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縁の下のバイオリン弾き
10 カナダロッキーへの旅―10
2010年11月10日
西村 万里 西村 万里 [にしむら・まさと]

1948年東京生まれ。大学で中国文学を専攻したあと香港に6年半くらし、そのあとはアメリカに住んでいる。2012年に27年間日本語を教えたカリフォルニア大学サンディエゴ校を退職。趣味はアイルランドの民族音楽 (ヴァイオリンをひく)と水彩画を描くこと。妻のリンダと旅行するのが最大のよろこび。
▲ エルク(スケッチブックより)。
●カルガリー

カルガリーは悪夢のような街だった。ロッキー山脈から下ってきたわれわれは疲れきっていて一刻も早くホテルで休みたいと思っていたのにそのホテルが全然みつからないのだ。あとになってわかったことだが、カルガリーという町は全体が東西南北に4等分されていて、その地区ごとに1からはじまる街路があるのだ。さらに南北に走る街路はストリート、東西に走る街路はアベニューと名づけられていてそれぞれファースト・ストリート、ファースト・アベニューからはじまりだんだん数が大きくなる。ホテルは 888 7th Ave.にあるはずなのだが、7番街がいくつもあることを知らないわれわれが最初にたどりついたのは北東地区の7番街で、正しい番地の南西地区の7番街ではなかった。しかし7番街なのだから南のほうに行けばいいのだろうと思って車を走らせたが、行けども行けども北東のまま。車をとめて犬を散歩させている人に聞くとそれはダウンタウンのほうだ、あの道をまっすぐ下って橋をわたって5番街でまがりなさい、はいったらどこでもそのへんに駐車したらよいと親切に教えてくれた。

ところがこの7番街には市電が走っていて車を乗り入れることができない。それでは平行する道に入ってせめても888がどのへんなのかたしかめようとしてもいたるところに一方通行や行き止まりがあり何が何だかわからなくなる。

しかもこれはカルガリーにかぎったことではないのだが道路標識が極端に少なく、何番街なのか標識がないことが多い。駐車の場所もない。思いあまって駐車場に車を止め、このへんだろうと見当をつけたあたりを歩いたが見あたらない。電話番号はもっているが公衆電話が全然ない。みんなケータイにとってかわられたのだ。このころには私の血圧はたしかに危険領域に入っていたろう。

日が暮れかかって駐車場がいつ閉まるかわからないので気が気じゃない。最後の手段として高級そうなレストランに入り、そこのウェートレスに「サンドマンというホテルをしらないか」と聞くと意外や「その角をまがったところよ」という答え。いそぎ駐車場にとってかえし、車で言われた場所に行ってみるとみつからなかったのも道理、ホテルは南北に走る8th St.に面しているのだった。

ホテルの地下駐車場に乗り入れようとすると扉がしまっている。やむなくリンダを車に残してロビーに行き、どうしたものかと聞くと、「車を寄せれば自動的に開くんですよ。駐車場にはエレベーターもあります」と軽くいなされ、面目をなくして車にもどりやっとの思いで駐車する。ところがどこにもエレベーターがない。エレベーターという表示すらない。駐車場をうろうろ歩き回ってあてずっぽうにドアを開けるとそこにエレベーターがあった。やれうれしやとエレベーターに乗り込む。私たちの部屋は19階にあるはずなのにエレベーターのボタンは3階までしかない。ままよと1階のボタンを押すとドアは閉まったがエレベーター自体は動かない。故障しているのだ。やむなく救助のボタンを押す。電話に出た男は「ドアを閉めるボタンを3秒以上押して下さい」などという。そのとおりにするとエレベーターは動いたけれど、1階のドアが開いたところは案に相違してホテルのロビーではなかった。受付の机にすわっている男に聞いてやっとそこが隣のビルだということがわかり、いったん外に出てホテルにもどった。

ロビーに4つあるエレベーターを点検してその中のひとつだけが地下駐車場に直結していることを確認した。しかし翌日チェックアウトする際にこのエレベーターに乗ろうとするとこれがうごかない。しかたなく荷物をフロントにあずけて町を見物にでかけたが、1時間たって帰ってきてもまだ故障していた。

なぜこんな不便な、うさんくさいホテルを、と思ったが、これもツアーの陰謀なのだろう。金をもうけるために普通の旅客が予約しそうもない場末のホテルをあてがったのだろうと思う。

せっかくフィドルをもってきたのにバンクーバーでもカムループスでもバンフでもひくことができなかった。カルガリーのフィン・マックールスというパブの店長には事前にメールで連絡してある。ライブの合間にフィドルをひくことを歓迎する、といってきた。そこでタクシーで出かける(ビールを飲むつもりなので車で行くことはさけたのだ。)店長は出勤していなかったけれど、ライブをやっている連中がフィドルをひくように言ってくれてようやくひくことができた。リンダと私のビールはただになり、一日の緊張の反動でたいして飲んだわけでもないのによっぱらった。(続く)
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