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僕の偏見紀行
97 ベトナム紀行(7)サヨナラ!「サイゴン」
2010年4月19日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ サイゴン駅構内、テト休暇で出かける人が多かった。都合のいいキップは取れなかった。
▲ ある日の夕食、サイゴン市内の食堂にて。これで300円くらいだったか。骨付き肉とサラダ、スープ、旨かった。
▲ チョロン地区のビンタイ市場、衣食住、この世のあらゆるモノを売っているようだ。雑然とした売り場のそばでビールを飲みながら商談中?の男達。
サイゴン、滞在してやはりこの町は僕にとって「サイゴン」だった。ホーおじさんには何の恨みもないし、むしろ偉大な革命家として尊敬しているが、この町はサイゴンとよびたい。

これは開高健が描いた「陥落前のサイゴン」を、ついにみることができなかった、僕の勝手な感傷にすぎないのだが。

8泊してどう過ごそうか、そう思っていたのだが、カンボジアへも3日出かけたし、過ぎてしまえば早かった。サイゴン最後の日、何か土産でも探そうと町へ出た。

とある店へ入ろうとした瞬間、背後でバチーンという大きな音がした。振り向くと、大通りの中央に乗り合いバスが止まり、その後ろにバイクが横倒しになっている。かたわらの路上には男女二人が横たわっている。

男性のヘルメットは飛ばされ、頭から血を流している。交通事故だ、見る間に人だかりが出来ていく。僕はその気になれば現場の生々しい写真が撮れる位置にいたが、とてもそんな気にはなれなかった。

大量の車とバイク、乱暴な運転、強引に横切る歩行者、この町のいたるところで見かける光景だが、これでは事故がおこるはずだ。交通事故と排気ガス、これからこの町にとって大きな課題だらう。

この町でいろんな人と出会った。いい思い出ばかりではないが、最後となると懐かしい。ある昼下がり、官庁街の裏手で歩道をぶらついていたら、いきなり若い男が僕に寄ってきた。無視していると、雑誌を丸めたものを僕に突きつけて何かを要求している。

言葉が分からないし、押し売りだろうと無視して歩いたが、しつこく追ってくる。暗い顔をして、鋭い口調で迫ってくる。さらにかたわらの車道を、マスクとサングラス姿の若い女が、バイクに乗ったまま付いて来る。二人組みだ、これはただの押し売りではない。危険を感じた僕は一目散に走って逃げ、やっと事なきを得た。

親切な人々にも出合った。歩きつかれて休憩しようとフォー屋へ入って紅茶を頼む。若い店員が不審な顔でお茶だけか、と念を押す。先ほどお昼を済ませたばかりだからお茶だけでいい、と重ねて頼む。

涼しい店内でホッと一息、やれやれ助かったと会計を頼むと、店員は首を横に振りながら、お金はいらないという。なぜかとしつこく聞くと、ここはフォー屋だから、お茶だけ頼まれても金の貰いようがない、ということらしい。

これは悪いことをした、さえないくたびれた年寄りを見かねてサービスしてくれたのだ。この町の若者のやさしさに僕は感動した。どうやって感謝の気持ちを伝えたらいいのか、この時ばかりはおのれの下手な英語をうらんだ。

ベトナム庶民の食堂はなかなか合理的な仕組みで、たとえば料理に付いて来るウエットティッシュを、封を切らずに返すと、会計の時にその分を差し引いてくれる。

ところがある店では、僕が自分のティッシュを使ったのに、その代金をおつりからちゃっかり引かれてしまった。暑さでぼんやりしていた僕は、店を出た後で気付いて悔しい思いをした。そういえばそこは因業そうな女が主だった。

この町の有力なタクシー会社は、主要な場所に専用の乗り場を設け、案内係を置いている。チョロンのビンタイ市場前には真っ黒に日焼けした、制服がはちきれそうに太った娘さんがいつも立っていた。車を頼むと嬉しそうにニコニコして愛想がいい。

ある時そこからサイゴン駅へ向った時のことだが、言葉が全く通じなくて弱った。運転者と彼女と3人でやり取りするがらちがあかない。蒸気機関車が蒸気を吐いて動輪を動かす身振りまでしたがだめだった。しかし彼女は嫌な顔一つせず、最後まで粘り強く話しを聞いてくれた。ガイドブックの駅の写真を見せて、ようやく分ってもらえたときは嬉しかった。

買い物も済ませ、空港へ向かうためチェックアウトしようとフロントで請求書を確認する。すると電話代が僕の記憶より多い。自宅へ3回連絡したはずが、請求は5回になっている。そういえば、電話機の調子が悪く、何度かかけなおしたことがあった。その一部が通話状態だったのだろうか。しかし受話器は無音のままで、全く会話は出来なかったのだ。

