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僕の偏見紀行
88 シルクロードの旅(11)「博物館都市」イチャン・カラ、ヒワ
2010年1月10日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ライトアップされた夜のイチャン・カラ。人通りもなく、わずかな灯りが幻想的。浮かび上がるタイルの青が美しい。
▲ イチャン・カラを取り囲む分厚い内壁。幅6mくらいあるらしい。壁の斜面に点在する小さな突起はお金持ちのお墓。ガイドによると、ここに埋葬されると神の国へいけるということらしい。
▲ イチャン・カラを出たあたりの道端で店開きをしていた魚屋さん。まわりに暇そうなオジサンたちがたむろしていた。身振り手振りでいろいろ話して楽しかった。
5000年以上前から人が住んでいたヒワは、17世紀にホラズム王国の政治・経済・宗教の中心となり、イスラム文化の聖地となった。これはアムダリア川水系の変化で、それまでの首都クニャ・ウルゲンチが維持できなくなったことによる。

町は外壁と内壁の2重壁に守られ、外壁と内壁の間が一般市民の生活の場、さらにその内部には宮殿やハーレム、モスク、神学校などがあった。厚さ6mもの土の内壁に守られた内部はイチャン・カラ(内城)と呼ばれ、周囲500m×200mの範囲に、20ものモスクや神学校、6基のミナレッ(塔)が今も林立している。

現在はイチャン・カラ全体が「博物館都市」として世界遺産に登録されている。一歩足を踏み入れると、まるで中世のイスラム世界へタイムスリップしたかのようだ。

夕食後イチャン・カラを少し歩いてみる。人工の光の少ない街並みは黒々と静まり、わずかにライトアップされたモスクやミナレットが暗闇に浮かび上がっている。人通りは殆ど無く、あたりは幻想的な雰囲気に満ちている。

人の気配がないイチャン・カラだが、一部には祖先からここに住み続けている人たちがいる。その人々の戸口からもれる灯りが、わずかに人の生活を感じさせるのみだ。暗闇の散策は方向が定かでなく、あまり遠出すると迷子になりかねない。早めに切り上げホテルへ戻る。

ホテルで風呂に入ろうとお湯の蛇口をひねったが、水しか出ない。逆に水の蛇口からはお湯が出てくる。蛇口の表示が逆なのだ。

翌朝フロントにそういったら、先刻承知のようで、それがどうした、ということでおしまいだった。要するにお湯が出ればいいじゃないか、わざわざ修理することもないのだ。細かいことにはこだわらないのか、いい加減なのか、日本とはかなり違う。

ホテルには、フランスやイタリアなどヨーロッパ系のお客も多いが、彼らはこんなことは気にしないのだろう。こんな時日本人は世界の標準とは違う、と思う。

翌朝再びヒワ散策へ出かける。イチャン・カラでは、モスクや神学校跡が軒並みホテル・みやげ物屋・食堂になっている。狭い通りは迷路のように入り組み、複雑な造りの土レンガの建物が立ち並ぶ。

角を曲がると思いがけない光景が広がり、気ままにぶらつくだけで面白い。道の両側から土産物屋の呼び込みがうるさい。「ヤスイヨ!」「ムッシュ、ムッシュ!」いろんな言葉が飛び交う。

織物屋のオバサンの熱意に負けて、パシュミナの大型ショールをつい買ってしまう。複雑な民族模様と渋い色合いがとてもいい。そのまま羽織ってもいいし、部屋の壁飾りにもなる。手触りも柔らかで気に入ったが、1枚10ドル、本物ならちょっと安すぎる、でも気に入ったからいいか。3枚購入する。

古びた建物の入口には重厚な楡の木の扉がついている。精緻な彫刻が施された扉は、人手や時間にさらされ、古さびた趣きがいい。壁の青タイルのイスラム模様と扉の彫刻の取り合わせが美しい。イスラム模様は必ず連続して続くが、そのことを「マヨリカ」と呼ぶ、とガイドに教わる。

ヒワで一番高いイスラーム・ホジャ神学校のミナレットに登る。高さ45m、光の入らぬ内部には急角度の螺旋階段があり、そこを100段以上登らねばならない。このミナレットに登らずしてヒワを語るなかれ、といわれているのだ。小さな灯り窓しかない暗い急階段を殆ど手探りで登った。

頂上からヒワの街を眺めていたら、日本の若者がいた。一人旅のバックパッカーだ。シルクロードをあちこち歩いているらしい。僕らがトルクメニスタンに行って来たというと羨ましがっていた。彼も何度か入国を試みたけど、ビザが取れなかったらしい。礼儀正しい気持ちのいい青年だった。僕も本当はこんな旅がしたかった。

歩き回った後、イチャン・カラの門を出た。人々の普通の生活の場が広がっている。オジサンが道端になにやら広げて売っている。まわりに暇そうなオジサンたちがたむろして楽しそう。近寄ると魚屋さんだ。テント地のような布に魚が並んでいる。フナやコイよく似た淡水魚のようだ。

面白そうなのでその前にしゃがんでしばらく眺めていると、暇そうなオジサンの一人が話しかけてきた。言葉はお互い分からないが、どこから来たのか、中国人か、などと尋ねているように聞こえる。そこで「ジャパン、ハポン、ヤポン」など、思いつくまま答える。どうやら分かったらしい。

次はどれくらい遠いのか、という質問らしい。飛行機で約10時間と答える。このへんは全て身振り手振り、10本の指も総動員しての問答となったが、なんとかウズベキスタンと日本の友好関係は良好に保たれたと思う。

さらに歩くと城壁に沿ってバザールが広がっている。どうも野菜と果物中心のバザールらしい。スイカやメロンが山積みされ、リンゴやブドウなどの果物、タマネギやジャガイモのような野菜がうず高く露店の店先に積んである。よく見ると量り売りをしている米屋さんもいる。

商品の補充に来たのか、相当年代物のトラックが狭い通路を強引に突っ込んでくる。危ないと思っていたら案の定、脇の露店の柱を引っ掛けてしまう。散乱するリンゴやメロン、大声で怒鳴る八百屋のオバサン、バザールはいつ来ても活気に満ちて面白い。

イチャン・カラへ戻りチャイ・ハナで一休み。ホテルの中庭の木陰に、天幕が張られた露台いくつか置いてある。どこでも好きなところで休憩できる。絨毯が敷かれた露台に上がり、チャイを頼む。日本茶に似たグリーン・ティをすすり、涼しい風に吹かれていると誠に気持ちがいい、極楽、極楽。隣の露台から洩れてくるのはドイツ語のようだ。僕と同じ年回りのドイツ人夫婦らしい。

ここにはお茶一杯でいつまでいてもいい。あまりに心地いいのでつい長居をしてしまう。そろそろ日も傾きかけてきた。30円のお茶代を払ってホテルへ戻った。(続く)
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67 インド紀行(4)ダージリン滞在
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65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
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57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
52 風に吹かれて八丈島(2)
51 風に吹かれて八丈島(1)
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49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
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24 知床の青いそら、光と風
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22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
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8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
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6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
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1 東北紅葉雪見風呂
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