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僕の偏見紀行
86 シルクロードの旅(9)「愛の町」アシュハバード
2009年12月24日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 「愛の町」アシュハバードにて。白亜のビルと金ぴかの像が目立つ。
▲ アシュハバード夜景、奇抜なライトアップのビル。ここで最後の夜の食事をした。ビルを見て仰天、何が出てくるか心配したが、料理は普通だった。
▲ 郊外のニサの遺跡にて。王宮跡の地層には様々な時代の名残りが残る、と説明する現地のオバサンガイドさん。律儀な人で、汗をかきかき分かりやすい英語で話してくれた。
アシュハバード空港は夜だった。明るく近代的な空港ビルは沢山の人々が行き交い、さすが首都だと思った。ただ不思議なことに、これだけの豪華な空港なのにエスカレーターの類はない。なんとなくアンバランスな第一印象だった。そしてこの奇妙な違和感は、トルクメニスタン滞在中続いた。

待っていたバスに乗り込みホテルを目指す。今夜は首都らしく5つ星の豪華ホテルらしい。たっぷりとお湯を張ったバスタブに首までつかるのだ。

空港を出ると驚いた。窓の外にはまるでディズニーワールドのような光景が広がっている。ライトアップされた巨大な噴水、広い道路わきに連なる白亜のビル群。それぞれがまばゆい照明とライトアップに輝いている。

訪れた外国人の度肝を抜く、という亡くなった大統領の町造りの意図は見事に成功している。好き嫌いは別として、中央アジアでこんな光景に出くわすとは思わなかった。

アシュハバードとは現地語で「愛の町」という。この町は1948年の大地震によって旧市街が壊滅し、その後ソ連式の街並みができた。さらに独立後、初代大統領の大胆な構想による町造りが進められた。豪華な街並は天然ガスなどの豊富な天然資源に恵まれたことによるのだろう。

銀行や官庁そして外国企業などからなる、このビル街はホテルまで続いた。なかには赤や青の奇抜なライトアップが異彩を放つ建物もあって、どうにも現実感に乏しい。なんとなくSF映画かゲーム世界の仮想空間にも見えてくる。本当にこの中で、人々が毎日あくせくと働いているのだろうか。

ホテル到着、さすが首都の5ツ星だ。大理石の巨大ホテルが夜空に白く輝いて聳えている。豪華な部屋は広くゆったりとし、久しぶりにほっと一息つく。ただよく見るとベッドの毛布はうすっぺらでゴワゴワ、風呂の石鹸もちっぽけで物足りない。カーテンを引くと、一部がはずれてずり落ちてきた。

広い部屋で僕は再び奇妙な違和感に襲われた。たった2泊なのにあれこれいって申し訳ないが、建物の豪華さとの落差が大きすぎる、と感じたのだ。

従業員のサービスはきわめて事務的だった。夕食のレストランでも、夜遅かったせいもあるが、そっけなかった。

部屋に戻り、国際電話をかけようとしたが通じないのでフロントに電話した。すると「もういっぺんやってみて」それで終わりだった。しかもその言い方がいかにも冷たく、それ以上話すのが嫌になってしまった。

ウズベキスタンのホテルでも、国際電話がうまく通じないことがあった。その時は若い技術員がすぐに部屋まで来てくれた。分厚いマニュアルと首っ引きで悪戦苦闘したけど、結局うまく行かなかった。しかし少なくとも人間的な対応だった。

高層ホテルからの眺めは、人工的ではあるがが綺麗だ。ベランダに出ると一面の光の海が広がる。整然と立ち並ぶ白い建物とまぶしい光、鮮やかなライトアップ、見飽きない光景だった。この光景は夜遅くまで続いた。おそらく一晩中点灯していたのだろう。なんとも気前のいいエネルギー消費だ。

この近代ホテルに外来の珍客がいた。10センチ近い巨大なイナゴがベランダの隅にへばりついていた。どこからこの高いところまでやってきたのか、油断すると部屋まで侵入してくる。虫が苦手な仲間が、部屋でいきなりこの侵入者に出くわしたものだから大変だった。人間いつどこで災難に会うか分からない。

翌日は近郊のニサの遺跡へ出かけた。山すそに広がるのはパルティア帝国初期の首都といわれる遺跡で、当時の王宮跡やゾロアスター教寺院跡などが発掘されている。僕らが行った時も、イタリア調査団が発掘作業中だった。

ここからはギリシャの影響を物語る彫刻などが多数出土している。ヴィーナスによく似た、小ぶりの大理石像が発見された小部屋や、ワイン貯蔵蔵などあって興味深い。

アップダウンの続く丘陵を強い日差しの下、散策するのは暑くて大変だ。太り気味のガイドのオバサンもいささかアゴを出している。彼女がいきなり路傍の雑草を引きちぎって、これは薬草の一種で下痢に効き目があると説明してくれた。

数日来、腹具合のよくない僕は早速その実をもらい口に含む。細かい実はゴマ粒より小さく、噛むとかすかな苦味がする、これは効きそうだ。そのせいか、この後僕の腹具合は順調に回復していった。

町へ戻る途中、遠くの山肌に登山道がくっきりと見えてきた。ガイドによると、先の大統領が造ったトレッキングルートらしい。国民の健康増進のために造られたということだ。

次に広い道路沿いに大規模な植林地帯が現れてきた。これも、砂漠に広大な森林を造ろう、という初代大統領の構想に基づいているらしい。自身が医師だった、初代大統領はこのように健康には人一倍の関心があった。強い個性の持ち主だった彼は、独特の政策を沢山実行している。

街には、初代大統領の金ぴかの像と現大統領の巨大な写真が目立つ。この「愛の町」を巡っても、地震後のソ連式街並みと、豪華だがどこか空疎なビル群が続くのみで、シルクロードの面影は薄い。

町に戻り国立博物館と絨毯博物館を見学。いずれも巨大で豪華な建物で、兵士によって厳重に警備されている。案内するのは民族衣装の美しい娘達だが、表情が固く、緊張しているのが分かる。あまりお客慣れしていないようだ。警備の兵士に話しかけても知らん振り、愛想が無いこと夥しい。

絨毯博物館の入り口ではカメラが取り上げられ、余計なおしゃべりは禁止された。説明役のほかに監視の女性がついてまわり、少しでも展示物に触れようとすると、厳しい声で注意がとんでくる。見学して少しも楽しくない。どうやらお客はあまり歓迎されないらしい。

国立博物館ではニサから出土したヴィーナス像を観る事ができた。小ぶりの白い大理石像だが、素朴なつくりのそれは可愛らしく、はかなく美しい。はるか昔から、この地は遠いギリシャと交流があり、様々な文化がもたらされた。

この像が発見された、ニサの王宮跡の小部屋はなぜか窓もなく、土壁で塗りこめられていた。いったい何が起こり、どうしてそうなったのか。今ではそれを知る術は無いという。  (続く)
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