早速その旨フロントへ抗議する。例の無愛想女は、コンピューターで自動的にカウントしているので間違いない、と相変わらず木で鼻をくくったような返事だ。

このヤロー、と今までの不快さが一時によみがえり頭に血が上った僕は、電話の故障はホテルの責任だ、絶対払わないぞ、と頑張った。女はコンピューターの記録が残っているのだから払え、との一点張りだ。

たかが数百円の話だが、これまでのいきさつから負けるわけにはいかない、と僕は張り切った。冷静に考えればいささか子供じみた意地の張り合いだが、その時は必死だった。またそんな時は不思議と英語がすらすら出てくるものだ。英会話の練習には英語で口論するのがいいようである。

結局僕が払わないと、女の責任になって自己負担になる、と泣き言を言い出したので、不本意ながら妥協することにした。ただ責任者にこのことを報告し、しっかり電話設備をチェックしろ、とえらそうにいってやった。

最後までいろいろあったサイゴンの町、そこから次の目的地タイのバンコクまではすぐだった。なぜ、ベトナム旅行のはずが、僕はタイへ行ったか、それは僕が利用した航空券が特殊だったことによる。

今回はバックパッカー本来の格安旅を目指した。そこで格安航空券をネットで探した結果、ベトナム航空の成田発バンコク行きが最安値だった。12日間有効の往復28000円、時期によれば21000円台もある。

バンコクへの行き帰りに、ベトナム国内で2回のストップオーバーができるようになっている。というか、乗り継ぎをしなければタイへ行けない。時間と手間はかかるが、暇人にはうってつけだ。

しかも有効期間内なら何日でもベトナム国内に滞在できる。かくして、バンコク行き航空券で、ベトナム旅行をする事になった。この便はJALとの共同運航便のため、JALの航空券で乗った人も当然沢山いた。なぜ安いのか旅行社に尋ねたら、ベトナム航空が成田・バンコク間の実績を作りたいためらしい。

夕方サイゴンを発った飛行機はあっという間にバンコクへ到着した。東南アジアでの移動は楽でいい。タイには30年くらい前に仕事がらみで行ったきりだ。巨大なスワンプール国際空港を一歩出ると、ぬるい空気がわっと押し寄せて来る。気温もさることながら、人々の表情も、ベトナムに比べるとなんとなくぬるく見える、これは思い過ごしか。

インフォメーションで教えられたタクシー乗り場へ行くと、威勢のいいアネサンがてきぱきと配車している。乗せられた車はややくたびれたトヨタ車、陽気で調子のいい運転手は、トヨタ、ナンバーワンと騒ぎながらハイウエイをすっ飛ばす。心配した渋滞は大したことなく、夜8時過ぎ無事チェックイン。アメリカ風の巨大ホテル、設備はいいがなんとなくがさつな雰囲気。

タイは2泊3日、明日丸々一日しか歩き回る時間はない。バンコク市内地図をながめながら作戦を練る。とにかく憧れの「カオサン通り」ははずせない。(続く)
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
70 インド紀行(7)タージ・マハルの光と影
69 インド紀行(6)ガンジス川の夜明け
68 インド紀行(5)夜行寝台「ハウラー・カルカ・メイル・2311号」
67 インド紀行(4)ダージリン滞在
66 インド紀行(3)ダージリンへの道
65 インド紀行(2)コルカタにて
64 インド紀行(1)遠かったインド
63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
58 スコットランド紀行(5)いくつかの思い出
57 スコットランド紀行(4)偉大なり、ピーター・ラビット
56 スコットランド紀行(3)ネス湖からスカイ島へ
55 スコットランド紀行(2)ウォールフラワー
54 スコットランド紀行(1)エジンバラ大学でお茶を
53 風に吹かれて八丈島(3)
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51 風に吹かれて八丈島(1)
50 イリオモテヤマネコに逢いたくて(4)
49 イリオモテヤマネコに逢いたくて(3)
48 イリオモテヤマネコに逢いたくて(2)
47 イリオモテヤマネコに逢いたくて(1)
46 秋空の下、いくつかの再会
45 白神の森の宝
44 挑戦!乗鞍岳
43 北東北ローカル線の旅 (4)津軽じょんがらの夜はふけて
42 北東北ローカル線の旅(3) 雨の下北恐山
41 北東北ローカル線の旅(2) うみねこレール
40 北東北ローカル線の旅(1) 春のうららのドリームライン
39 50年の時を超えて
38 知床の秋(2)、ウトロにて
37 知床の秋(1)、鮭遡上
36 風に吹かれて尾瀬ケ原
35 白神山地「ブナの学校」
34 初夏の山形、サクランボとそばの旅
33 ハワイ島滞在記(2)
32 ハワイ島滞在記(1)
31 春の予感、鹿沢(かざわ)高原にて
30 嗚呼!還暦大同窓会
29 年の暮れ、奥那須で想う
28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
20 上海点描
19 やさしかったチェジュの人たち
18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
3 信州塩田平別所温泉
2 信州信濃路
1 東北紅葉雪見風呂
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