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67 大ボケ小ボケ
2013年2月10日
吉田 美智枝 吉田 美智枝 [よしだ みちえ]

福岡県生まれ、横浜市在住。夫の仕事の関係で韓国ソウルとタイのバンコクで過ごした。韓国系の通信社でアシスタント、翻訳、衆議院・参議院で秘書、韓国文化院勤務などを経て現在に至る。自作のアクセサリーをBeads Duoというブランドで販売しながら、韓国の主に女性たちについてエッセーを執筆中。『朝鮮王朝の衣装と装身具』(共著)、韓国近代文学選などの翻訳がある。
▲ インディアンアゲートとピュータ(真鍮)パーツで…。アゲートのいろいろな色がとてもきれい。
▲ ビーズワークはやはり自然の光の下が一番。で、夜は計画を立てたり好きな本を広げて…。
『あ、それ、また北鎌倉円覚寺!』

我が家でときどき交わされるやりとりである。

円覚寺とは、あの鎌倉にある円覚寺である。だが鎌倉観光の話でも歴史的逸話の話でもない。相手がひとの(とくにこちらの)話をさも自説であるかのように(思い込み)披露したときに揶揄を含め相手に気付かせる場合に使う。

そもそもなぜ『北鎌倉円覚寺』なのか…。

数年前に九州から私の母親が上京した(東京ではなく我が家のある横浜に来た)ときのこと。「どこに行きたい?」と聞く私に、母は、鎌倉のあるお寺に妙香池(ミョウコウチ:注)という池があるらしい、その池を一度見ておきたい、といった。

それには理由があった。珍しい名前だが、母の名前も妙香と書く(タエカと読む)。自分と同じ漢字をもつ歴史的な池を見ておきたいというのだ。

母の名前は、父親(私の祖父)が付けた名前で、「こんな名前、きっとお気に入りの芸者さんか誰かの名前をつけたのよ」と母はいつも少々不満そうだった。名前がもとでからかわれた経験があったのだろうか。母の早逝した父親は粋人?の面もあったらしい。

しらべてみると、その池は鎌倉の円覚寺の庭にあることがわかった。鎌倉・円覚寺…行くには車より電車が便利よね、JR横須賀線の北鎌倉駅を降りたすぐのところにあるらしいの。

そう夫に話して3分後、夫がふと口を開いた。
『円覚寺なら北鎌倉で降りたらいいんじゃないか』
『えっ?? そ、それっていま私から聞いた話じゃ…。』
一事が万事とはいわないがこんなやりとりが結構ある。

それ以後、似たようなことが起きると『あ、また北鎌倉…!』となる。たいていは私がいうセリフなのだが、これも最近あやしくなってきた。義理の妹(夫の弟の妻)相手にそれをやりそうになったのだ。前回彼女が来て我が家で話した話を、さも私の意見のように…。

『アッ、こ、これってヤスコさんから聞いた話よね?』
慌てて口ごもるが、アッブナイアブナイ! これボケの兆候? 頻度が多い夫が大ボケなら、にわか仕込み?の私は小ボケ?(めまいがしそうだった。が、夫よりはまだましというわずかな優越感に支えられている)

我が家に10年住んだ姪が、学生時代に横浜にある京料理の老舗レストランでアルバイトをしていたときのこと。
月変わりの昼食のお弁当“花御膳”を楽しみに、月に1度訪れる80代の夫婦がいた。
でもなぜかその月は2週間前に続いて2度目。

『あなた、今月の花御膳もおいしいわね〜』
『うん、今月は来られないかと思ったが、来てよかった!』
『ほんとうに!』
店員全員が思わず顔を見合わせたという。

一緒にこうして老いていけたらいいな。
どちらが大ボケでどちらが小ボケかわからなけれど…。
だが、ちょっとまてよ。もしかしたらこの夫婦、どちらかが本当のボケで、どちらかはうまく合わせているのかもしれない。う〜ん、だとしたら人生奥が深い。こんなやさしいオトボケの度量、私にあるかしら。
(蛇足だが、店を出る老夫婦をみなほほえましい思いで見送ったという)

前述の円覚寺妙香池、お寺の前庭にたしかにあった。一目でわかる立派な池ではないけれどひっそりとして風情のある池だった。母はうれしそうだった。寺と池を背景に同行の妹と母の写真を数枚パチリ! これで今回の親孝行はぬかりない。そう思ったとたん…あ、あ、デジカメにSDカードが入っていない。大ボケ…誰のことでもない、私のことだった。

(注)妙香池
円覚寺に創建当初からある池。1335(建武2)年の境内絵図に既に描かれている。その後、改修がなされたが、現在は江戸時代初期の絵図に基づいて復元されている。
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