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僕の偏見紀行
66 インド紀行(3)ダージリンへの道
2009年3月1日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ バグドグラ空港を出てダージリンへ向かう街道風景。トラックやバスで混雑していた。乾季のためホコリがひどく長時間のドライブはのどを痛める。
▲ 山中の村で開かれていた選挙集会。聴衆が街道まで溢れ、演説が終わるまで通行できない。並んだ車は終わるのを静かに待っていた。
▲ 街道途中峠の町にて、車の行き交う狭い道路わきをダージリン鉄道の線路が走っている。
強い印象を受けたコルカタで1日半滞在した後、ヒマラヤ山麓、紅茶の里ダージリンを目指す。コルカタ空港からダージリンへの入り口バグドグラ空港へは約1時間のフライトの予定だ。

相変わらず空港のセキュリティチェックは厳しい。国内線なのに、電池類は機内持ち込み禁止、機器からはずして預ける必要があった。そばで武装兵士が見張っているので緊張する。

仲間の写真愛好家が、持ち込んだ大量のフィルムをエックス線検査にまわされ、悲鳴を上げた。傑作を狙って高感度フィルムや重そうな一眼レフを持ってきたらしい。

ダージリンは、ネパール・バングラデシュ・ブータンなどとの国境に近い。そのためバグドグラ空港は一段と警戒が厳しく、緊張感が漂う。旅客機のかたわらの滑走路では、軍用機がすさまじいエンジン音を響かせて離発着を繰り返している。

空港のレストランで昼食の後、バスでダージリンを目指す。30人乗りくらいのバスは、乗り心地がいいとはいえないがインドではましな部類だ。ガイド込みで総勢10名なので座席に余裕はある、贅沢はいえない。

ダージリンまでの距離約90Km、標高2100mまで登る4時間の山岳ドライブが始まった。街道はバスやトラック、荷車の往来が激しい。場所柄か行き交う軍用トラックが目に付く。道は舗装されているがあちこち穴ぼこがあってホコリ、振動が激しい。乾季の乾燥した空気とホコリにはバス移動の度に悩まされた。

街道脇の村々には、自動車修理・家具・陶器などの職人の店が連なり、眺めていて飽きることが無い。荷物を満載したトラックが路肩で脱輪し大きく左に傾いて止まっている。それを子供たちが取り囲んで見つめている。

1時間ほど走った後バスは山道へ差し掛かった。乾いた土色の風景とホコリに疲れた目に、木々の緑がやさしい。道路は狭い、九十九折りのカーブを繰り返しながら高度を上げていく。

やがて道路脇を走るダージリン・ヒマラヤ鉄道の線路が見えてきた。この鉄道はダージリンの紅茶運搬用に建設されたものだが、現在は可愛らしいその姿からトイ・トレインと呼ばれ、マニアから愛されている。世界最古の山岳鉄道として世界遺産にも登録された。

バスは果てしなく続くヘヤピンカーブをじりじりと登っていく。離合するのがやっとの道をトラックやジープタクシーが激しく行き交う。カーブでいきなり線路が道を横切る。もちろん踏み切りは無い、これは怖い。

とある村では選挙のため多くの人が集まった集会が行われていた。家々は急斜面に点在し、道路は村を貫く街道のみ、そしてそれが広場をかねている。そのため演説が終わるまで自然と道路は通行止めになる。たちまち渋滞した車はじっと待つしかない。退屈なのでバスを降り演説を聴く。言葉は理解できないが熱く語りかける候補に拍手し手を振った。

村を過ぎると道路はとてつもない崖っぷちを走った。見下ろすと深い谷間に夕闇が迫っている。所々崖っぷちの路肩が崩落している、転がる落石が見える。大変な道路だ、もう日も暮れかかり不安になる。しかしダージリンへはこの道しかない。こんなとんでもないところに避暑地を開いた英国人の根性には恐れ入った。

峠の茶店で休憩しさらにバスはヘヤピンカーブの崖っぷちを走った。とっぷりと暮れた闇の中、深い谷の先の高い峰の中腹に遠い町の灯が見えて来た。あれがダージリンか、やっと着いた。そう喜ぶとまだ途中の村、ぬか喜びだった。ダージリンへ到着したのは、そんな村々をいくつも通り抜けた後、出発して約5時間過ぎた夜の8時頃だった。バスを降りると標高2100mの高地は寒かった。

ホテルは斜面を利用した瀟洒なコテージ風の造りで、眼下にダージリンの町の灯が見えた。ようやく部屋に落ち着いた。広い部屋には大きなベッド、そして暖炉には石炭が燃えていた。

早速ホコリを落とそうと風呂の支度をする。清潔なバスタブにお湯が順調にたまっていく。安心して一旦荷物の整理に戻った。いざ風呂へとバスルームへ入ると様子がおかしい。風呂のお湯がぬるい、蛇口から出ているのは冷たい水だ。

驚いてフロントへ電話する、すぐに礼儀正しいスタッフが飛んで来た。そしてバスルームを見るなり言った。「バスタブ一杯にお湯を張ってはいけません。お湯は35リットルしか出ませんから。」つまり部屋毎に付いている給湯器の能力は35リットルで、一旦それを使い切るとお湯が満タンになるのに30分を要するというのだ。

地元の若者らしいスタッフは極めて丁重に、礼儀正しく、しかし断固としてそう言うのだった。彼は僕を、サーと呼びつつ、物を知らぬジャパニには困ったもんだという顔つきであった。多少の不自由は平然と耐えるイギリス魂を学べというのだろうか。

しばらく待ってあらためてバスルームへ入る。いつ水になるかとヒヤヒヤしながら、手早く身体を洗い熱いシャワーを浴びる。夜のダージリンは日本の冬並みに寒い。風邪を引かないよう急いでベッドにもぐり込むと、なんとあったかい湯たんぽがあった。久しぶりの湯たんぽはしみじみ暖かく心地よかった。     (続く)
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