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僕の偏見紀行
82 シルクロードの旅(5)ブハラ、深夜のトイレ
2009年11月11日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ タキ・バザールの金物屋7代目の若者。手にしているのは彼が造ったコウノトリ型のハサミ。切れ味は鋭い。
▲ コーラン用の書見台を造る木工職人。一枚の厚板をくりぬいて写真にあるような台に仕上げる。折りたたみ自在、いくつものパターンに変化する。こんなものをどうやって考え出したのか、僕には到底理解できない。
▲ 世界遺産のレストランでの民族舞踊ショウ。神学校の中庭がレストランになっており、心地よい風と見事な舞踊は楽しかったが、世界遺産でこんなのありか、と思った。
サンスクリット語で「僧院」という意味のブハラには、他のオアシス都市と同じく、沢山のイスラム建築が残っている。モンゴルによる破壊の後再び再建されたものが多い。

なかでも注目は、現存する最古のイスラム建築といわれる「イスマイール・サーマーニ廟」。モンゴル来襲時には殆ど地中に埋もれていて難を逃れた。

このように偶然は時として歴史に興味深いものを残してくれる。偶然は神である、ともいわれる。繁栄と破壊が繰り返されて来た街を歩くとそのことをあらためて思い知る。

10数m四方くらいの球形屋根をした日干しレンガの単純な構造だが、壁面は日干しレンガが丹念に積み上げられ、手の込んだ網目模様が施されている。

特に月光を浴びると、レンガの凹凸が明暗の差となり、一段と風情があるということだ。青空の日差しの下で眺めても、壁の模様がくっきりと影を織り成し、簡素な美しさがある。

この街のバザールは少し他とおもむきが違う。タキと呼ばれる大通りの交差点を丸屋根で覆ったバザールで、絨毯・香辛料・木工品・金属加工品などの専門店が続いている。当初は比較的高価な貴金属・宝石などの商いが盛んだったらしい。

一軒の金物屋に入ると、昔ながらの鍛冶屋の道具が所狭しと並び、今もナイフやハサミなどを手造りしている。オヤジさんと息子・娘が店番しており、息子は7代目だという。彼が造ったハサミを見せてもらう。幸せを運ぶというコウノトリの形をしたハサミで、くちばしの部分が刃先になっている。お土産に小さなハサミを買うと使う人の名前を彫りこんでくれた。

木工品屋の店先では職人がノミをふるって細工物に取り組んでいる。造っているのはコーランを載せる書見台、その造りはとても複雑かつ精巧だ。一枚の厚板から削りだされた左右2枚の板がかみ合うように連結し、それが自在に動き外れることがない。両手で左右の板を持って動かすと、最大8通りくらいの様々な角度、構造の書見台となる。しかも細部にわたり精緻な彫刻が施され、見事としかいいようがない。

僕も珍しいので小型のものを購入したものの、説明を何度受けても受けても形の再現は難しかった。これ以上は僕の力では説明できないが、いったいどうやって構造を考え出したのか、またその細工はどうするのか今もってよく理解できない。まったくイスラム職人の知恵と腕には恐れいった。

こうやって街を歩けば興味の尽きることはなかった。しかし晴れ上がり、蒼黒くさえ見える青空の下、暑くてのどが渇く。脱水症状を警戒してボトルの水をがぶ飲みする。後で思うとこれは少々まずかった。

行き交う街の人々の顔立ちは様々だ。金髪碧眼白い肌、モンゴル系だろうか、日本人に似た人たちもいる。鋭い目つきに豊かなあごひげのアラブ系らしき人も多い。服装は比較的自由な感じがする。

スカーフ姿の女性もまとっているのは普通の洋服が多い。それでも年配の女性には首から足もとまで覆う形のイスラム風のいでたちの見受けられた。男性はもっと我々のよそおいに近いが、頭に乗っける小さな帽子を被っている人は多かった。ガイドに聞くと、宗教的な意味より暑さ防止だろうということだった。

今日の夕食は世界遺産の中でとるらしい。そこは17世紀始め頃建設された神学校で、入り口のアーチに描かれたタイルの絵模様が美しい。二羽の鳳凰が太陽に向かっている。太陽には顔が描かれているが、偶像崇拝を否定するイスラムではきわめて珍しい。

本来は隊商宿として建設されたが、その絵があまりに見事なため王の目に留まり、王の機嫌を損ねぬよう神学校に変更したという逸話が残っている。

アーチをくぐると石畳の中庭が広がり、それを取り巻く小部屋は土産物屋になっている。中庭の涼しい木陰にテーブルがしつらえてあり、黄昏時の心地よい風に吹かれて食事が始まった。

料理は今までと変わりなかったが、やがて始まった民族音楽と舞踊は周りの雰囲気と相まって、なかなかのものだった。しかし合間には土産物の宣伝を兼ねた民族衣装のファッションショウまで始まり、これは興ざめだった。

仲間から勧められるままにビールを飲み、いささか食べ過ぎたお腹をかかえホテルへ戻った。お湯が出るうちにと素早く風呂に入り、明日に備えて早めにベッドに入った。明日はいよいよウズベキスタンからトゥルクメニスタンへの国境越えだ。ビザを現地で取得し、歩いて国境を越える。僕にとって旅前半のハイライトだ。

生まれて初めて本格的に陸路で国境を越える、なにが起こるだろうか、など期待しつついろいろと考えていたら、僕の腹に異変が起きた。なにやらグルグル・ゴロゴロと怪しい気配がする。昼間ミネラルウオーターとはいえ、がぶ飲みしたのはまずかった。料理にたくさん使われるヒマワリの油もなじみがない。

便秘症の僕は殆ど下痢などしたことがない。中国も要注意といわれるが、帰国後に1回だけ下痢しとことがあるだけだ。今回も便秘対策はサプリメントの準備など怠りないが、下痢対策は考えていない。

そのうち異変は本格化し、あわててトイレに駆け込む。腹の痛みや吐き気はないがゴロゴロは治まらず、久々の本格的下痢だった。最初僕はこれで便秘の心配はなくなった、などと楽観的だったが、やがて事態はさらに切迫し、そうも言っておれない状況に突入する。

それから夜明けまで何回も、よくこんなに出るもんだと感心するくらの下痢が続いた。深夜遠い異国のトイレに座り、一人明日の国境越えを考える。明日のトイレは、どんなもの分からないが、国境の手前に1ヶ所はあるらしい。。国境越えには最低3時間を要するとガイドに言われている。もしその間にもよおしたら、一体どうしろというのだ。僕の心は千々に乱れた。(続く)
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24 知床の青いそら、光と風
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21 春の東北ローカル線の旅
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13 海があまりに碧いのです
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10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
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8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
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5 雨の幕川温泉再訪記
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