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葉山日記
106 歯みがきチューブ
2009年12月19日
中山 俊明 中山 俊明 [なかやま としあき]

1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。

ニックネームはTOSHI、またはiPhone-G(爺)
▲ 仕事部屋の外に作りつつあるテラス。数年前なら1日仕事だったのですが、1ヶ月間工事ストップのまま。寒さを理由にサボタージュするなど、数年前には考えられなかったことです。
歯みがきチューブにいつ見切りをつけるかがむつかしい。なくなりそうでなかなかなくならない。

もうそろそろ終わりかと思っても、逆さまに立てておいたり、次には歯ブラシの柄で下からこすり上げながら巻き上げるとまだけっこう使える。それで終わりかと思うと、出口に近い肩の周辺にへばりついているのがあって、これだけで1週間はもつ。それでもまた最後じゃなくて、ハサミでチューブを切り裂き、こそぎ落とせばまだ2−3日分はある。そろそろと思い始めてから1ヶ月はなんとかもつのだ。
 
僕は「もったいない運動」の共鳴者でもなく、倹約家でもなく、けちでもない。スーパーで「おーい」とカミサンを呼び、「このおせんべいとチョコレート買っていいかな」と相談するところを見た同行の近所の奥さんは、僕ら夫婦を「締まり屋」と思うかもしれないが、近づいてきて小さな声で僕を叱るそのあと妻の話を聴けば背景は分かるはずだ。「いい加減にしなさい。会社を辞めるときや家を建てるときはなんの相談もなく勝手に決めるくせに、たかだか2−3百円のお菓子を買うのに大きな声で相談はないでしょう。恥ずかしいっ。勝手にカゴに放り込んだらいいでしょう!」。つまり、なんでも妻に相談する良い夫を演じているだけなのだ。

はみがきチューブを使うたびに人生を思う。人間はあちこちガタが出てきてもそうすぐに死ぬわけではない。運動をしたり、食事制限をしたり、薬を飲んだり、手術をしたり、なんだかんだで「延命」を図り、この「終わりかと思えばどっこいそうでもない時間」が意外にも長かったりする。最終段階かと思ったら、その状態が何十年も続く人もけっこう多い。

人生は歯みがきチューブと似ている、とつくづく思うのである。基本的には浪費家である僕が、歯みがきチューブに早めの見切りをつけられないのは、使命尽きてごみ箱に捨てられる歯みがきチューブを不憫に思う気持ちがあるからだ。そういえば10年乗ったマイカーも、サスペンションががたがたしだしたり、ブレーキディスクからきいきい音が鳴り出したり、ガタが来はじめた。車のでいえば10年は還暦か。鉄でできた車が10年でガタが来るのに、生身の人間は平均で80年以上もつ。不思議といえば不思議な話である。

自分の老化を感じたのは、60歳をすぎたとたん急に病院通いが増えてからだ。先生は「加齢現象ですね」と言葉に気を遣うが、なあに老化は老化だ。それまでの不摂生がたたって、生き死にには関係はしないにしても、まあ次から次へとなにか出てくる。親知らずの抜歯手術を手始めに、白内障手術、人間ドックで2箇所の警告、いずれも事なきを得たが、その後も高血圧やらなにやらで日々薬を飲まされている。つい先日も「血液中にアヤシイ細胞発見」ということで、膀胱に内視鏡を突っ込まれた。これもシロだったが、「ガンが疑われるグレーゾーンの数値」やら、「アヤシイ細胞」やら、わが肉体もあちこちから小さな警告音が鳴り始めたのは間違いがない。

もうひとつ。自分のからだが、自分の意思どおり動いてくれない、と感じるのは庭や大工仕事のときだ。数年前は好きな仕事をやれる日は夜明け前に起きだして、ご近所の迷惑をにならない始動時間をじりじりと待った。それが最近はまず「やろう」という気分に盛り上げていくのに時間がかかるようになった。そして仕事を始めれば、ぶつかる、ひっかかる、つまづく、落ちる、ケガをするの連続。仕事をしているより休憩時間のほうが長い。そして道具を置いた場所をつぎつぎに忘れる。庭職人が脚立から落ちて引退時期を悟る、という話はよくきくが「こういうことなのかなー」と、道具探しに疲れて空を見上げることが多くなった。その見上げた木の梢の先にさっきまで使っていたノコギリがひっかかっていたするのだ。脚立に乗って木を伐り、途中で休憩のため降り、それらを忘れて脚立をかたずけ、結果ノコギリを置いた場所が分からなくなる、という相当重症のもの忘れである。

これらをどう考えるべきか。歯みがきチューブも無限ではないですよ、いずれなくなることを考えたほうがよいですよ、という最後通牒か。それとも、これからがけっこう長いですからね、手入れをして命を大事にしましょう、というシグナルか。もっとも体が頑健であれば、僕のことだからまだまだ若いつもりで無茶をやるだろうから、このくらいの警告がつねに出ていたほうがいい、という考え方もある。分相応、というやつだ。実力以上に自分を過大評価して、分以上のことに突っ込んでいく傾向大なところがあるから、ややセーブした生き方に方向転換していくいいチャンスなのかもしれない。

昨年までは近親者の不幸による喪中案内が目立ったのだが、今年は、年賀状のやりとりだけで長いこと会ってはいないにしても、10歳以上年上の知り合いの奥さんから「主人の生前はお世話になりました」とか、「社長存命中はお世話になりました」という部下の方からの喪中案内がちらほら。ことしの正月にはご本人から年賀状をいただいたから、そのあと亡くなったことになる。はがきでいただく文面からはどんな最期だったのか想像するすべもないが、周辺からは(不敬なたとえで恐縮だが)歯みがきチューブが終了した、という報告が増えてきている。自分自身もいつか「終わり」があることををいやでも意識せざるをえない年齢になってしまったということなのだろう。

1週間前には、ロードレーサー(自転車)で通行人を避けようとして転倒、1ヶ月危篤状態が続いたあと亡くなったという同年齢の元同僚の死、ロッククライミング中に滑落、重態だという、元気いっぱいだった大先輩の話。こちらは「緩やか」ではなくて「ある日とつぜんの災難」が降りかかったわけだ。しかし「緩やか」と、楽しいことをやっている最中の「とつぜん」は、本人にとってどちらが幸せなのか。

エッセイでの病気の話はこれで終わりにしたい。最後ついで「エッセイで触れない3つのテーマ」―病気、蓄財、孫。その孫に関する話。

以前、「自分が子孫に残したいのは笑顔」と書いたことがある。それはたぶん残せそうだ。中身がいっぱいではち切れそうな歯みがきチューブを見る、ぷよぷよ歯みがきチューブは、努力なんかしなくても、慈愛に満ちたいい笑顔になっているに違いない。
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