1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
ボーダーを越えて
183 「血の月」を追いかけて
2014年4月19日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ ブラッド・ムーン(アリゾナ大学のレモン山スカイセンターにあるスチュワード天文台から撮られた写真)
http://www.huffingtonpost.com/2014/04/15/blood-moon-eclipse-photos_n_5152258.html
1年以上もエッセイをお休みしてしまいました。すみません。そのもともとの原因は2007年の山火事にあるのですが、それから農園を復旧させ、生活を立て直すことで、必死の作業をし、そのためにストレスが頂点に達したままの日々が続いたのです。

でもようやくなんとかそこから抜け出せる目処がついてきました。それでエッセイ執筆に復帰しようと胸を膨らませたのですが、焦るばかりでなかなか書き出せません。書きたいことは山ほどあるのですが、頭と時間の調整がまだうまくできないのです。なんだか歌を忘れたカナリアのようです。でも、とにかく取りかかることにしました。たいへんにぎこちない文章ですが、復帰第1号として大目に見てください。

 * * *

今月14日から15日にかけて、月食がありました。それもただの月食ではない。皆既月食なのですが、ただの皆既月食でもない。なんと、月が赤く見えるようになる月食なのです。その赤とは、ブラッド・オレンジのような深い赤で、Blood Moonと呼ばれます。(それを日本語では「ブラッド・ムーン」とカタカナ英語で呼ぶそうですね。どうして「血の月」と日本語で言わないのでしょう?)

まだ若かった頃、一人でローマへ行ったときに泊まったペンジオーネの食堂で、生まれて初めてブラッド・オレンジなるものを見て、その毒々しいほどの深く濃い赤にびっくりしたものです。月食の際に、月がそれと同じような色になると、ラジオやテレビでさかんに宣伝(?)されていました。そんな珍しい月食を見逃すのは惜しい気がします。

でも、心配なのはお天気。何しろ我が家は海のすぐ近くにありますから、いまごろは霧が空を覆うことが多いのです。夜の11時半ごろ、2階のパティオに出て空を見上げると、大丈夫、空は晴れています。再び午前12時過ぎに出てみると、月食が半分ほど始まっているのが見えます。でも月はあんまり赤くはありません。赤くなるのはもっともっと遅くなってから、とラジオで言っていましたから、ちょっと一眠りしておこう、と思って長椅子に横になりました。

ふと、目が覚めると、3時半近くです。あら、たいへん、と起き上がってパティオに飛び出すと、霧が張り込めていて、月はおろか、すぐ近くの外灯もくすんでしか見えません。なんと残念な… 

でも、霧は海岸から遠ざかれば遠ざかるほど薄くなっていきますから、内陸のほうへ行ったら、晴れているかもしれません。さいわいにも、我が家のすぐ近くには、まっすぐ東に(つまり内陸のほうへ)向かう高速道路があります。ちょっと内陸のほうへ行ったらブラッド・ムーンが見えるかもしれません。

「ちょっと月食を見に行ってくるわ」と連れ合いに声をかけていこうかとも思いましたが、彼はぐっすり眠っています。こんなことで起こすのも可愛そうなので、そのまま何も言わずに出かけることにしました。

時間が時間ですし、霧が出ているので、辺りはシ〜ンとしています。見通しが悪いので、スピードは出せませんし、ほかにどのくらいの車が走っているのかもよくわかりません。私は制限速度以下のスピードで、緊張しながら東へ向かって車を走らせました。

これよりもっともっとひどい霧の中を運転したことがあります。映画と夕食を済ませた帰りで、高速道路に乗った途端、霧が深くなったのです。文字通り、一寸先も見えません。それで窓を開けて頭を出し、脇の車線のマークを見ながらのろのろ、のろのろ、何マイルも運転しました。高速の出口も、直前まで行かないと見えないほど、深い霧でした。こわかったですよぉ…

月食の夜の霧はそれほど深くはありませんでしたが、やはりこわいです。霧の中でもスピードを出して無謀に運転する人がいるからです。5マイルほど行きましたが、ゆっくり運転して来たので、もっと遠くへ来たようなきがしました。でも、霧はさほど薄くなっていません。かなり奥まで霧が出ているのかもしれません。それなら諦めよう。

