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ボーダーを越えて
36 ボーダーとは
2005年1月1日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 名もわからない白い実。晩秋のイギリス南東部の田園地帯で。もうとっくに小鳥に食べられて、小鳥の越冬に役立っていることだろう。そのおかげで、この実の次の世代はどこか別なところに芽を出すに違いない。
明けましておめでとうございます。今年もよろしく!
研究会の皆さんの声がたくさん聞こえるような、ますます活発なサイトにしていきましょう。

2004年いっぱいで「アボカド物語」を一段落させようと考えるようになったころから、その後は是非、ボーダー(border)について考えるエッセイを書いていきたいと思うようになりました。第1回目では、まず、なぜボーダーを考えたいのか、説明させてください。

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ボーダーというと、すぐ国境のことが思い浮かぶが、国に限らず、州でも県でも、市でも町でも、区でも自分の敷地でも、崖っぷちでも、地面の広がりの端っこの線がボーダーである。いや、地面とは限らない。着物やスカートの裾も、シーツやタオルの端っこも、芝生の縁に沿った花壇や灌木の植え込みもボーダーであって、あるものの区切りをはっきりさせる線のことだ。そういうすべてを囲い込んだボーダーというものを、私は意識している。だから英語で言うと、bordersと、複数形を考えている。

私がボーダーについて考えていきたい理由はいくつかある。まず第1に、住んでいるところが、アメリカとメキシコとの国境(international border)のすぐそばで、いやでも応でも日常生活にボーダーが深くかかわっている。

第2に、東海岸のニューヨークがそうであるように、西海岸のカリフォルニアではボーダーを越えてさまざまな国からいろいろな人々が集まっていて、アメリカのボーダーの外のものが中にどんどん入り込んでくる。私自身、また私の連れ合いも、その一員であり、私の親友はアルゼンチン生まれである。友人や知人の出身国を数えたら20カ国近くもあり、アメリカ生まれの2世や3世の先祖を計算に入れたら、出身国の数はもっと増える。そういう人たちと触れ合うのが普通という生活を、ここ30余年続けてきた自分の視界を点検したいという気持がある。

第3に、私は日本でもアメリカでも真ん真ん中にいたことがほとんどなく、心理的にはつねにボーダーの近くで生きてきた。つまり、社会の主流に属したことがないのだ。小学生の頃は、両親の離婚問題で私は転校に転校を繰り返し、「新しく来た子」として外から中を覗くことを何度もやり直さなければならなかった。また、名の知れた大学へは行ったけれど、当時は女子学生は私の学年ではたった7人で、真剣に扱われたことがなかった。というか、そう扱われて主流に入るという方法を私は知らなかったのだ。知りたいとも思わなかったのだが、逆に主流の外にある、型にはまらなくてもいい自由が、私には魅力的だった。ボーダーの近くにいる方が、外のことがよく見えるし、外側の視点で中を見ることもでき、その方が内側の本質が見えやすいことも往々にしてある。ボーダー周辺に立っている人々からも、私はそのことを感じる。だから、そういう人たちから、私は別な視角を学びたい。

もう1つ、全く個人的な理由がある。自分の原点に戻るということだ。それは、自分が世界のどこに位置しているのかを悟った若い日のときのこと。きっかけは母の他界だった。私の母は、離婚などと大きな声で言えない時代に、離婚に踏み切り、私を育てた。日本の経済はシングルマザーに十分職を提供するほどには発展していないころで母は大変苦労したが、離婚によって自分を解放し、人間として大きく飛躍していくのが、子どもの私の目にもはっきりわかった。理屈っぽい私に、「女らしくしなさい」などとは1度も言ったことがなく、「やりたいことはなんでも、思い切りやりなさい」と言ってくれた。だから私が東南アジアについて勉強したいと言ったら応援してくれたし、何の疑いもなく大学に送り出してくれたのだ。が、経済的には厳しかったので、私は国立大学に育英会の奨学金をもらって行くしかなかった。

母は政治的にもリベラルで、当時出現し始めた「過激派学生」の世界観と行動に、私以上に理解を示していた。が、私が大学在学中に、ガンの再発と転移で倒れ、約1年間入院した後、母は他界してしまった。自分に万が一のことがあっても娘がちゃんと大学を卒業できるようにと、母は生命保険に加入していてくれていたのだが、それに手を付けずとも、奨学金と家庭教師のアルバイトで、私は学生生活を続けることができた。そのとき、気が付いたのである。家族が全くいなくなってしまった二十歳の娘が、大学教育を受け続けられるというのは、それが可能なほどに日本が豊かになった証拠である。が、日本の豊かさはアジア諸国の民衆を踏み台にして可能になったのであり、日本の社会に踏みつけられた母もアジアの人々を踏み台にして生きたことになる。かく言う私自身も同じことであり、そのことを忘れてはいけない、と。

単純なピラミッド図式に基づいた幼稚な理論だけれど、ときは1968年の春、テト大攻勢の後のことで、ベトナム戦争特需で日本の重工業はどんどん発展し、日本経済は高度成長を遂げていたときだから、私は自分の幼稚さが恥ずかしくはない。むしろ、本質を把握した認識だと思う。

世界の超大国であるが故に世界のあちこちで人々を服従させ、踏みつけているアメリカに住んでいる私は、間接的に同じことをしているのだ。そのからくりを明らかにするには、まず自分の生活の中にどんな風に超大国主義の傲慢さが浸透しているか、見つめてみなければならない。そのためにボーダーを考えながら、自分のいる位置を自分自身にはっきりさせたいのである。

と、まぁ、こんなことを考えているのですが、理屈で固めるつもりはありませんから、ご心配なく。日常生活の中での出来事や出会いの中で、ボーダーを考えていこうと思っています。
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