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ボーダーを越えて
187 生ある日々を
2016年1月1日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ アロエの上にかかった蜘蛛の巣に落ちた雨粒。今年の冬はエルニーニョの影響で、大雨になるという予報がでています。
明けましておめでとうございます。

2016年元旦で、私は68歳後半期の第一歩を踏み出します。

ちょうど半年前、68歳になったときは、思わずニヤリとしました。未練がましい思いから吹っ切れたような気がしたのです。68という年齢は、もうすぐ70だと思いがして、ぐんと70歳に近づく。それに比べると、67という年齢は、まだまだ60代に未練がましくしがみついているようで、どうもすっきりせず、堂々と胸を張って「67歳です」と言えないような気分だったのです。68になると、それが吹っ切れた。スタミナが落ち、物忘れがひどくなったとはいえ、まだまだ元気だ(と自負していたので)。そして、70になるのが待ち遠しいような気がしてきました。ほんとうなんです。

気持はまだまだ若いし、周囲のヨーロッパ系人やメキシコ人と比べると、外見も年齢より若く見える。このまま70になって、「えっ? ほんとうに70歳?」なんてびっくりさせたい−―と、いまからそんなことがたのしみになって、ひそかにニヤニヤしていました。

でも、ふと別なことに気が付きました。70になるまでに急に老け込むかもしれないということもありますが、それはあまり気になりません。それよりもうちょっと先の80歳になるまであと12年もないということに気が付いたのです。いま住んでいる家を建ててから21年になりますし、その間に飼っていた犬が3匹、猫も3匹死にました。そんなことを考えると、12年なんて、アッという間に経ってしまう。とすると、私はたいしたことを成し遂げないままにこの世を去ってしまいそう。私は唖然としてしまいました。

たいしたことではなくても、私には中途半端のままになっている課題が2つあるのです。1つは、19年前に始めたボリビアへの沖縄移民の研究が未完のままで、調査に積極的に協力してくれた移民の方々に申し訳ないと、ずうっと気になっていました。もう1つは、これまた20年ぐらい前に始めた母の回想記が未完のままで、ちっとも前進していない。その2つはなんとか完成させなければ… 

80歳になる前に私はボケてしまうかもしれない、とも考えました。そうでなくても、自分の課題を成し遂げるのにはもうあまり時間が残っていないということは確かです。

ところが、そんなことを考えるのも呑気だということを思い知らされることが、起こりました。

3週間ほど前、友人から突然、メールが来ました。彼女とはとても親しく交遊していたのですが、この1年ぐらい、食事に何度も誘っても来なくなり、向こうからの連絡も途絶えて疎遠になっていたので、この唐突なメールは、いったい何事だろうと胸がドキドキする思いで読み始めました。

メールには、それより1週間前にロサンジェルスの病院で、彼女の連れ合いが直径57ミリもある脳腫瘍を摘出する大手術をし、サンディエゴの家に帰って来たところだ、とあります。正しい診断が出るまで時間がかかったこと、悪性腫瘍で再発すると言われており、進行も速いが、とにかくできるだけのことはするつもりで、これから放射線療法や化学療法もする予定だと、淡々と書いてあります。感情の起伏の激しい彼女だけに、その落ち着きが、かえって重大な異常事態を感じさせました。

脳腫瘍ができたのは1年くらい前だろうとありますから、彼女は連れ合いの異常に気が付き始め、心配で友人付き合いどころではなかったのでしょう。娘夫婦が来てくれて力になってくれているとあるので、私は彼らの邪魔にならないよう、私にできることがあったらなんでもそう言ってほしいと伝える返事を出し、花を送り届ける手配をするだけにして、そうっとしておくことにしました。

それから数日後、近所に来ることがあったらうちに寄らないかというメールが来たので、口実になる用事を作り出して、連れ合いのトーマスといっしょに、友人宅へ行ってきました。友人も、娘夫婦も、額から頭のてっぺんを通って耳の後ろまで大きな縫い傷のある本人も、みんな深刻な表情はなく、かと言って無理に平静を装っているのでもなく、落ち着いて事態に対処していることに、私たちのほうがかえって勇気づけられる思いでした。

「これからどうなるかわからないけど、とにかく、いま、ここに彼が私たちといっしょにいることに、感謝しているわ」と、友人は言いました。彼がそうしていられる日が1日でも多くあるように、できるだけのことはする、とも。ご本人はいつもとまったく変わらず、ニコニコしています。彼はトーマスと同い年。

その後に来た友人からのメールには、悪性脳腫瘍のある連れ合いの態度があまりに立派で、家族全員が彼に力づけられているくらいだとありました。放射線治療が進むと、身体にかかる負担がだんだん重なって来て、陽気でいられる気力もなくなっていくのが普通なのに… 

とにかく、彼といられる1日1日を大事にしていくつもりだという友人の言葉を、私も自分の、いまの、そしてこれからの生き方に当てはめようと思います。生あるこの日を感謝しながら、毎日を送ること。それが大事なのですね。

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