次の出口から高速道路を下りて道路の上を渡り、帰る方向に向かおうとしたとき、そこは地面から少し高くなっているからでしょう、霧が薄くなっていて空が見えました。見上げると、月も見えるではありませんか。でも月食は終っていて、色もいつもの白っちょい普通の色でした。

がっかりしただろう、って? いえ、それがそうでもなかったのです。夜明け前のこんな時間に、霧の中を車で走って血の色の月を見ようと一生懸命になった自分が、おかしくもあり、いとおしくさえ感じられたのです。そしてこんなことができるというのは、それだけストレスから解消された証拠。そのことにとてもうれしくなりました。

私が見逃しても、ブラッド・ムーン現象はちゃんと起きたのだから、なにも問題はない――そう思うと、すっきりしました。

ロサンジェルスに住んでいる友人は、月食を見に、グリフィス天文台まで行ったそうです。天文台は混雑していたとか。上には上がいるものですね。
最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
NEW
僕の偏見紀行
時津 寿之
NEW
老舗の店頭から
齋藤 恵
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
徒然.... in California
明子・ミーダー
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
199 お葬式
198 とうとうやって来た日、そして雨
197 思い切り生きる
196 一夜が明けて
195 ヘザーと私の日本旅行記(6 下)文楽とフグ
194 ヘザーと私の日本旅行記(6 上)ショッピング
193 ヘザーと私の日本旅行記(5)多様な日本
192 ヘザーと私の日本旅行記(4 下)河津桜と温泉
191 ヘザーと私の日本旅行記(4 上)伊豆へ向かう
190 ヘザーと私の日本旅行記(3)葉山・鎌倉
189 ヘザーと私の日本旅行記(2)江戸・かっぱ橋・オフ会
188 ヘザーと私の日本旅行記(1) 日本到着
187 生ある日々を
186 花嫁の父
185 プラチナの裏地
184 家族をつなぐ指輪
183 「血の月」を追いかけて
182 ママハハだった母
181 アジア人(下)固定観念を越えて
180 ジプシーの目
179 選挙に映ったアメリカの顔
178 とうとう、きょう
177 アジア人(上)その概念
176 海軍出身
175 特攻志願
174 お祭り
173 ありがとう、で1年を
172 クリスマスプレゼントが今年もまた
171 スージー・ウォンの世界
170 秩序の秘訣
169 黒い雲の行方
168 ドアを開けたら
167 今年もまた
166 ボリビア(7)ボリビアで和菓子を
165 ボリビア(6)パクーの登場
164 ボリビア(5)卵の力、女性の力
163 ボリビア(4)小麦の都
162 ボリビア(3)米の都
161 ボリビア(2)2つの日系移住地
160 ボリビア(1)サンタクルス
159 闇の中で
158 みんなの宝物
157 新語の中身
156 年末のご挨拶
155 ピッチピッチチャップチャップ
154 神の仕業
153 ラタトゥイユ(2)レシピ
152 ラタトゥイユ(1)
151 プティ・タ・プティの最後の1片
150 ジプシーとの知恵競争は続く
149 豊かな粗食
148 中絶抗争
147 スーザン・ボイルの勝利
146 黄昏の親子関係
145 子ども好き
144 言葉雑感(8)regift
143 言葉雑感(7)「ん」の音
142 アメリカの理想
141 ときめく日の足音
140 言葉雑感(6)ミルクとは
139 ミルクの教訓
138 年末の独り言
137 投票日日誌
136 あと3日
135 ペイリンから見えるアメリカ
134 訴訟顛末記(1)まず弁護士を
133 園遊会で
132 柔の姿勢
131 言葉雑感(5)4文字言葉
130 豪邸の住人
129 言葉雑感(4)カミはカミでも
128 言葉雑感(3)ブタ年生まれ
127 言葉雑感(2)子年のネズミ
126 言葉雑感(1)グローバルなピリピリ
125 やって来た山火事(最終回)これから
124 やって来た山火事(9)いとおしい木々
123 やって来た山火事(8)現実に直面して
122 やって来た山火事(7)焦燥の2日間
121 やって来た山火事(6)私の方舟
120 やって来た山火事(5)避難準備
