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ボーダーを越えて
77 ホンジュラス(1)行ってみよう
2006年2月28日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 首都テグシガルパ(Tegucigalpa)の中央広場。1821年にスペインから独立を獲得した後、中米連邦を確立させようと努めたフランシスコ・モラサン(Francisco Morazan)の銅像の足元には、老人たちがたむろしていた。
▲ 田舎の村の大通りを、買い物を済ませたらしい娘さんがゆっくり歩いていた。
▲ ホンジュラス北部はカリブ海に面した美しい海岸線が続く。
80年代には毎年クリスマス休暇にメキシコを歩き回ったものだ。最初はトーマスの労働者の家族を故郷に訪ね、その周辺を見て回ったのだが、次第にユカタン半島や、最南端のチアパス州にも出かけた。やがてメキシコは行き尽くしたような気持ちになり、国境を越えてグアテマラへと足を伸ばした。

アメリカから見るとメキシコは貧しいが、メキシコから入るとグアテマラはもっと貧しく見えた。実際そうなのだが、グアテマラは世界中で最も美しい国の1つだと思う。しかもアボカドの故郷でもあるので(「アボカド物語」(2)で、アボカドの原産地はメキシコとグアテマラだと述べました)2回行ったが、それからさらに南へは行かなかった。エルサルバドルやニカラグアでは内戦が激しくなっていたからだ。

グアテマラで有名なマヤ文明遺跡のあるティカル(Tikal)で、日本人一行と出会った。ホンジュラスで農業指導をしている人とその家族、そしてその人の友だちで日本から遊びに来ている人たちだった。
「グアテマラは豊かですねぇ」と、農業指導員は言った。
「そう見えますか?」
「見えます。ホンジュラスの農業のやり方はもっともっと遅れていますよ」
「私がホンジュラスに着いたときにね」と、お友だちが口をはさんだ。「入国管理で、何しに来たのかって聞かれて、観光だって答えたら、ここに見る所なんかあるのかって言われちゃいましたよ」
そんなことを聞いたら、ますますホンジュラスには興味が湧かなくなる。

当時、ニカラグアのサンディニスタ政権を敵視し、エルサルバドルの内戦で極右勢力を押していたアメリカは、コントラと呼ばれる反ニカラグア政府武装部隊の根拠地を密かにホンジュラスにどんどん作っていた。コントラのことは次第に新聞に報道されるようになっていったが、私には身近な問題とは感じられなかった。

直にホンジュラスに触れたのは、家を建て直したとき、現場で働いていたメキシコ人にホンジュラス出身のガールフレンドを掃除人として雇ってくれないかと頼まれたときだ。以前、メキシコ人の若い女性が掃除に来てくれていて親しくなったのだが、彼女がシカゴへ引っ越していってしまってからは、いい人になかなか当たらなかった。それでローサという名のそのホンジュラス人を雇ってみた。彼女は2人の子どもをホンジュラスの前夫のもとに残して1人で出稼ぎに来ていて、再婚した夫は子どもの面倒をよく看ていないと心配していた。気の毒な状況にある彼女だったが、私とはどうも心が通じなかった。そのうちメキシコ人とも彼女は別れた。それからだったか、よく覚えていないが、私の机の引き出しから少なからぬ額の現金が2度消えた。そんなところに現金を置いておく私が悪いのだが、やはり気分は悪い。

「ラテンアメリカでは下層階級は何世代も搾取され続けて来たから、チャンスがあれば仇を取って帳簿尻を合わせようとするんだ。中流階級は貧乏人を馬鹿にしてこき使い、使用人は主人から盗む。それが珍しくないんだよ」
と、トーマスは説明した。

そういうことなのかもしれない。でも、十分な報酬は払っているし、うるさい注文などはつけたりはしていないつもりだから、スペイン人に征服されてからの長い歴史の清算を私がさせられるのはたまらない。自衛することには心がけたが、どうも落ち着いていられない。結局、私が長期の調査旅行に出かけるときに、彼女は断ってしまった。

たった1人との出会いでその国全体を判断してはいけないことは承知している。が、どうもホンジュラスには行ってみたいという気が起こらなかった。それから10年ぐらい経った。

近年、エルサルバドルの内戦当時を舞台にした映画がいくつか出て、サンディエゴで上映されたものはすべて観ている。中米諸国に平和がやって来たとはいえ、社会問題が解決されたわけではないし、貧困は一向になくなっていない。それどころか、中米とアメリカとを自由市場にしようと、CAFTA (Central American Free Trade Agreement:中米自由貿易協定)がブッシュ政権によって押されている。10年前にメキシコとカナダとアメリカとの間で結ばれたNAFTA (North American Free Trade Agreement:北米自由貿易協定)で、メキシコの農業は壊滅状態に追い込まれたという前例がありながら、である。

そのことがニュースになった去年の暮、ある新聞の旅行欄で、グローバル・エクスチェンジ(Global Exchange)というサンフランシスコに本部を置くNGOが、ホンジュラスの社会問題活動家グループを訪問しながらホンジュラスの社会や文化を学ぼうというツアーを企画していることを知った。普通の観光ではなく、訪れる国の社会の現実を触れようという目的のリアリティー・ツアー(Reality Tour)の一環だという。なんだか、興味がむくむく湧いて来た。

グローバル・エクスチェンジに早速連絡して送ってもらった資料を見ると、俄然、行ってみよう!という気になった。トーマスも乗り気で、休み休みなら行けると言うので、申し込んだ。そうして、2月中旬、正味10日間、ホンジュラスを駆け巡った。といっても、ホンジュラスの面積は日本の3分の1ちょっとだから、大した距離をカバーしたわけではない。が、中身は濃かった。普通では出会えないようなすばらしい人々に毎日会って、話が聞けたのだ。それで私の視野が急にもっと広がったような気がする。


そのことを是非皆さんにもお話ししたくて、これからしばらく、ホンジュラスで出会った人々のことを書かせていただきます。なお、グローバル・エクスチェンジについては、以下のサイトをご覧ください。
http://www.globalexchange.org

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35 最終回:グローバリゼーション
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