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僕の偏見紀行
83 シルクロードの旅(6)国境越え
2009年11月16日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ その流れをたびたび変えて、地域の歴史を翻弄してきたアムダリア川。バスから撮影。悠久の時の流れを思わせる堂々たる大河だった。
▲ トゥルクメニスタンに入って砂漠地帯を抜けると綿花畑が広がっていた。若い女性らしき人たちが炎天下で収穫に励んでいた。
▲ ブハラの職人の町で見かけた刺繍をする婦人。伝統の民族模様が美しい。かたわらにコウノトリ型のハサミが見える。
下痢は夜明け前にはなんとか治まった。だがなんとなくスッキリしない。早起きして紅茶を沸かす。こんな時に備えて、旅行用の電気ポットを持ってきたのだ。今日から生水はやめることにする。

封印されたボトルのミネラルウオーターでも、やはり初めての国でのがぶ飲みはよくなかった。水が変わると体調に気をつけろというのは本当だった。

当分の間、沸かした紅茶をを持ち歩くことにする。食事も少し控えめにしよう。そしてこれも持参した保存食のクロワッサンとハチミツ、現地食では野菜スープとナンなどを頼りにして当分は生きていこう。

それにしても情けない、おのれのふがいなさを痛感する。同行のクロカワさんは、60代後半くらいだが、いたって元気、バザールではでかいソフトクリームを旨そうに食べていた。その後の夕食でも、前菜からメインのボリュームたっぷりの肉の串焼き、デザートまで平然とたいらげる。

辺境の地を目指すなら、どこでも眠り、何でも食って、どこでもクソできること、と彼はいう。なるほどおっしゃるとおり。

こちらから押しかけておいて、トイレが汚い、食事が合わない、お湯がでないなど、余計なお世話だろう。現地からすれば、文句があるなら来るなということだ。

今日は待望の国境越え、何が起きるか分からない。現地の事情は分かった上で来たのだ。いざとなったら野グソでも立ちションでも厭わない、そう覚悟を決めた僕は気持ちを引き締め、ついでにケツの穴も引き締めつつバスに乗り込んだ。

綿花畑の続く街道の先、両側が荒れた草地の向こうに突然国境が見えてきた。残念ながら国境周辺は撮影禁止、でもばれないだろうとデジカメを構えた途端、ドライバーに真顔で注意される。警備の兵士に見られるとまずいらしい。

越境前のトイレ休憩のためゲートの手前で一旦停車。トイレはと見ると、道路わきの細いあぜ道の100mほど先にあった。なにやら心細げな小さな建物がポツンと立っている。

仕切りを隔てて男女それぞれ大小兼用が1つずつ。こちらのトイレは和式に近い大小兼用の一穴式が多い、ただ開口部は狭く細長い長方形をしており、小の際に的を絞るのが難しい。

都会のホテルやレストランは西洋式の水洗トイレが完備しているが、突然水が流れなくなるところもあって油断ならない。

国境のトイレはどうだったか、扉をあけて僕は立ちすくんだ。どういったらいいのか、「死屍累々」「阿鼻叫喚」「修羅の巷」嗚呼!衝撃のあまり、支離滅裂で意味不明な言葉が脈絡なく頭の中を駆け巡る。

先客の残したものに折り重なるように広がる○ンコの山々。合間にはなぜかペットボトルが転がっている。これでどうやって所定の位置までたどり着くのか。

こうなったら外で立ちションと思ったが、あたりはバスをとめた道路から丸見えで、附近にはイタリア人の団体もたむろしている。僕は泣く泣く再びトイレへ向かうしかなかった。有難いことにホテルを出てから、大の方はもよおす気配がなく、まさしくこれは天の情けか。

初めてまじかに眺める国境は思ったより簡単なゲートで守られ、武装した兵士が警戒している。その奥のほうに事務所の建物が見えている。道路はゲートで遮断されているが、その両脇は雑草と砂礫の原野が広がっている。