119 やって来た山火事(4)止まない風
118 やって来た山火事(3)第1日目の夜
117 やって来た山火事(2)第1日目の夕方
116 やって来た山火事(1)第1日目の昼下がり
115 しあわせな1日
114 チェ
113 メキシコの息づかい
112 「石の家」
111 「バッキンガム宮殿」での晩餐会
110 ケーキ1切れ
109 「豊かさ」の中身
108 イタリアの修道僧
107 3年ぶりの日本
106 キューバ:アメリカの恥
105 キューバ:バラコア
104 キューバ:甘い歴史の苦い思い出
103 キューバ:2つの通貨
102 キューバ:近過ぎて遠い国
101 ホンジュラス(最終回)去る者,残る者
100 ホンジュラス(19)シエンプレ・ウニードス
99 ホンジュラス(18)ガリフナ放送
98 あと1年、だったら
97 無信仰者のクリスマス
96 ホンジュラス(17)ガリフナ
95 ホンジュラス(16)バナナ共和国
94 ホンジュラス(15)マヤ文明の跡
93 ホンジュラス(14)牢獄の中と外
92 ホンジュラス(13)先住民の女性たち
91 ホンジュラス(12)一番安全な町
90 ホンジュラス(11)オランチョの森(下)
89 ホンジュラス(10)オランチョの森(上)
88 金鉱の陰で(追記)カリフォルニアで
87 ホンジュラス(9)金鉱の陰で(下)
86 ホンジュラス(8)金鉱の陰で (中)
85 ホンジュラス(7)金鉱の陰で (上)
84 ホンジュラス(6)原則に沿って
83 ホンジュラス(5)農地のない農民
82 移民政争とラティノの力(続)
81 移民政争とラティノの力
80 ホンジュラス(4)消え去った人々
79 ホンジュラス(3)ホテル・ナンキンで
78 ホンジュラス(2)レンピーラ
77 ホンジュラス(1)行ってみよう
76 本物を見る
75 豊かな心
74 蝶の力
73 単刀直入
72 愛の表現
71 ベネット・バーガー
70 感謝の日
69 思わぬ道草(最終回)原点
68 思わぬ道草(19)回復に向けて
67 思わぬ道草(18)人は孤島にあらず
66 「ニューオーリーンズ」に見えたもの
65 思わぬ道草(17)一歩後退の教訓
64 思わぬ道草(16)日没症候群
63 甦生の兆し
62 ニューオーリーンズとクリスチャン
61 思わぬ道草(15)もつれた糸
60 思わぬ道草(14)彼の青い目(下)
59 思わぬ道草(13)彼の青い目(上)
58 思わぬ道草(12)ローマ鎧
57 思わぬ道草(11)看護師騒動
56 思わぬ道草(10)近くの他人
55 思わぬ道草(9)ロールバー
54 思わぬ道草(8)楽観の2日間
53 思わぬ道草(7)一人三脚
52 思わぬ道草(6)長い夜
51 思わぬ道草(5)OR
50 思わぬ道草(4)ER
49 思わぬ道草(3)常習犯
48 思わぬ道草(2)目撃者
47 思わぬ道草(1)3月14日の夕方
46 訛った英語
45 イギリスの英語
44 英語とアメリカ
43 海の中に(下)
42 海の中に(上)
41 姓というマーカー(下)
40 姓というマーカー(上)
39 国籍あれこれ:選択肢
38 国籍あれこれ:彼の場合
37 国籍あれこれ:私の場合
36 ボーダーとは
35 最終回:グローバリゼーション
34 番外編:クリスマス・ディナー
33 サンタアナの風
32 お刺身パーティー
31 アボカド泥棒
30 アボカドと生きる鳥
29 カラスのご馳走
28 三つ子の魂
27 子宝のもと?
26 アボカド探検家
25 ゴールドラッシュの波紋(下)
24 ゴールドラッシュの波紋(上)
23 海を渡って(下)
22 海を渡って (上)
21 コンキスタドール
20 アボカド事始め
19 ハースマザーの行方
18 世界アボカド会議
17 フエルテ
16 ハースマザーの木(下)
15 ハースマザーの木(上)
14 鶏より馬
13 働く人々
12 花婿の父
11 シンコ・デ・マヨ
10 「奇跡の3月」
9 アボカド形の穴
8 父親不明
7 女性花・男性花
6 トーマスのギャンブル(2)
5 トーマスのギャンブル(1)
4 成熟と完熟
3 グァカモーレ
2 アボカドさまざま
1 メックスフライ
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 7 5 9 6 7 2 8
昨日の訪問者数0 4 0 6 3 本日の現在までの訪問者数0 1 2 4 3