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ボーダーを越えて
73 単刀直入
2006年1月1日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ イギリス南東部でいつも泊まるB&B(Bed & Breakfast)の窓の外にかかった餌を食べにやって来るTitという種類の小鳥。冬は特にこのB&Bには野鳥が集まって来る。
新年おめでとうございます。

クリスマスが過ぎると、気が抜けたようなのんびりムードになるアメリカですが、新年を迎えるというのは、やはり引き締まった気分になりますね。
昨年は皆さんからの声援で、たくさん力をいただき、本当に感謝しています。今年は少し前進するような年にしたいと思っています。
今年もよろしくお願い申し上げます。

*** *** *** *** ***

先月ロンドンからの帰途、ダラス空港で国内便への乗り換えのためのセキュリティチェックに並んでいたときのこと。

私の前の男性が携帯を耳から放さず、何か話し続けていた。年齢はどう見ても40代後半のビジネスマン。こんな場所でも仕事上の電話かなと思っていたら、「僕も愛しているよ(I love you, too.)」と言うのが聞こえた。奥さんなのか、ガールフレンドなのか知らないが、相手に、「愛してるわ(I love you.)」と言われたのだろう。私は後ろに立っている我が夫を見上げた。

「『愛してる』と言われたら、『僕も愛してる』と返事をするのが礼儀だぞ」と、我が夫に無言で言ってやりたかったのだ。が、「礼儀知らず」の彼はポケ〜ンとしている。仕方がない、言葉で説明しようか、と思っていたら、このビジネスマン、今度は「とっても愛してるよ(I love you SO MUCH.)」と、今度は熱っぽく「とっても」を強調して自分から愛を告げた。

これには我が夫のみならず、私もポケ〜ッとしてしまった。独身の雰囲気はないから、相手は奥さんなのだろう。としらた、新婚ホヤホヤなのかな。年齢からすると、彼は再婚だろう、などと余計な想像をつい巡らしてしまった。不思議なことに、何を話しているのかは全く聞こえない。手荷物検査の順番が近づくと、彼は再び「僕も愛しているよ」と言って、電話を切った。

こういう人はイギリスにはいないな。一般化してはいけないとは自分をたしなめながらも、そう思ってしまった。フランス人やイタリア人の男性だったら、「愛している」と何度も言うかもしれない。ただし愛人に向かってであって、自分の連れ合いにはそうたびたび言ったりはしないだろう(と、これは憶測です)。私の想像が当たっているかどうかはわからないが、このビジネスマンは「アメリカ人」らしい男性であった。

ダラス空港はとてつもなく広く、スカイリンクと呼ばれるモノレールが4つのターミナルを結んでいる。税関を出てから国内便ゲートに移動するために乗ったモノレールはガラガラで、私たちの他にはカップル1組と1人の男性が乗り込んできただけだった。カップルはプエルトリコでバケーションを楽しんできたというだけあって、夏のような格好をしている。たまたま寒波に襲われていたダラスが寒くて、「機内の毛布を持ってきちゃった」と、奥さんは大きなショールのように身体を覆った赤い毛布を指差した。この3人とも南カリフォルニアの住人で、カップルは私たちと同じサンディエゴ行きの便で家に帰るということだった。ということがすぐわかるくらい、たった数分間におしゃべりが進んだのだ。もちろん初対面なのだが、まるで長年付き合っている隣人同士のように。この気軽さ、そしておしゃべり好きは、アメリカ人の特性のようなものだ。イギリスで10日間を過ごして来たばかりだと、改めてそう感じる。

私のその感想をモノレールを降りてから夫に話すと、彼は、「そうなんだ。その気軽さのないイギリスに長くいると、苛々して来そうだ」と言った。彼は実家のある町の八百屋さんで、店に置いてあったある商品についていろいろ聞いたら、その場にいた年配の女性客にアメリカ人と間違えられたことがある。「まったくアメリカ人は、何でも情報を欲しがってうるさいんだから」と。

たしかに夫の気質はアメリカに合っている。(世界観や政治の心情は合わないけれど。)私は初対面の人とは夫よりはるかに口が重いから、アメリカ人的ではないけれど、物事をスパッと言わない日本人やイギリス人といっしょにいると、疲れて来る。(もちろん、親しい友人たちとはそんなことはありません。)私にとってイギリス英語が難しいのは、そういう点だ。語彙や慣用句が異なるからということではない。好く言えば丁寧、悪く言えばまどろこしい。そして、本心(本音と言ってもいい)はどうなのか、なかなかわからないことが多いのだ。

それは道路標識にも表れる。イギリスの道路は幹線道路以外は狭い2車線が多い。どういう訳かしょっちゅう工事をしていて、片道しか通れないことが珍しくない。そういう所では仮設信号が置いてあり、信号の手前に置かれる標識にはこうある。
 When red light shows, please wait here. 
(赤信号のときは、ここで待ってください。)
意味は明白だ。が、語数が多いから字が小さくなって読みにくい。アメリカだったら、WAIT HERE ON REDとたった4語で済ませてしまうだろうに、と、いつも私はこの標識を見るたびに思わずにはいられない。

地元の成人学級で、イタリア料理のクラスを取ったことがある。先生はイタリア人と結婚してミラノに長年住んでいるというカリフォルニア出身の女性だった。 年に1度里帰りして、長年のイタリア生活で身に付けたイタリア料理を1ヶ月のカリフォルニア滞在間に教えるということだった。英語にイタリア訛りがあるほどイタリアに染み込み、イタリアでしあわせに暮らしている様子が十分伺えた。その彼女に、アメリカのもので恋しいと思うものがあるかと聞いてみたら、「Say it as it is!」と、すかさず答えた。あるがままにものを言うことだと言うのだ。単刀直入と言ってもいい。同感である。(もっとも、単刀直入にものを言う政治家など、アメリカでもいなくなってしまいましたが。)
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