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ボーダーを越えて
35 最終回:グローバリゼーション
2004年12月31日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 結実したアボカド(いわば、アボカドの新生児)。
▲ 「我が子」アボカドの生育状況を調べるトーマス。
▲ トーマスの農園でアボカドを採取するメキシコ人労働者。カリフォルニアのアボカド産業が萎んでも、彼らはメキシコには帰らないだろう。
アボカド、その中でも特にハースは、人間が手を懸ければ懸けるほど、それに反応して実を結ぶといわれています。もちろん、正しい手の懸け方でなければいけませんが。つまり、温暖で、強風に当たらなくて、水はけのいい場所に他の木との間隔を十分あけて植え、適切な養分とたっぷりの水を与えると、木になる実がグーンと増えるというのです。それに開花期の気温とか、実がなってからは暑すぎないとかの自然条件が整えば完璧です。そういう好条件がすべて重なったとき、1本のアボカドの木に何個ぐらいの実がなりうるものなのか(つまり収穫量の最高限度)は、まだはっきりわかっていません。

トーマスは今年特に新しいことをしたわけではありませんが、開花期でも結実期でも理想的な自然条件に恵まれたらしく、どっさりと実がついて、今年度は記録的な豊作になるとホクホクしていました。実の生育が進むと、重たすぎて枝が折れたり、根元からひっくり返ってしまう木が続出したと、「サンタアナの風」でレポートしましたね。今月16日から2日間と半日、サンタアナの強風で4万ポンドのアボカドが落ちてしまったということも。

それからダブルパンチがあったのです。29日の午前1時過ぎ、恵みの雨をもたらしてくれる冬の嵐で、雨といっしょに時速65マイル以上の強風も吹き荒れ、たった1時間半ほどの間に6万ポンドものアボカドを落としてしまいました。こんな強風に揺さぶられると、かろうじて落ちることを免れた実も、柄の部分が弱まっているので、後から落ちやすくなるのです。とすると、12月の風による被害は合計10万ポンドでは収まらない量になるでしょう。先行きが大いに不安なアメリカ経済のことを考えると、来年は私たちにとっては厳しい年になりそうです。

でも、それよりもっと根本的な問題がトーマスを待ち構えています。彼だけではありません。カリフォルニアのアボカド産業の生死にかかわる問題なのです。というのは、去る11月30日、メキシコ産アボカド(ハース)の全面的輸入をカリフォルニアとフロリダとハワイのアボカド生産州を除く47州に2005年1月31日から、そしてその2年後にはアボカド生産3州にも許可すると、アメリカ政府が発表したからです。

メキシコ産アボカドは、害虫問題で80年以上もアメリカへの輸出が禁じられていました。(この「アボカド物語」がメックス・フライの話で始まったことを覚えていらっしゃいますか。)メキシコのアボカド産業の有力者たちは、メキシコ産アボカドのアメリカ市場進出のために、長年アメリカ政府に圧力をかけてきました。アメリカのアボカド市場は拡大する一方で、国内生産だけでは需要に追いつかず、チリやニュージーランドからの輸入がすでに伸びており、消費量こそメキシコよりはるかに小さいとはいえ、販売額は世界最大なのですから、政治家との強いつながりを持つメキシコのアボカド産業の有力者たちが、アメリカとの交渉に圧力をかけ続けたのも、まぁ当然と言えば当然ですね。

こうして見ると、アボカドをめぐってアメリカとメキシコが衝突しているように思われますが、よく見ると、現在のグローバリゼイーションの特色である大企業と小規模生産者との対立像が浮かび上がってきます。まず、アメリカ市場に輸出できるメキシコの生産者は、厳しい品質管理に呼応できる質を保持でき、メキシコ政府が課す高い検査料や輸出手数料が出せるだけの資本のある大生産者に限られているということ。そして、メキシコにはデルモンテやドールというアメリカ資本の果実会社や、規模拡大ができたアメリカのパッキングハウスが進出して、メキシコ産アボカドのアメリカ輸出を促進しているということを見逃してはなりません。

