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僕の偏見紀行
217 バンコクの12日間(4)アユタヤ遺跡
2017年4月12日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ アユタヤで世話になったトゥクトゥク・ドライバー、ミスター実直氏。
▲ 通路が残る寺院跡。左手の台座に首のない仏像が並ぶ。
▲ 遺跡見物についての注意書き。ふざけて首のない仏像に首を乗せて写真を撮るな、仏塔に上がるな、等がわざわざ日本語で書かれているのが悲しいなぁ。
バンコク中央駅で貰ってきた時刻表を検討の結果、まず手始めに列車で1時間半くらいのアユタヤ遺跡に行くことにした。乗り換えなしで行けるし、列車の本数が多く便利だ。

電車の乗り方にも慣れ、僕と家内は難なく中央駅に到着した。すぐに切符売り場に向かう。8:20発に乗ればアユタヤに9:39着の予定、遺跡をいくつか見学しても午後にはバンコクに戻れる。

大人2枚と窓口に告げると、指定席か?と尋ねる。ローカル列車の旅だから当然自由席と思ったけど、家内がいるので座れないと困る。そこで指定席、ソフトシート・エアコン付きを奮発した。それでも125バーツ、約380円、普通席は15バーツ、ずいぶん安い。

改札口がないので、コンコースから直接乗り場へ向かうと、ドーム屋根の下に列車が何本も停まっている。薄汚れた車体に数字やタイ文字が書いてあるが、意味が分からない。

改札口がないのでいろんな人が出入りするし、ベンチで寝ている男もいる。通りかかった駅員にアユタヤ行はどれか尋ねたが要領を得ない。出発時間が迫ったのである列車の入り口にいた車掌らしい制服の男に尋ねると、アユタヤ行はその列車の後に来るらしい。

まもなく列車入線して来た。嬉しさに心弾ませて乗り込む。かなり年季の入ったディーゼルカー、薄暗い車内で座席を探した。勝手に他人の席に座る人もいるらしいのでやや焦ったが、無事指定席を発見した。ソフトシートといってもごく普通のビニール張りの座席、エアコンが効きすぎ少し寒い。

定刻に列車はゆっくりと動き出し、しばらくは賑やかな街中を走った。車掌が検札に来た。ポリス風のスマートな制服に身を固めたなかなか渋い中年男だ。礼儀正しくテキパキと仕事を進める。これなら他人に席をとられる心配は杞憂のようだ。

列車が停まるたびにお客が乗り降りし、車内は満席になった。国鉄の利用者は多い。やがて列車は市街地を抜け、田園風景の中を走った。旅先で、列車やバスからのんびりと風景を眺めるのは僕の楽しみのひとつ。列車がオンボロでも鈍行でも構わない。

アユタヤに着いた。さすが世界遺産の街、駅は観光客で溢れていた。外国人観光客が多いがタイの人も多いようだ。

駅前に観光用のトゥクトゥクがずらりと並んでいる。ドライバーと料金交渉としようと思ったが、個別交渉はできないという。トゥクトゥク組合の窓口を通すようになっていた。交渉がまとまると、並んでいるトゥクトゥクが順番に割り当てられる。

実のところ僕はあんまり観光地としての遺跡巡りは好きではない。いかに壮大・華麗であっても、所詮人間の造ったものは虚しい。

時の権力者が己の意のままに、膨大な労力と富を費やして造った、どうしてもそんなイメージが湧いてくる。それを支えた国民は大変な苦労を強いられたことだろう。遺跡の入り口に来て、そんなことを考えるのはおかしなことだが、僕の中で天邪鬼の虫が騒ぐのだ。

それはさておき、僕は組合のオヤジに2時間でいくらか尋ねると600バーツという。それは高い、と僕はすかさず値切った。すると簡単に500になった。それでもバンコク市内の相場を考えると高い。僕は400にしないなら他を当たる、とその場を離れた。

するとオヤジとドライバーがあわてて僕を呼び止めた。400で行く、と言うのでそれで手を打つことにした。改めて見ると、ドライバーはいかにも実直そうな中年男、安値で受けたのが辛いのか、暗い顔をしている。

