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僕の偏見紀行
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
2008年8月29日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 檜枝岐村から御池へ向かう村はずれ。川岸に蕎麦畑が広がり、満開の白い花が美しい。
▲ 沼山峠を降りた湿原にて。まだ天気もよく体力も余裕があった。
▲ 沼尻の山小屋から眺めた雨の尾瀬沼。水墨画の世界だった。
予報では、福島県は午後2時くらいから雨らしい。そこで予定を早め、7時半には宿を出て尾瀬に向かった。

村はずれでは川沿いに、蕎麦の白い花が広がっていた。そういえばもうすぐ新蕎麦の季節、秋になると檜枝岐村の新蕎麦祭りが楽しみだ。

御池に着いたころ急に雨が降り出した。あわてて雨具を取り出したらすぐにやんだ。前途の多難を予感させる雨だった。

ロッジそばの駐車場に車を停めシャトルバスで沼山峠へ向かう。車窓にはブナの原生林が朝の光の中で広がっている。

沼山峠から歩いて尾瀬沼を目指す。尾瀬へ降る山道は一旦稜線まで上がってから下りとなる。群馬側の鳩待峠からの下りより緩やかだが、一旦登って降るのが少し辛い。

予定は峠から沼の往復2時間、沼一周2時間半の見込みだ。しかし近づく前線が気になる。降り出す前には下山したい。

森を抜け山道を下り終わると急に視界が開け、緑の湿原が一面に広がる。緑の中に黄色い花の群落が薄日に輝いて見える。雲の切れ間から日が差し、湿原には人影もない。遠くに尾瀬沼の水面と山小屋が見えている。大自然を独り占めにし、喜ばしい気持ちが湧いてくる。

山小屋で小休止の後、沼に沿った南岸コースを沼尻を目指した。沼沿いの平坦な道を想像していたが、そうではなかった。起伏に富んだ山道を大木の根っこや岩が横切っている。

沼尻への中間地点に差し掛かるころ、ついに雨が降り出した。未だ昼前なのに予定より早い雨となった。雨具のフードを深く被り、ストックをしっかりと持ち直してぬかるむ山道を急いだ。

時折視界が開け、葦の茂みと遠く霞む水面が水墨画のようで、雨の尾瀬も風情があって悪くない。しかし降り出した雨は激しさを増し、一向にやむ気配がない。大粒の雨に叩かれながらぬかるむ山道を歩くのはかなり辛い。この雨で行き交う人も少ない。

予定より遅れてようやく沼尻の山小屋に到着した。濡れたザックをおろし、雨具のジャケットを脱いでほっと一息入れる。宿で用意したおにぎり弁当と山小屋の山菜蕎麦で昼食をとった。

小屋からの尾瀬沼の眺めはまさに一幅の名画だった。岸辺の葦原には朽ちかけた桟橋が沖へ伸び、その向こうには雨に煙る水面が静かに広がっている。遠く霞む木々はこれから向かう北岸の森だろうか。

おにぎりとおやつのドーナツで元気をつけ、再び激しい雨の中を歩き出した。沼尻は沼一周の折り返し点で、ここから北岸を歩いて出発点を戻る。道は時折アップダウンがあるものの、平坦な木道が多く昼前より楽だった。

ただ激しい雨は一向に衰えず、ひたすら雨の中を歩いた。雨中の行動は晴天時よりかなり消耗が激しい。腰を下ろすこともままならず、休憩も立ったままだった。ただ雨具の機能は素晴らしく、激しい雨にもかかわらず殆ど身体は濡れてこない。学生時代の山道具しか知らない僕には驚きだった。

最後の沼山峠への登りも辛かった。降る時には楽な山道も、雨中の登りとなると苦しい。アメをなめなめ、足下を見ながらひたすら登るしかなかった。

やっとの思いで沼山峠へ着いたのは出発して6時間後だった。休憩を多くとったとはいえ、かなりの予定オーバーだ。シャトルバスに乗り込み雨具を脱いでほっとした。

往復約16K、休憩をいれて6時間の山歩きはこうして終わった。降り止まぬ雨にはまいったが、終わってみると楽しかった。

宿に戻り大急ぎで温泉へ入る。疲れた身体に滑らかなお湯がじんわりとしみてくる。頑張って雨の尾瀬を歩いたかいがあった。檜の香り一杯の湯舟につかり、思い切り手足を伸ばすと身体がゆらゆらと漂いだす。

夕食は山菜と蕎麦、イワナなど山の幸一杯だった。特に蕎麦は宿のオカミサンが毎日手打をしており、自慢の一品だ。かみ締めると、もちもちとこしがあって、蕎麦特有の香りと甘みが口にひろがる。蕎麦は噛んではいけない、のど越しだ、ともいうが本当に旨い蕎麦はかみ締めないと勿体無い。疲労回復にと、手足を突っ張ったサンショウウオのまる揚げも出たが、尻尾をかじって勘弁してもらった。
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