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僕の偏見紀行
112 メコンへの旅(2)ア・ディ・イン・チェンマイ
2011年2月6日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ チェンマイのある寺院にて。お参りする人が貼り付ける金箔でまぶしく輝く仏像。
▲ 日帰りクルーズで立ち寄ったハーブ園の船着場。
▲ 親しくなったクルーズの仲間。イタリア人女性とメキシコ人男性のお二人
古い寺院の多い静かな美しい古都、僕はチェンマイについてこんなイメージを持っていた。ところが町はノラ犬がうろつき、車やバイクが盛大に排気ガスを撒き散らすホコリっぽい大都会だった。

3輪軽トラを改造したトゥクトゥクがけたたましいエンジン音を響かせ、ソンテオと呼ばれる小型トラック改造の乗り合いタクシーが疾走する、そんな町だった。

北部山岳地帯に近く1月の朝はかなり冷え込む、しかし昼間太陽がでるとTシャツでいいほど暑くなる。乾期である冬がこうなら、真夏はもっと大変だろうと思った。

有名なお寺をいくつか巡った。トゥクトゥクに乗ったり歩いたり、旧市街を中心に歩き回った。トゥクトゥクは乗るたびに運賃交渉が必要だが、外国人向け相場は高い。些細な額だがそのつどの交渉は疲れる。

お寺はいずれも華麗な建物、黄金色に輝く仏像が見事だった。どこも熱心に御参りする人々であふれていた。タイもこの後行ったラオスもそうだが、寺院も仏像も金色にまぶしく輝いていた。

同じ仏教でも日本のお寺とはずい分雰囲気が異なる。これも仏教の多様性を表すようで興味深い。それにしてもタイやラオスの人が日本のお寺を見たら戸惑うことだろう。お参りしているのは地元の人に加えて欧米や中国・台湾などの観光客が多かった。

午後から市内を流れるメー・ピン川を遡るクルーズ船に乗った。1時間ほど遡上して折り返し点のハーブ園で一休みして返ってくるという半日ツアーである。

船が黄土色の静かな川面をすべるように進むと、両岸には緑に囲まれた瀟洒なホテルや小さなカフェが点在するのが見えてきた。岸辺では親子連れがのんびりと釣り糸を垂れている。

湿った少し甘い香りの川風に吹かれていると、しみじみとした心地になり、はるばるとやって来たという思いがつのって来る。船は定員20名くらいだが、乗っているのは10人前後、欧米人が多い。

自然にまわりのグループと会話が始まった。陽気でよくしゃべるイタリアの女性、彼女のかたわらには連れのメキシコから来たというヒゲの男性。

初めての土地で見知らぬ人たちと他愛のない会話を交わしていると、旅の始めの緊張が少しづつほぐれていく。僕の心の中で寒かった日本が遠くなる。

グループにはこの女性の友人というイタリア人男性もいた。その彼のそばにはパートナーであるタイの女性がよりそっている。今回は彼女にとってひさびさの里帰り旅行らしい。

髪に白いものが混じる彼女は嬉しそうに周りの光景について説明していた。たまたま観光船に乗り合わせただけのことだが、なかなかにインターナショナルな楽しいグループだった。

イタリア人女性に誘われて一人旅の青年が会話に加わった。インドから来たエリートサラリーマン風の彼はまわりに名刺を配り、メールアドレスを交換した。なんとかいう企業の地区マネージャーという肩書きだった。

旅先での出会いは「その時だけ主義」の僕は、すでにリタイアしITにも弱いのだと丁重に断った。日本のエラソーオジンにちょっと似た感じの青年だった。どこにもいるんだなこんなタイプは。

よく日本人は内気でおとなしいとか、アメリカ人は陽気で社交的とか、国民性をステレオタイプに決め付ける言い方があるが、僕の経験の範囲ではそんなことはなかった。

恥ずかしがりで内気なアメリカ人もいれば、あつかましいイギリス人もいた。いえるのはどの国でも普通の庶民の心根はやさしく、旅人にはみんな親切だった。エリート君のくれた名刺は靴べらとしてとても重宝した。

ふと僕が、うちのカミサンは家で年老いたネコの世話に追われている、ともらした。すると待ってましたとばかりにイタリア人女性が身を乗り出してきた。そしていかに自分もネコを愛しているか、やはり自分も年老いたネコを22才になるまで世話したのだ、と猛烈な勢いで語り始めた。

今は10才になる犬を飼っているのだが、旅行中の世話は親しい友人に頼んできたという。しかしその犬が出発の別れ際に、落ち込んでしょげ返っていたのが哀れでならなかった、と嘆いた。

心やさしい人だった。ハーブ園での休憩のおり、小屋の屋根で居眠りする子ネコを発見した彼女は狂喜してカメラを構えた。ぼくも負けじとシャッターを切る。動物好きに国境はない。心を開き素直に付き合えばどこの国の人もみな同じだ。

クルーズから戻ると夕方だった。またしても昨夜の食堂へ行く。少し慣れてきたのでメニューをゆっくり吟味する。そしてエビのから揚げにんにく風味、ライス、焼きブタ入りヌードルスープ、ビールを注文。

歩き回った身体にビールがしみわたり、塩のきいたエビとニンニクの香りが口いっぱいに広がる。充分に満足して110バーツ、330円。

食堂の帰り、同じ通りにランドリーを発見した。2週間を超える日程だが、荷物を軽くするため着替えは数日分しかない。センタクをどうするか悩んでいた僕は救われる思いがした。

早速ホテルへ戻りセンタク物をまとめ、いそいそとランドリーへ向かう。いきなり現れた見慣れぬ人相のオヤジに、アイロン掛けをしていた店の女性は驚いていた。メガネをかけた真面目そうな女性だ。

僕が黙って洗濯物を入れたビニール袋を差し出すと、彼女はいきなりそれを八百屋の店頭にあるようなハカリに載せて言った。

「ワンキロ、50バーツ。OK?」
僕はあわててうなずいてカネを払う。

彼女は「トゥモローイブニング」といいながら受け取り伝票をくれた。この伝票には明細が無かった。チェンマイのセンタク屋さんは重量制なのだ。僕の下着1キロ分のセンタク代が150円。これは助かる。

店の壁にはキロ単位の料金表が貼ってある。確かに1キロ50バーツ、至急だと90バーツだ。いちいちセンタク物の明細は確認しないようだ。しかし細かいことは気にすまい。彼女の真剣な顔付きと態度を見れば何の心配もない。これでいいのだ、ぼくはなんとなくウキウキした気分でホテルへ戻った。

ホテル前の食堂とランドリー、さらにその隣のセブンイレブン、ここでは飲み水を買う、これで僕のチェンマイライフはゆるぎないものとなった。  (続く)
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62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
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