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縁の下のバイオリン弾き
2 カナダロッキーへの旅―2
2010年11月2日
西村 万里 西村 万里 [にしむら・まさと]

1948年東京生まれ。大学で中国文学を専攻したあと香港に6年半くらし、そのあとはアメリカに住んでいる。2012年に27年間日本語を教えたカリフォルニア大学サンディエゴ校を退職。趣味はアイルランドの民族音楽 (ヴァイオリンをひく)と水彩画を描くこと。妻のリンダと旅行するのが最大のよろこび。
▲ カラル・ストリート(バンクーバー)スケッブックより
●バンクーバーのおみやげ屋で月琴を買うこと(下)


店主は売れない月琴を厄介払いできたことがよほどうれしかったらしく、「これを持ってって下さい」といって、1面に万里の長城の絵、1面に詩句が書きつけてある男物のりっぱなせんすをくれた。

こういうなりゆきになろうとはまったく思いもかけないことだった。私たちはこの朝4時半に起きて6時40分発の飛行機でサンディエゴを発ち、ポートランドを経て昼前にバンクーバーに到着した。すぐにホテルに荷物をおろし、町を見物しに外に出た。『ホップ・オン、ホップ・オフ』といって所定の場所で乗り降りできる観光バスの切符をもっている。

最初に港に行った。河口をへだてて向こう岸に高い山がそびえている。そのへんには近代的なガラスばりのビルがたくさんあるがふるいレンガづくりの建物も多く歴史を感じさせた.バンクーバー・ルックアウトという、市を一望に見渡せる展望台にのぼったあと、我々はガスタウンというふるい街区にむかった。事前に調べてここにアイリッシュ・パブがあることがわかっている。その南には中華街がある。

しかし我々が歩いている道は繁華街を一、二本はなれているだけだというのにひどくさびれた感じで中には板をうちつけた店もある。どこにつれて行かれるか知らないリンダはだんだん不安になったようだ。
「こんなところでおそわれたらどうしようもないんじゃないの」
「もうちょっと行くとカラル・ストリートだ。そこに中華街があるんだ。月琴の糸巻きをそこでかえるかもしれないんだ」
カラル・ストリートにたどりついて、その道を南に向かって歩き出したが荒廃した感じはますます強まるばかりだ。ごみごみした小路で壁に向かって立ち小便している男を見るにおよんで私はくるりと向きを変えた。

「ブラーニー・ストーン」というアイリッシュ・パブでビールを飲んだ。アイルランドなまりの強いバーテンダーに聞くと毎晩ライブがあるけれどジャム・セッッションはやっていないという。せっかくフィドル(ヴァイオリンのこと。民族音楽の場合、 英語ではヴァイオリンをフィドルという。「屋根の上のヴァイオリンひき」の原題は「フィドラー・オン・ザ・ルーフ」)を持ってきたのにとがっかりした。

今度は繁華な通りを歩いて港にもどり、観光バスに飛び乗った。もうどこにも降りないでただ見物するつもりである。

バスはいろいろな場所を通り、運転手は親切にガイドをしてくれるのだが、さっきのビールのために私はただただ眠い。自然に頭が垂れて舟をこぎ始める。ところが、「これから中華街に入ります。サンフランシスコについで北米第2の中華街です」というアナウンスを聞いてぱっと目がさめた。みると立派な牌楼(門)があってバスはそれをくぐって中にはいって行く。両側はすべて中国の店。

そのうちにバスは、中に中国式の大きい屋根が見える塀のそばを通った。
「ここがスン・ヤッセン公園です。中に中国文化センターがあります」と運転手は言う。スン・ヤッセンとは孫逸仙の広東語読みで、中国建国の父、孫文のことである。彼は広東人、というか客家人だから英語でも広東語読みを採用している。
「公園は何時まで開いているの」と誰かが聞く。
「7時までです」という答えに私はがばとはね起きた。
この時5時で、公園は閉まっていると思ったのにまだ開いているという。それならぜひ見てみたい。
「ここで、ここで降ろしてくれ」と所定の場所でもないのに無理におろしてもらう。

公園は「中山公園」という。中山は逸仙とおなじく孫文の別号だ。まったくの中国の庭園で奇岩怪石にかこまれた池には蓮の花がさきみだれ、見たこともないほどふとった鯉がゆうゆうと泳いでいる。ジグザグに折れ曲がった橋の先にはあずまやがある。竹やぶがあり、これも見たこともないほど大きな葉をゆらしているふきの群れがある。もうまるで西安に帰ったあんばいですっかりうれしくなってしまった。

十分に散策を楽しんで我々は文化センターのおみやげ屋に入った。
「楽器はありますか」
「楽器?もうしわけありませんがありませんね」
「じゃこのへんに楽器屋は?」
「唐人街(中華街のこと)には楽器屋はないと思いますよ」
私はがっかりしてそこを離れた。

「あそこに入ってみましょうよ」とリンダがいう。見ると道をへだててもう一軒おみやげ屋がある。
「むだじゃないかな。チャイナタウンには楽器屋はないってさっきの人がいってたから...」
でも我々はいちおう入ってみた。そしてそこで月琴をみつけ、100ドルで買ったというわけだ。
  (続く)
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