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152 山崎と大山崎 その1
2015年3月22日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。
テレビとは縁が薄い私は一度も番組を見てはいないのですが、間もなく終わるNHKの朝のテレビ小説に「マッサン」という番組があります。ニッカウィスキーの創業者、竹鶴政孝氏をモデルにしたドラマだそうです。

この竹鶴氏は大正時代に、スコットランドへ留学して、日本人として初めてウィスキー製造技術を学び、その後、現在のサントリー(当時は寿屋)勤務を経て、ニッカウィスキーを創業した人物なのですが、その人生とその後の展開に極めて深く関わったのが、サントリーとアサヒビール、それに京都市南部にある、山崎と大山崎の地でした。

これは語り始めると極めて長い話になりますので、恐縮ですが、何回かに分けて書かせていただきます。まずは、山崎という地名からまいります。

豊臣秀吉が織田信長亡き後、天下人を狙うことになった最初のきっかけは、現在の大阪府と京都府の境目にある山崎という場所で、明智光秀軍を撃破した「山崎合戦」だったことはよく知られていることですね。

「本能寺の変」発生時、信長に命じられて中国地方を攻略中だった秀吉が、信長死去の第一報を聞くや、急遽、備中(現在の岡山県)から京都にとって返し、山崎で主君の仇を取ったという、あの太閤物語のヤマ場のひとつとなった場所です。

この山崎という場所は、京都から流れてきた桂川に、宇治川と木津川が合流して一本の川、淀川になるという地で、古来から交通の要衝でした。また河川だけでなく、山陽道と丹波街道の宿場町でもあり、一時は堺と同じく、自治都市だったのだそうで、例の「山崎合戦」時には光秀側、秀吉側双方から、市街での戦闘を避けるよう協定がなされていたほどの力を持っていたのだそうです。

先年、その山崎の地にあります「アサヒビール大山崎山荘美術館」を訪れる機会があったのですが、それを契機に、このたいへん微妙な位置にある、山崎とそこにあるいくつかの施設についてちょっと調べてみました。さすがに人間の活動の歴史が長く、しかも濃密な地域だけに、この山崎は、なかなか面白い地であることがわかりました。

現在、私のような一般人が、京都・山崎と聞いて最初に思い出すのは、サントリーの山崎蒸溜所のことでしょうか? あの宣伝上手のサントリーが、名水が豊富に湧き出す山紫水明の地、京都・山崎でじっくりと時間をかけて、おいしいウィスキーを製造しています、というコマーシャルは、たいていの方がご覧になったことがあると思います。このサントリーの蒸溜所には、私もかなり昔に出かけたことがあり、それなりによい印象を持っているのですが、ちょっと調べてみましたら、あの山崎蒸溜所は、京都府ではなくて、大阪府にあることに気がつきました。詳しい住所はこうなります。

〒618-0001
大阪府三島郡島本町山崎5-2-1
075−962−1423

つまり、京都・山崎ではなくて、大阪・山崎だったのです。(でも、サントリーは、大阪・山崎とは言っていませんね。)

その一方で、すぐ近くにあります、アサヒビール大山崎山荘美術館の住所は次の通りです。

〒618-0071
京都府乙訓郡(おとくにぐん)大山崎町大山崎銭原5-3
075−957−3123

というように、大阪府にある「山崎」という地名と、京都府にある「大山崎」という地名と町名が隣接して存在しているのです。さらにまた、最寄り駅として、JR京都線「山崎駅」と、阪急京都線「大山崎駅」があり、その間の距離は300メートル程度とすぐ近く。しかもJR「山崎駅」の場合は、駅舎を含む駅の大半は京都府「大山崎町」にありますが、敷地の一部は大阪府三島郡島本町「山崎」にあり、プラットホーム上に、府境を示す看板があります。駅のホーム上に都道府県の境界があるというのは、全国でも多分ここだけではないでしょうか? それでも、駅名は駅の占有面積としてはマイナー派になる大阪府の「山崎」の地名を持っているという、かなり入り組んだ関係があります。

そもそも、電話の市外局番だって、サントリーの「075」は、大阪としては異例です。大阪の大半は「06」で始まる電話番号を使っていますし、「075」は、京都府で多く使われている市外局番です。郵便番号の最初の3桁「618」が共通なのも、異なる行政単位の、しかも府をまたいだ関係としては、異例なことだと思います。

ということで、「山崎」と「大山崎」の2つの地名は、かなり入り組んだ歴史を持っているらしいと気がついた次第です。そこで調べてみましたら、こんなことが判ってきました。

実はこの地域は「山崎宿」という摂津国(大阪側)と山城国(京都側)の境に位置した宿場町だったのですが、明治4年(1871年)から始まった廃藩置県に際して、長い歴史を持つ「山崎」の地名を大阪府と京都府のどちらが継承するかが争われ、結局、大阪側に「山崎村」、京都側に「大山崎村」が成立したのだそうです。それがその後の合併等により、現在の大阪府三島郡島本町山崎と、京都府乙訓郡大山崎町になったわけで、この2つの地域が同じ市外電話局番と郵便番号の上3桁を使っているのも、こうした歴史的背景があるからのように思えます。

上の写真は、大山崎山荘のベランダから見た、3つの川が合流して淀川になるあたりの風景です。紅葉が始まっていた時期だったこともあり、それはそれは美しいものでした。


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