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僕の偏見紀行
91 ベトナム紀行(1)「僕の1号線」はどこに?
2010年3月7日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ホーチミンの街角。いたるところに露店と屋台が広がっている。食事時になると路上レストランが賑わう。
▲ ベンタイン市場前のロータリーを疾走するバイクの群れ。これを渡るには、一定の速度でゆっくり歩くこと、決して途中で止まったり走ったりしてはいけない。
▲ ホテル前のサイゴン川を渡るフェリー。ここにもバイクがぎっしり。片道1人500ドン(2円50銭)、所要時間3分の船旅。夕方乗ると涼しくて心地よかった。対岸には昔ながらの古い町並と人の暮らしがあった。
沢木耕太郎さんの紀行文に「1号線を北上せよ」というのがある。

ベトナムのホーチミンからハノイまで国道1号線をバスで北上するというものだ。

それを読んだ時から、いつかはベトナムをきままに旅したいものだ、と思っていた。

沢木さんは、自らの内なる声に従って、「1号線」を北上する旅にでた。

彼は、誰にも北上したい「1号線」があるはずだ、それは「3号線を南下する」でもいいし、バスに乗らなくてもいいではないか、という。

そしてそんな「夢見た旅」をみんな持っているはずだと。

かって僕は、彼の「深夜特急」を読んで、大きな衝撃を受けた。僕はその頃既に社会人で、忙しい日々の仕事に追われていた。この本で彼は、香港からロンドンまで、ユーラシア大陸を路線バスで横断する、という壮大な一人旅に出る。

こんな旅もあるのだ、もっと若い頃にこんな旅のあり方に気付けばよかった、と思いつつ時は流れた。

そして今、僕はようやくきままな自由時間が持てるようになった。果たせなかった夢を実現したい、そんな思いで数年前から少しずつ短い旅をするようになった。そしてもっときままに、「僕の1号線」を探す旅をしたい、そう強く思うようになった。

ホーチミン、旧サイゴン市はベトナム戦争当時、そこでの出来事が日々の新聞紙上を賑わした。開高健が朝日の特派員として米軍の作戦に同行し、ジャングルの中で解放戦線軍に包囲されて死を覚悟した、という記事もあった。

これが最期と、カメラマンと撮りあった彼の消耗しきった顔が忘れられない。晩年の傑作「輝ける闇」には、戦火の中でしたたかに生きるサイゴンの喧騒と混乱が魅力的に描かれていた。

僕も「僕の1号線」を探しにベトナムへ行こう。そしてホーチミンのチョロンの喧騒や安宿の集まるデタム通りを歩きたい。こうしておそまきながら僕の「夢見た旅」は始まった。

当初は往きの航空券だけ手配し、後は現地で成り行き任せとも考えた。しかし見知らぬ国で、いきなりホテル探しから始める旅は、この年でいささか辛い。結局軟弱な心に負け、往復の航空券とホーチミン8泊、タイのバンコク2泊のホテルを予約した。

あとは現地でその日の風まかせ、気の向くまま歩きまわろう、そう決めて12日間の一人旅に出た。ゴロゴロとスーツケースを引っ張ってはいるが、気分は憧れのバックパッカー。

10時過ぎに成田を発ったベトナム航空機は6時間半後、ホーチミンの国際空港に到着した。この巨大な国際空港は明るく活気に溢れていた。見知らぬ国で初めて空港から出る時は期待と不安で胸がおどる。熱帯の暑い空気と出迎えのカードを持った人たちの人垣に圧倒される。

人の渦をやり過ごしてタクシー乗り場を探す、しかしよく分からない。うるさい客引きも寄ってこない。暇そうに休憩していた警備員らしきオジサンに声をかけ、タクシーを呼んでもらう。

空港から市内まで渋滞が無ければ30分くらいらしい。どこを通っているか皆目見当がつかないが、運転手任せだ。一応メーターが動いているので大丈夫だろう。

予約した「リバーサイドホテル」に到着、1泊朝食付5800円のエコノミーホテル。サイゴン川に面したクラシックなつくりのホテルだ。部屋は大通りと反対の裏側だが、ツインで広く問題なし。大通り側はサイゴン川の眺めがいいが、通りの車やバイクの騒音が深夜までうるさいらしい。

