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僕の偏見紀行
111 メコンへの旅(1)チェンマイ到着
2011年2月2日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ 有名なチェンマイのナイトバザール。食料品から衣類・アクセサリーまであらゆるものがあふれている。
▲ 僕の食生活を支えてくれた食堂のキッチン。昼も夜も活気があった。
▲ その食堂でよく食べたヌードル・スープ、卵入り麺にポークの具。安くて旨かった。これで40バーツ、120円くらい。
バンコクで乗り継ぎチェンマイの空港に到着したのは夕方6時半過ぎ、もうあたりは暗くなり始めていた。両替を済ませ、タクシーカウンターでホテル名を告げチケットを買う。1月というのに生ぬるい南国特有の空気の中、タクシーは暗い街を走った。車内には少し甘いような、カビくさいような、どこか懐かしい空気が漂っている。

半年くらい前、次の旅をどこにしようかと考えながらネットを見ていたら、ラオス北部からメコン川をスローボートでルアンパバンまで2日かけて下るという船旅情報があった。

昨年行ったベトナムで見た広大なメコンの流れ、その豊穣さにもっと触れてみたい、と僕は思っていた。そういえば村上春樹に「中国行きのスロウ・ボート」という短編集があったなあ。

さらに調べると、このボートによるルートはいろいろあって中国、タイ、ラオス、カンボジアなどがメコンの流れによって結ばれているのが分かった。

僕が乗りたいボートはタイ国境に近いラオス北部のフェイサイという小さな町から出ているようだ。そこでまずタイのチェンマイに入り、そこからチェンライ、さらにラオス国境に接するチェンコーンへ、とローカルバスを乗りつぐことにした。

チェンコーンから渡し船でほんの数分、メコン川を渡れば、もうそこはラオスのフエイサイ。渡し舟で国境を越えるのも未体験だ。是非やってみたい。かくしてこの1月上旬から17日間のメコンへの旅が始まることになった。

チェンマイはタイ北部に位置し、タイでは比較的涼しく住みやすいといわれている。また古くはラーンナー・タイ王国の都としても栄えた。今でも市内には100を超える由緒ある寺院が残り、崩れかけた城門や城壁とともに当時の栄華をしのぶことが出来る。物価が安く静かで落ち着いた環境を求めてリタイア後のロングステイを楽しむ日本人も多い。

ホテルは街の中心のナイトバザールにも近い便利な場所だにあった。朝食付きで1泊4000円位だったが、バスタブ付の部屋は広く清潔、ビュッフェスタイルの朝食は通常のメニューに加えてアジア特有の麺類や豊富な果物がつくという満足すべき内容だった。

飛行機を乗り継いで来たので朝からちゃんとした食事は抜きだった。軽い食事をしたいとフロントに聞くとホテル前の食堂を教えてくれた。店の名を尋ねたが、特に名前はない、単なる食堂だ、ということだった。

早速行ってみると、店頭には魚や肉のから揚げ、野菜類が豊富に積まれ、奥のキッチンではオバサンが手際よくナベを振っていた。

店は夕食時とあって地元の人で賑わっている。座ると若い兄ちゃんがメニューを持ってきてくれた。幸いにタイ語と英語が併記してある。麺類は、麺の種類や具をいくつかのオプションから選択し、さらにスープありかドライかを選ぶ仕組みになっている。なかなかにきめが細かいのだ。迷った末ヌードルスープチキン入りというのを注文する。

やがて運ばれてきたのは澄んだ熱いスープに細めの麺、具は鶏肉と肉団子浮かぶ一杯だった。見た目はベトナムのフォーに近い。レモンを絞り、付け合せの香草を麺にのせる。テーブルには山盛りの香草の皿といくつもの調味料が置いてある。

さっぱりしたスープのからんだのど越しの良い麺をすすると、味わったことの無いうまみが口一杯に広がる。辛味や塩味、酸味、魚醤らしい香り、野菜の甘みが一体となって疲れ気味の胃にやさしい。未体験の味覚というのはそれだけで評価が甘くなるとは思うが、僕には限りなく美味しかった。

店はお世辞にも清潔とはいい難いが、キッチンを見ていると全ての食材がしっかり加熱されているのがよく分かる。麺類のゆで釜は常に煮えたぎり、肉や魚は充分にナベで炒められている。

店の一角には時代を思わせる帳場があり、主人らしき貫禄のあるオヤジが黙って座り、にらみをきかせている。麺類や魚とご飯、ビールなどたのんでも1品100円前後、全部で300円もあれば充分だった。

この店にはお世話になった。チェンマイにいた4日間何度も通い、兄ちゃんたちとも親しくなって片言の英語で挨拶を交わすようになった。この店のおかげで僕のチェンマイでの食生活は安定したものになった。

チェンマイ初の晩御飯に満足してホテルに戻ると、部屋の中まで外の騒音が聞こえてくる。どうもホテル前のカラオケハウスからのようだ。そういえば「カラオケ」とカタカナの看板があった。

それにしてもわざわざ店の外に向けて大音響を響かせなくてもいいのに、客寄せのためだろうか。わが祖国もハタ迷惑なシロモノを持ち込んでくれたものだ。

けたたましい騒音に閉口してフロントに相談する。するとフロントの女性が素早く奥まった静かな部屋に変更してくれた。ノンビリしているように見えるが、ここのフロントはやる時はやってくれるのだ。   (続く)
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