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縁の下のバイオリン弾き
8 カナダロッキーへの旅―8
2010年11月8日
西村 万里 西村 万里 [にしむら・まさと]

1948年東京生まれ。大学で中国文学を専攻したあと香港に6年半くらし、そのあとはアメリカに住んでいる。2012年に27年間日本語を教えたカリフォルニア大学サンディエゴ校を退職。趣味はアイルランドの民族音楽 (ヴァイオリンをひく)と水彩画を描くこと。妻のリンダと旅行するのが最大のよろこび。
▲ バンフへ向かう途中の景色(スケッチブックより)。
●バンフのレンタカー

バンフについた時我々は駅からホテルまでの迎えのバスに乗るものと予期していた。ところがバスの係員はリストに我々の名前がないという。いやな予感がした。到着は大幅におくれてもう日が暮れかかっている。「明日車を借りることになっているんだけどそのせいかなあ」といったら、「AVISのオフィスなら駅の中にありますよ」と係員はいう。しかし彼女の機転でバスに乗せてもらうことができ、あとから考えれば歩いた方が早い距離のホテルまで送ってもらった。

翌朝われわれは荷物をまとめ、車を借りるべくホテルを出た。ところが旅行の概要をしるしたパンフレットが指定している場所に行ってみてもAVISの看板がかかっているだけでかんじんの店はしまっている。こんなはずじゃないんだが…、とがっかりしたけど、でも気を取り直してオフィスがあるという駅まで歩いた。やっと駅についたものの、それらしいものは何もない。聞くとそのオフィスなるものは列車が到着する時だけ臨時に開くのだという。じゃ、本物のオフィスは?と聞くと、やっぱりさっきたずねた町の中の場所だという。そんなオフィスは影も形もなかった、と抗議したかったが、しかたない、荷物をもって炎天下をひきかえした。行ってみて人に聞いてわかったことはオフィスは道路に面しておらず、ビルの中のショッピング・モールにあること、また、われわれはきのう駅で車を借りることを予期されていた、ということだった。

この2番めの点はわれわれの失策ではない。ツアーの説明にはそんなことはひと言も書かれておらず、AVISのオフィスとしてはこの町の中の住所だけが記されていたのだ。またそれについてわれわれに注意してくれるべき汽車の添乗員も何も言わなかった。

あとから考えてみるとこれには無理からぬところがある。私たちの選んだツアー、つまり後半は自分で車を運転する、というツアーはランクとしては一番下なんだと思う。考えてもみるがよい。客が老人だからこそこのツアーは繁盛しているのだ。自分で車を運転してどこにでも行けるような人間ならはじめから汽車に乗ろうとは考えないだろう。われわれのような客は少ないにちがいなく、またそれではあまり金ももうからないことだから、ツアー会社としてもいきおいサービスがゆきとどきかねることになるのかもしれない。

前日汽車を降りる時にわれわれはあのドイツ人のおばあさんにお別れのあいさつをした。すると彼女は「え、これでおわかれではないでしょ。明日も会うんじゃないの」という。われわれはなんのことかわからず問い返すと、
「明日ヘリコプターに乗るでしょ」
という。
「いいえ、明日はレンタカーで自由行動です」
「あら、そうなの。ではごきげんよう」

大半の乗客はバンフで汽車をおりるのではなくそのままカルガリーまで行くのだ。そしてバンフではヘリコプターに乗ってルイーズ湖を上空から見物する。ルイーズ湖はバンフからちょっとはなれているからこのじいさんばあさんをバスで連れて行くにしても時間がかかる、えい、めんどうだ、ヘリコプターに乗せてしまえ、ちょっと景色を見せてやればそれですむことではないか、ということになったものと思われる。むろん料金はわれわれのよりずっと高い。しかしもともとが金持ちの観光客にそれが何だろうか。でもロッキーをくだればカルガリーまではアルバータ州の原野で牧場しかない。あの汽車の添乗員はいったいどんなガイドをしたんだろう。

AVISで貸してくれた車はヒュンダイのソナタというセダンだった。旅行ガイドの音声が出る機械も一緒に貸してくれたけど、われわれは取り付けがうまくいかないで苦労したあげく、結局返してしまった。でも返したのは結果的に見てよかった。ロッキーの大景観は荘厳ですらある。静寂の中で見てこそ価値がある。

このソナタという車はけっこう静かで運転しやすく、われわれはすぐなれてレンタカーの利点というものをしみじみあじわった。こんなことなら数年前にワイオミングに行ったとき、何日もかけて苦労して自分の車で行くことなんかなかったんだ、と思ったほどだった。

ところが旅行から帰ってひと月ほどしてこのソナタの大々的なリコールがはじまった。運転中にハンドルがとれてしまう事故が続出したためだという。

な、なにィ!?ハンドルがもげるだって?走行中にそんなことがおこれば一巻の終わりではないか!知らぬが仏とはよく言ったもので「いい車だねぇ。なんてスムースなんだ」と感心していたのだから世話はない。

やりつけないことはしないに限る。レンタカーなんて、考えてみれば車の整備はすべてあなたまかせなのだからおそろしい。どんなにだめな車でも100%コントロールできる自分の車がいい。(続く)
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