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無心の境地で |
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2011年7月24日 |
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 | 中山 俊明 [なかやま としあき]
1946年4月23日生まれ。東京・大田区で育つが中2のとき、福岡県へ転校。70年春、九州大学を卒業後、共同通信に写真部員として入社。89年秋、異業種交流会「研究会インフォネット」を仲間とともに創設、世話人となる。91年春、共同通信を退社、株式会社インフォネットを設立。神奈川県・葉山町在住。 |
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台風6号は関東のはるか南東の海上に去った。
四国から和歌山沖の海上を東に進んでいたとき、このあたりの海は大荒れだった。天気図を見ているとその理由が分かるのだが、台風はその中心から反時計回りに風が吹く。西の方角から東に向かって台風が進むと、その東北側にある関東地方には南からの風が吹く。台風の進行方向と風向が一致して勢いが加速され、風はますます強くなり、波が海岸や岸壁に押し寄せる。
おとといはそういう状態だったのが、深夜から南の風が北風に変わった。台風が関東の真南を通りすぎ、東側に移動したのだ。すると反時計回りの風は北から関東に吹き付けることになる。そういう理由できのうの朝からは寒い北東の風が吹いている。
台風が通過してしばらくはうねりと波の影響が残るものだが、きょうの海は台風通過直後とは信じられないほど静かだった。前回エッセーで書いたとおり、北風が南から押し寄せてくる大波を抑えつけてしまった。素人天気予報士(僕のこと)はそれをある程度予測していたが、これほどの凪になるとは。風の力の強さをまざまざと見せてもらった。
朝、長者が崎のマリンクラブの店長に電話すると「Sさんがすでにスタンドアップで海に出ておられます」という。Sさんは元プロのカーレーサーで、いまは東京でサラリーマンをしている。知る人は知る有名レーサーだったらしい。歳のころは40歳をちょっと過ぎか、でも海男の年齢はほんとわからない。週に1回は東京からここにやってきてウィンドサーフィンやスタンドアップ・パドルボード(SUP)を楽しむ。そうでもしないと東京に押し潰され、気が狂いそうになるという。さぞかしかっこいいスポーツカーをかっ飛ばしてくるのかと思ったら、さびた軽トラックだ。そのアンバランスがまたかっこいい。
ここ1週間台風で海にもでられなくて運動不足だし、幸い今日は仕事もないし、海にでてみるかと思うもののなんとなく気が乗らない。艇庫にでかけ、切り立った崖の途中のテラスから海を見ながらSさんと店長とだべったあと3人で隣の町営駐車場の食堂に行き、ラーメンを食べて帰る。気分が乗らないときはきっぱりやめておく、というのが海遊びの鉄則だ。Sさんはウィンドサーフィンで沖へ出て行った(ここまで7月22日夜記す)。
その翌日。運動不足、まだうねりが残っているだろうが、思い切って長者が崎の艇庫へ。意外にも海面はそう波立ってはいない。でも北東風がまだ相当ある。Sさんが言っていた。北風、というより冷たい風はパンチがあるのだと。SUPでひとり出艇。
風に弾き飛ばされ落水しても、ライフジャケットの胸ポケットから防水ケースに入ったアイフォンを取り出し、写真を撮る余裕が生まれてきた。これも慣れというものか。写真の撮り方がこの歳になって変化してきた。構図やシャッターチャンスをあれこれ考えない。ただ押す。幼な子が撮った写真のように、無心のよさがある。これのほうが撮影者の心境が見る人に伝わるかもしれない。それにしても気づきの遅いこと。(ここまで7月23日夜記す)
長いあいだ文章が書けなかった。写真と同じように、うまく書こうとする気持ちを捨てた。感じるまま、他人がどう思おうと気にしない。なーんも考えないでぱちりと撮った写真と、お気楽なエッセーで再開。
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