事務所に入ると女性の係官が税関申告書のチェックや荷物の検査を一人でやっていた。あまり能率がいいとはいえない。僕らはガイドが付いて世話をしてくれるが、現地の人は大荷物を抱えたまま行列しており大変だ。まわりには兵士や税関職員みたいな男達がうろついているが知らん振り。女性係官がひとりノロノロと作業する。

通りかかる若い兵士が時々陽気に英語で挨拶する。応えてやると嬉しそうに笑う。まだあどけない少年のようだ。手続きは面倒で時間はかかるが、堅苦しい雰囲気は少ない。しかし現地人に対しては大荷物を開けさせて調べるなど、結構厳しい。

時間はかかったが無事出国できた。そこからバスで緩衝地帯のぎりぎりまでガイドに送ってもらい、残り数百mを荷物を持ってとぼとぼと歩く。脇を荷物を満載したトラックが追い越していく。照りつける太陽の日差しは厳しくホコリが舞い上がる。

トゥルクメニスタンのゲートがに到着。若い兵士のパスポートチェックを受けて事務所へ向かう。古い村役場のような建物の前には手続きを待つ人々の行列があった。ここで迎えのガイドと落ち合う予定だが未だ到着していない。

暑いので日陰を探して座り込む。まわりは現地人の家族連れ、スエーデン人の団体などで混雑している。スゥエーデンの人に暑くて大変ですね、と挨拶する。するとこの暑さが珍しくて楽しいとのこと。なるほどそういうこともあるのか、と感心する。

退屈なので附近をブラブラして警備の兵士に話しかける。こちらはなかなか固いイメージであいそが悪い。それでもいろいろ話しかけていたら、忙しいので話はダメだ、と色白の頬を赤らめながら去っていった。こちらの兵士は一段と若く、純情でまじめな印象が強い。

待たされるうちに、またトイレに行きたくなった。辺りを見回してもそれらしいものは見当たらない。少し離れたところにトラックをとめた広場が見え、その先に川が流れているようだ。なにくわぬ顔で列を離れ川に向かう。アシの茂る向こうに茶色の結構豊かな水量が流れている。

岸辺のアシの原に向かっての立ちション、広がる大空の下、悠々と流れる川に向かってのそれは実に爽快だ。いい気分で列に戻ると、現地の子供が僕を指差して笑いながら何か叫んだ。しまった、彼に見られたしまったか。僕は日本人特有の曖昧スマイルを浮かべてごまかすしかなかった。

30分以上待ってようやくガイド到着、太目のオバサンだ。日本語がダメで英語ガイドだが、僕にも分かりやすい英語を話す。気のいい女性で、汗をかきかき手続きのため事務所のあちこちを駆けずり回る。

無事ビザも取れ、全ての手続きが完了したのはウズベキスタン側で出国手続きを開始してから2時間半が経過していた。さすがに疲れた僕らは国境を出たところで待っていたバスに乗り込みほっとした。

バスはしばらく砂漠地帯を走った後、暴れ川ともいわれるアムダリア川にさしかかる。この川は度々その流れを変えることで歴史的にこの地域を翻弄してきた。この川によって国境が変わり、ホラズム王国の首都さえも転々としたのだ。

向こう岸がかすむほどの大なのに、わたる橋はなぜか急場しのぎの仮設橋のような造りだ。鉄骨の上に鉄板をしいて土をかぶせた、凹凸の激しい橋をバスは進んだ。少し離れたところに新たな橋の建設が行われているのが見えた。

延々と続く車列の合間を薪を満載した荷車がロバに引かれて通っていく。また新しい国に入ったのだ、と嬉しくなった。(続く)
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
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67 インド紀行(4)ダージリン滞在
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65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
46 秋空の下、いくつかの再会
45 白神の森の宝
44 挑戦!乗鞍岳
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42 北東北ローカル線の旅(3) 雨の下北恐山
41 北東北ローカル線の旅(2) うみねこレール
40 北東北ローカル線の旅(1) 春のうららのドリームライン
39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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