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縁の下のバイオリン弾き
6 カナダロッキーへの旅―6
2010年11月6日
西村 万里 西村 万里 [にしむら・まさと]

1948年東京生まれ。大学で中国文学を専攻したあと香港に6年半くらし、そのあとはアメリカに住んでいる。2012年に27年間日本語を教えたカリフォルニア大学サンディエゴ校を退職。趣味はアイルランドの民族音楽 (ヴァイオリンをひく)と水彩画を描くこと。妻のリンダと旅行するのが最大のよろこび。
▲ バンフの朝(スケッチブックより)。
●私はどうしてカナダに旅行したか

私は夏休みのはじめに単身で日本に行った。親の遺産の処分のためである。それは大部分うまくいったけれど、毎日兄弟と折衝してくたくたになった。だけでなく、日本はばかに暑かった。町で銭湯をみつけてやれうれしやととびこんでひと風呂浴び、外に出るととたんにまたドッと汗が出て何のために風呂に入ったかわからない、というようなバカなまねをしていた。

そんな日本から帰ってくるとサンディエゴは天国である。なのに私はうつうつとしていた。休みだというのにどこにも行かずみすみす日時をむだにしてしまうのがたえられなかった。

そんな私を見かねてリンダが旅行の案をいろいろ出した。私が一番行きたいところはアリゾナ・ネバダ州境のモニュメント・バレーだが夏のさなかにあそこに行くのは酔狂がすぎる。なるべく涼しい北の方を、と考えてシアトルはどうだろうということになった。私は以前シアトルに行ったことがある。シアトルの港に散在するサン・フアン諸島は美しかった。またフェリーでたずねたカナダのヴィクトリア市はちょっと昔の香港を思わせるたたずまいで(両方とも英国の植民地だったのだ)しかも花にあふれていた。

シアトルからはちょっと離れるがスクィムという町にリンダの叔父さんが妻をなくして一人で住んでいる。その娘、つまりリンダのいとこがこの夏父をたずねる予定だ。うまくいけば彼らとシアトルで会えるかもしれない。そこからヴィクトリアとまだ行ったことのないバンクーバーを見たらいいんじゃないか、と我々は話し合った。

それだけにしておけばよかったものを、せっかくバンクーバーまで行くのならカナディアン・ロッキーのただ中にあるバンフまで汽車の旅としゃれこむのはどうだろうかと考えた。

私は汽車の旅にロマンを感じる。それも日本の汽車のようなチマチマしたものではなく大陸横断鉄道というようなスケールの大きい汽車の旅にあこがれる。

今でこそ車万能のアメリカ社会だが、19世紀のアメリカは鉄道の発達とともに発展した。東海岸と西海岸を結ぶ鉄道が完成したのは1869年である。西海岸で工事をうけおったのはもっぱら中国からの移民だった。

しかし現在のアメリカの鉄道はほとんど貨物専用で人間を運ぶ機能は衰退をきわめている。それにくらべ、カナダの鉄道はすばらしいと聞いている。私の頭には今は亡き知り合いのベティー・チューがコネティカット州のニュー・ロンドンから80年代に汽車に乗ってカナダを横断し、アメリカ西海岸を下ってメキシコ国境にちかいエル・セントロの母親をたずねたという大旅行の記憶があった。そんな快挙には及びもつかぬものの、せめてその何分の一かは経験してみたいと思った。

シアトルで親類に会うという計画はうまく行かなかった。でもバンフに行く案はリンダに強い印象をのこしたらしく、彼女はインターネットでバンフ行きのツアーを探し出してきた。

それによるとバンクーバーからバンフまでは汽車で、そのあとはレンタ・カーをかりてバンフ国立公園をたんのうし、カルガリー空港から帰路につく、という予定だ。行きはバンクーバーへ、帰りはカルガリーから、という行程は飛行機代が高くつくことになるけれど、この汽車の旅をエンジョイするためにはしかたのないことかもしれない。

私はカルガリーに国際空港があることすら知らなかった。バンクーバー五輪のせいで急に格上げされたらしい。バンフからカルガリーにかけてはもうブリティッシュ・コロンビアではなくアルバータ州だ。

私たちは結局このツアーに参加することにした。値段は高いけれどもツアーというからにはホテルも食事もすべて含まれているのだろう。

後半レンタ・カーで走るというのはちょっと不安だった。なにしろ私は国内国外を問わず、車をレンタルした経験が一度もないのだ。

レンタ・カーといえばこの春だったかにサンディエゴで起った悲惨な事故が頭に浮かぶ。トヨタの車をレンタルした一家が、サイズの合わないフロア・マットにアクセル・ペダルを取られ、ブレーキがきかないまま気違いじみた高速で走ったあげくガードレールに激突して炎上。4人が即死した。

このためトヨタは世界規模のリコールを余儀なくされ、自動車会社としてそれまでにつちかった名声は地に落ちた。まさかにそんなことは起きないだろうけれどカナダの道路がどんなものだかまったく知らない私としてはいささかためらいがあった。でもカナダはアメリカ同様右側通行で、免許証も合衆国のものを持っていれば問題ないという。ままよ、行けばなんとかなるだろうと思った。(続く)
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