思った通りドライバーは実直な男だった。出発を前に、遺跡の写真を何枚か見せてくれ、2時間だとこの4ケ所、見学時間は1ケ所15分から20分と、わざわざ念を押した。

言うまでもないが、アユタヤはあまりにも有名な世界遺産。14世紀から18世紀にかけて繁栄を極めたアユタヤ王朝の都が置かれた。最盛期には現在の周辺国にまでその領土を拡大したという。

歴代の王が上座部仏教を信仰したので数多くの寺院・石像が建設された。その後18世紀半ばに、ビルマの攻撃に敗れた。その際に寺院や石像は破壊され、王宮も基礎が残るのみらしい。

僕らはトゥクトゥクに乗り込みパタパタとエンジン音を響かせて遺跡を目指した。アユタヤは街中が遺跡だらけ、通りすがりにも多くの由緒ありげな建造物やその跡地に出会う。その中で僅かに4ケ所しか行かない僕らのために、ドライバーは何処を案内するか、知恵を絞ってくれた。

目的の遺跡に到着すると、彼は僕らに見学時間を告げ、落ち合う場所を示した。彼の言葉に間違いはなかった。いつも彼は約束の時間に約束の場所で待っていた。

廃墟となった寺院跡に立ち寄った。僅かに残る通路脇の台座に首のない石像が並んでいる。自然に朽ちた遺跡とは異なる無残さがそこにあった。王宮跡に行くと、折れた石柱やその台座、朽ちた石壁などが残るのみだった。

ある遺跡の入り口に注意書きが掲示されていた。仏塔に上がるな、首のない仏像に首を乗せて写真を撮るな、等の注意事項が書いてある。哀しいことに、それは日本語で書かれている。日本人以外の外国人観光客も多いというのに。


あわただしく通り過ぎるだけの遺跡見物を終え、駅前に戻った。ドライバーの実直さに感心した僕はちょっと多めのチップをあげた。すると彼は顔をしわくちゃにして喜んだ。

駅前の食堂で遅めの昼食をとることにした。駅前といっても竹の柱にテント張りのざっくばらんな食堂だ。客は地元の男たちが多い。タイでは珍しいフォーがあったのでそれを注文、ごくありきたりのフォーだが美味しかった。

食事中に雨が降り出した。乾期なのにおかしな天気、バンコクと同じだ。しばらく待ったがやむ気配がない。それどころか雨は一段と激しくなり、頭上のテントの隙間からジャージャーと雨漏りが始まった。

ようやく小降りになったので小走りで駅に戻った。切符を買って待合室で列車を待つ。帰りは普通席にしたかったが、待っている乗客が多いので指定席にした。

やって来た列車は、来た時と同じような、ちょっと古びたディーゼルカーだった。車内は混んでいた。指定席にしてよかった。

検札に来た車掌は、来た時と違うタイプのオヤジだ。気さくな親しみやすいオジサンだ。気軽に客に声をかけ、通りすがりに掃除のオバサンの肩を軽くたたいた。

バンコク駅に到着、無事日帰り旅行は終わった。ホテルに戻る前に買い物をしようと駅からタクシーに乗ることにした。ところがタクシー乗り場は混んでいた。

夕方前なのに、通りから駅構内の乗り場に入ってくるタクシーが少ない。構内へ入るには車の溢れる道路を横切る必要があるのだ。

すると付近で交通整理をしていた警官が見かねたのか、タクシーを乗り場へ誘導し始めた。さすがに警官の指示にタクシーは逆らえないのだろう。次々にタクシーが入ってくる。やれやれよかった、と思っていたら、またもやタクシーが来なくなった。

あの親切な警官は一体どうしたのだろう。彼のほうを見て事情が分かった。彼は列にいたうら若い美女とのお喋りに夢中だった。いかにも楽しそう、タイの男は女性にまめとは聞いていたが本当のようだ。仕方ない、野暮は言わずに待つことにしよう。(続く)
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64 インド紀行(1)遠かったインド
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62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
59 奥日光戦場ヶ原
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28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
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14 よるべない孤独にみちた宿
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12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
4 憧れのフルム-ン法師の湯
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1 東北紅葉雪見風呂
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