しかし先ほどのフロントの女性はニコリともせず無愛想だった。アオザイを着て気取っているのか、ろくに挨拶もしない。しかし旅は始まったばかり、細かいことは気にすまい。

早速Tシャツと短パンに着替えて町へ出る。日差しが厳しい、気温は35度以上らしい。ホテル近くをぶらつくと、通りはきらびやかな飾りが施されていた。旧正月(テト)だった。そういえばベトナム戦争当時、新聞紙上で「テト攻勢」「テト休戦」などの文字をよく見かけたものだ。

電飾で飾られた通りを家族連れが行き交い、町はお祭り気分で僕の心も浮き浮きしてくる。近くの高級ホテル、マジェスティックの玄関先では、中国風の獅子舞が若者によって行われている。ただ後程、旧正月のおかげで僕の旅は制約を受けることになってしまった。

夜はぶらぶら15分くらい歩いてベンタイン市場そばのフォー専門店へ行く。店に行くのに、道路を埋め尽くして走るバイクの流れを何度か渡る。通り一杯のバイクが奔流となって疾走する。いやはや聞きしにまさる物凄い数のバイクだ。少しでも気が臆したら渡れない。

店では鶏のスープの麺、フォー・ガーを注文する。隣のオジサンが食べてる、骨付き肉と野菜いため、それに白いご飯とスープも旨そうだ。次はあれを食べたい。

期待していた本場のフォーは旨かった。ダシのきいた、さっぱりとした酸味と適度な辛味のスープ、そしてのど越しのいい米の麺、これに数種類の香草を載せて食べる。旨い上に安く、僕の口にとても合う。

デザートのスイーツも合わせて500円もかからない。一人で気軽に食べるにはもってこいだ。沢木さんも一人旅の食事に困ったら、3食これでも充分しのげる、ということが分かり安心したらしい。

夕食後、歩行者天国になった大通りをぶらついてホテルに戻る。夜になっても蒸し暑い。本日3度目のシャワーを浴び着替える。これではこまめに洗濯をしないと間に合わないなあ、とぼんやり考える。ところで明日は何をしよう、どこへ行こう。そう思っているうちに眠くなってきた。       (続く)
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91 ベトナム紀行(1)「僕の1号線」はどこに?
90 マイ・センチメンタル・ジャーニー
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87 シルクロードの旅(10)ちいさなリンゴ
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84 シルクロードの旅(7)未知の国へ
83 シルクロードの旅(6)国境越え
82 シルクロードの旅(5)ブハラ、深夜のトイレ
81 シルクロードの旅(4)ブハラへの道
80 シルクロードの旅(3)アレキサンダー大王が来た街
79 シルクロードの旅(2)青の都サマルカンド
78 シルクロードの旅(1)タシュケント到着
77 小笠原の旅(7)惜別
76 小笠原の旅(6)小笠原海洋センター
75 小笠原の旅(5)母島列島
74 小笠原の旅(4)宝石の島、南島
73 小笠原の旅(3)ザトウクジラの海
72 小笠原の旅(2)BONIN ISLANDS
71 小笠原の旅(1)波路はるかに
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
69 インド紀行(6)ガンジス川の夜明け
68 インド紀行(5)夜行寝台「ハウラー・カルカ・メイル・2311号」
67 インド紀行(4)ダージリン滞在
66 インド紀行(3)ダージリンへの道
65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
46 秋空の下、いくつかの再会
45 白神の森の宝
44 挑戦!乗鞍岳
43 北東北ローカル線の旅 (4)津軽じょんがらの夜はふけて
42 北東北ローカル線の旅(3) 雨の下北恐山
41 北東北ローカル線の旅(2) うみねこレール
40 北東北ローカル線の旅(1) 春のうららのドリームライン
39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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