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かくてありけり
51 仰げば尊し
2009年1月1日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
 6年前に始めた「清っさんの切り抜き帳」は50回を区切りに終了し、新たに「かくてありけり」と題して再スタートすることにした。私自身も還暦という折り返し点を過ぎて生活リズムが変わった。この辺で気分を一新したい。セカンドライフの日常で見たこと、聞いたこと、疑問に思ったことや感心したことを、身辺雑記としてお伝えしたい。

 昨年3月に定年を迎えたとき、無事ゴールに漕ぎ着けた安堵感と解放感にどっぷりと浸った。とりわけ管理職のマネージメント業務がなくなったのはうれしかった。一息ついて、嘱託として同じ職場で週3日働き始めたが、自分一人の始末だけをつければよいのは気楽だ。仕事に自分の知識とスキルが活かせるのは幸せだし、なによりも現場で実務に携われるのは楽しい。半年余り経過して自分なりの方法論もつかめてきた。

 一方、仕事以外にもやりたいことがたくさんあった。現役のころは割ける時間がなく、あえて優先順位を下げて「我慢、我慢!」と封印してきたものが解禁になるのは心が弾んだ。思いつくままに挙げると、自分史作成とルーツ調べ、我が家のアルバム整理、旧友との懇親、旅行、読書、映画鑑賞、博物館・美術館めぐり、PCのスキルアップ、週末菜園、蕎麦打ち教室、方言調査、古文書教室etc。
 あれもやりたいこれもやりたいと欲張りすぎの感はある。これだけのことを一気に全面展開することはできない。相手次第のこともあり、まだ手が付いていないのもある。できるところからぼちぼちとで丁度良いだろう。熱しては冷める繰り返しだが、一つ一つに取り組んでいる時は「トンボ釣りきょうはどこまでいったやら」のように童心に帰って、夢中になっている。

 師走に入って間もないころ、小学校時代の恩師に48年ぶりにお会いした。長いご無沙汰で、ご健在かどうかも不明であったのであきらめていたが、故郷の新潟に在住で私より一回り先輩のNさんがきっかけを与えてくれた。Nさんを訪ねたのは、彼が今でも織物業を営んでいるからだった。越後平野の真ん中、信濃川沿いの旧小須戸町(今は新潟市に吸収された)では江戸時代から木綿縞の織物が盛んであった。私の祖父も機織(はたおり)で昭和初期に財を成した。しかし戦後は景気の波に翻弄され機業は衰退し、大部分の業者はニットに転換し命脈を保った。時流に乗り遅れた父は廃業した。その子が、父祖の歩みを調べるためには、織物業の盛衰を是非知っておかねばならない。我が家は約40年前に他県に越してしまい、よりどころはなくなっていた。
 Nさんに織物の話を聞いていたら、本題を外れて私の小学校の時の恩師であるO先生が実はNさんの恩師でもあることが分かった。現在70歳を過ぎたNさんは、O先生が教職について最初の教え子であった。「O先生はご健在でしょうか?」、「80過ぎたけど元気ですいねー。私は還暦を迎えたとき、あいさつに行ってきましたいねー」と聞いて、私も先生にお会いしお礼を述べたくなった。

 私が受け持っていただいたのは小学校5−6年生の2年間。10歳から12歳は微妙で難しい年齢だと思う。振り返ってみて、この時期、学校に行くことが楽しかったのは幸せなことだった。社会人となって、また父親となって、そのありがたさが身にしみた。自分の子供たちの教師との出会いが不幸だったことからその思いは倍化された。

 子供のころはまだ確かな表現力がないが、それなりに敏感に感じていた。O先生は依怙贔屓せず、是々非々で接してくれた。誉められることもあれば叱られることもあった。後に母や祖母から聞かされた先生の私に対する評価は妥当であり、私の短所長所をよく把握していてくれたと思う。なによりも、学ぶことの大切さ、「知るは喜びなり」を植え込んでくれた。それは私のバックボーンになっている。

 Nさんの案内で信濃川の対岸にある先生のご自宅を訪ねた。先生のお家はお寺さんである(当時、田舎ではお坊さんで教職に就いているのは少なからずあった)。81〜82歳と思われるが張りのある声で話し、腰も曲がっておらず、かくしゃくとしておられた。檀家回りをしてお経を上げる日常が老化防止になっているようだ。

 驚いたのは先生がパソコンを操作し、Eメールも使っていることだった。私の身の回りでそんなことができるのはせいぜい70代前半で、それも数えるほどしかいない。80歳過ぎの人は皆無だった。帰宅してから手紙を書いたら、メールで「受信ばかりで発信することが少ないです」と礼状が届いた。これまでにもらったE−メールでの最高齢記録を一気に更新した。

 1時間足らずであったが時計の針を昔に戻して懐かしいひと時を過ごした。次は旧友と語らってお訪ねしたいと思いながら辞した。それで終わりではなかった。Nさん宅に戻って、昼食を食べていたら、先生から電話がかかってきた。私が忘れ物をしたという。ボイスレコーダーだった。先生が届けてくださるという。奥様の運転でと思ったら先生自ら運転していらっしゃった。私のおっちょこちょいぶりは相変わらず、先生のお元気さが目だった。

久しぶりの故郷訪問は実り多かった。

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