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かくてありけり
54 遷宮の撮影
2013年10月7日
沼田 清 沼田 清 [ぬまた きよし]

1948年、新潟県生まれ。千葉大学工学部卒業。2008年、通信社写真部を卒業、以後は資料写真セクションで嘱託として古い写真の掘り起こしと点検に従事。勤務の傍ら個人的に災害写真史を調べ、現在は明治三陸津波の写真の解明に努めている。仕事を離れては日曜菜園で気分転換を図っている。
 10月2日の夜、三重県宇治山田市の伊勢神宮の内宮で遷宮が行われました。神殿を新築し、旧殿から新殿にご神体を移すのが遷宮です。5日には同様に外宮でも営まれました。

 20年に一度の神事となれば、ニュースカメラマンなら誰しもその様子を写真に納めたいと思うことです。しかし夜の闇の中で行われる儀式で、ストロボをパカパカ炊かれては、儀式の荘厳さが台無しになるとして、普通のストロボの使用は許可されません。私は過去2回この取材をしましたが、赤外ストロボと赤外フィルムの組み合わせで撮りました。
 戦前に遷宮のハイライト場面の写真記録が無かったのは、暗闇でどうやって撮るかという写真技術上の問題が克服されてなかったからです。
 1953(昭和28)年の時に、写真記者協会の要請を受け、富士フイルムが特別に赤外フラッシュと赤外フィルムを調整し、初の撮影が実現したと聞いています。

 それから20年後の1973(昭和48)年10月、私は名古屋支社写真部に在籍していてこの取材にめぐり会いました。ご神体は絹垣と呼ばれる白絹のカーテンで覆われたまま移動します。その前後にはこれを祀る人々が列を成し、そのところどころに、燃え口を下向きにしたかがり火が随行し、辛うじて足元を確保できます。でも絹垣の周囲は暗闇と言ってよいでしょう。

 各社ともコダックの赤外フィルムと、カコのP5ストロボの発光部にコダックの赤外フィルターをかぶせた仕掛けで撮りました。当日、本番前に撮影のセット一式を中部写真記者協会の幹事の前でテスト発光をして、可視光が漏れないことのチェックを受けました。

 事前にテスト撮影を何度もやり、薬品の種類や温度など一番仕上がりのよい現像条件も得ておきましたが、問題はむしろ、撮影で被写体を目視できないことです。カメラマンにとってこれほど困難なことはありません。いわば目隠し状態で撮れというわけですから。
 明るいうちに取材地点に三脚を据え、カメラをセットして撮影範囲を決めて待つ。レンズのピント位置や絞りは動かないよう接着テープで固定します。三脚を蹴飛ばしたり、蹴飛ばされないよう神経を使いました。

 各社揃ってストロボを炊くと幽かに行列が浮かび上がるような気がしますが、とにかくおぼろで、ディーテイルは分かりません。現像されたフィルムを見て初めて自分の目の前を通過した人や事物がどうであったのか判明する始末でした。

 そんなわけで、前線基地へ引き上げてきて、デスクから「好写真だったぞー」と言われてホッとしましたが、正直な話、後にも先にもこんな手応えのない撮影はありませんでした。「ノーファインダー撮法」というのがありますが、それはファインダーこそ覗いていなくても、被写体を肉眼で捉えていて、レンズが的確にカバーするようカメラの向きを調整し、タイミングを測りながらシャッターを押すものです。
 ところが遷宮取材は被写体を全く目視してないままシャッターを押すのですから、手応えがあるわけはありません。

 1993(平成5)年も同様に赤外フィルムと赤外ストロボの仕掛けで撮影しました。
当時、ISO感度1600のカラーフィルムが開発されていましたが、こちらは写りませんでした。

 それからまた20年、その間にカメラはデジタル化され、実用のISO感度も飛躍的に向上しました。今年に入って遷宮の前触れ記事が出始めて、私の関心は、今回も赤外線撮影だろうか、それとも自然光撮影だろうかという一点でした。
 
 遷宮から一夜明けた3日の朝刊一面にカラー写真が載りました。赤外線撮影に代わってわずかな自然光で撮ったデジタルカラー画像でした。時代の移り変わりを肌身に感じました。
 念のため共同通信の名古屋写真映像部へ電話し、旧知のS部長に撮影データをお尋ねしました。
 カメラはニコンF4、レンズは28ミリ、絞りF1.4、シャッタースピード3分の1秒でISO感度は25600相当になるそうです。計算すると、昼間の明るさの50万分の一暗さで撮ったことになります。この20年間の画像技術の進歩の凄さを物語っています。

 不可能を可能にした技術革新には目を見張りますが、一方で写真産業界の有為転変も感じます。20年前に使用した仕掛けを構成する赤外フィルムと赤外フィルターはいずれもコダック製品でした。そのコダックはデジタルカメラに席巻され今や見る影もない。しかもデジタルカメラのプロトタイプと言えるのを世界に先駆けて出したのは当のコダックですから皮肉なものです。

 次の遷宮は2033年。もっと鮮明で諧調豊かな遷宮写真が見られると想像します。この目で確かめたいものですが、果たしてその時まで生きていられるでしょうか?

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