他方、カリフォルニアのアボカド生産者の大多数は植付け面積10エーカー以下の小規模生産で、小麦やトウモロコシや大豆の生産者と違って、アメリカの農業政策を動かせるような力を持っていません。メキシコ産アボカドの輸入許可を、カリフォルニアとフロリダとハワイには2年間遅らせるというのは、生産者の賦課金で運営されているカリフォルニア・アボカド委員会が必死に働きかけて、やっと政府から取り付けることができたギリギリの譲歩だったのです。

一方、メキシコ国内では、政治力を持たない小規模生産者は、アメリカ市場進出がもたらす多大な利潤獲得からは取り残されていき、メキシコの所得格差はますます拡大していくのではないでしょうか。こういうメキシコの小規模アボカド生産者を考えるとき、私には忘れられない人がいます。タラスカン(Tarascan)というメキシコの先住民族のプリシヤーノ・ヒメネスさんです。

南北アメリカ大陸の先住民全部がそうであるように、タラスカンもヨーロッパ系の移住者に差別され続け、社会の底辺に置かれています。それでもヒメネスさんは大学を卒業し、ミチョアカン(Michoacan)州のタカンバロ(Tacambaro)という出身地の田舎町でアボカド生産協同組合を組織し、その所長として組合員の生産力向上を指導しながら組合を運営しています。その組合へ、私もアメリカやオーストラリアのアボカド生産者の一行といっしょに2回行ったことがあるのですが、どちらのときも、ヒメネスさんは組合員たちと、我々のために歓迎昼食会を開いてくれました。

その第1回目のときです。昼食会が済んで会場を出るときに、私はヒメネスさんに直接お礼を言おうと握手を求めたら、ヒメネスさんは私の手を固く握り、私の目をじっと見て、
「私たちは同じ人種なのですから、団結しましょう」
と言ったのです。
私は胸に熱いものがこみ上げてくるような思いになりました。

白人系に牛耳られた社会の中で、自分の仲間を守り、引き上げようと一生懸命なヒメネスさんは、同じく有色人種の私を、互いの大昔の先祖の出身も共有しているかもしれないと見て、親近感を持ったのでしょう。ヒメネスさんの組合のような少数民族の小規模生産者は、アメリカ市場進出の仲間には入れてもらえないのです。そのことを忘れないようにしなければ、と私はつねに思ってきました。

あと数年したら、トーマスのアボカド生産も採算が合わなくなるかもしれません。それでも、私はアボカドのことは追求していくつもりです。それにはまだまだ勉強が必要。これからもっとアボカドについて学び、アボカド生産者たちについても理解を広げていかなければなりません。たとえば、南アフリカやケニヤやタンザニアのアフリカ諸国、またチリやペルーやブラジルなどの南米諸国でも、アボカド栽培は急速に広まっていますが、そういうアボカド生産を、グローバリゼーション進行の中に位置づけていかなければいけないでしょう。いまはそれができる力がないので、途切れつつもこれまで2年間連載してきました「アボカド物語」は、ここで一応終了いたします。読み続けてきてくださった皆さんに、心からお礼申し上げます。

2005年からは「ボーダーを越えて」というタイトルで、幅広いテーマを拾ってエッセイを連載するつもりです。そこにアボカドが再登場することもあるでしょう。皆さんもアボカドを食べ続けてくださいね。健康と美容のためにも。
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35 最終回:グローバリゼーション
34 番外編:クリスマス・ディナー
33 サンタアナの風
32 お刺身パーティー
31 アボカド泥棒
30 アボカドと生きる鳥
29 カラスのご馳走
28 三つ子の魂
27 子宝のもと?
26 アボカド探検家
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23 海を渡って(下)
22 海を渡って (上)
21 コンキスタドール
20 アボカド事始め
19 ハースマザーの行方
18 世界アボカド会議
17 フエルテ
16 ハースマザーの木(下)
15 ハースマザーの木(上)
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13 働く人々
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11 シンコ・デ・マヨ
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4 成熟と完熟
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