)オランチョの森(下)
89 ホンジュラス(10)オランチョの森(上)
88 金鉱の陰で(追記)カリフォルニアで
87 ホンジュラス(9)金鉱の陰で(下)
86 ホンジュラス(8)金鉱の陰で (中)
85 ホンジュラス(7)金鉱の陰で (上)
84 ホンジュラス(6)原則に沿って
83 ホンジュラス(5)農地のない農民
82 移民政争とラティノの力(続)
81 移民政争とラティノの力
80 ホンジュラス(4)消え去った人々
79 ホンジュラス(3)ホテル・ナンキンで
78 ホンジュラス(2)レンピーラ
77 ホンジュラス(1)行ってみよう
76 本物を見る
75 豊かな心
74 蝶の力
73 単刀直入
72 愛の表現
71 ベネット・バーガー
70 感謝の日
69 思わぬ道草(最終回)原点
68 思わぬ道草(19)回復に向けて
67 思わぬ道草(18)人は孤島にあらず
66 「ニューオーリーンズ」に見えたもの
65 思わぬ道草(17)一歩後退の教訓
64 思わぬ道草(16)日没症候群
63 甦生の兆し
62 ニューオーリーンズとクリスチャン
61 思わぬ道草(15)もつれた糸
60 思わぬ道草(14)彼の青い目(下)
59 思わぬ道草(13)彼の青い目(上)
58 思わぬ道草(12)ローマ鎧
57 思わぬ道草(11)看護師騒動
56 思わぬ道草(10)近くの他人
55 思わぬ道草(9)ロールバー
54 思わぬ道草(8)楽観の2日間
53 思わぬ道草(7)一人三脚
52 思わぬ道草(6)長い夜
51 思わぬ道草(5)OR
50 思わぬ道草(4)ER
49 思わぬ道草(3)常習犯
48 思わぬ道草(2)目撃者
47 思わぬ道草(1)3月14日の夕方
46 訛った英語
45 イギリスの英語
44 英語とアメリカ
43 海の中に(下)
42 海の中に(上)
41 姓というマーカー(下)
40 姓というマーカー(上)
39 国籍あれこれ:選択肢
38 国籍あれこれ:彼の場合
37 国籍あれこれ:私の場合
36 ボーダーとは
35 最終回:グローバリゼーション
34 番外編:クリスマス・ディナー
33 サンタアナの風
32 お刺身パーティー
31 アボカド泥棒
30 アボカドと生きる鳥
29 カラスのご馳走
28 三つ子の魂
27 子宝のもと?
26 アボカド探検家
25 ゴールドラッシュの波紋(下)
24 ゴールドラッシュの波紋(上)
23 海を渡って(下)
22 海を渡って (上)
21 コンキスタドール
20 アボカド事始め
19 ハースマザーの行方
18 世界アボカド会議
17 フエルテ
16 ハースマザーの木(下)
15 ハースマザーの木(上)
14 鶏より馬
13 働く人々
12 花婿の父
11 シンコ・デ・マヨ
10 「奇跡の3月」
9 アボカド形の穴
8 父親不明
7 女性花・男性花
6 トーマスのギャンブル(2)
5 トーマスのギャンブル(1)
4 成熟と完熟
3 グァカモーレ
2 アボカドさまざま
1 メックスフライ
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 7 7 0 3 1 9 1
昨日の訪問者数0 4 2 4 0 本日の現在までの訪問者数0 2 9 7 6