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ボーダーを越えて
83 ホンジュラス(5)農地のない農民
2006年4月5日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ 全国中央農業労働者協会長のパオリノ・セラヤさん。
▲ ホンジュラスのどこでも2種類―メキシコ産(左)と地元産(右)―のアボカドが売られているが、地元産はメキシコ産に押しやられている。
▲ 田舎町の八百屋さんにも、外国産の果物(ほとんどがチリ産)がいっぱい。ホンジュラスの小農民はとても太刀打ちできない。
リアリティツアーのプログラム第1日目の午後は、農地改革を求める全国中央農業労働者協会(CNTC: Central Nacional de Trabajadores del Campo)を訪れるため、グランデ川を境にテグシガルパから隔てられたコマヤグエラ(Comayaguela)という隣町へ行った。

グランデ川の最初の橋は1998年のハリケーン・ミッチで流されてしまった。橋だけではない。ハリケーン・ミッチは丸3日間テグシガルパにとどまって荒れ狂い、7000人近くの死者と8000人もの行方不明者を出し、140万人から家を奪った。当時のホンジュラスの人口は600万足らずだったから、被害の凄まじさが想像できるだろう。欧米や日本やメキシコが再建のための援助をしたのだが、橋の再建は日本政府の援助だったそうで、その橋はプエンテ・ハポネス(Puente Japones =日本橋)と呼ばれ、橋を渡る地点に日の丸のマークがある。

ボリビアの東部低地にある日本人移住地の近くの川の橋も日本人政府の援助で 架けられたとかで、同じようにプエンテ・ハポネスと呼ばれ、日の丸マークが付いていたのを思い出した。ラテンアメリカへの日本援助には、土木工事が多いのはどうしてなのだろう。JICAと建設業者が癒着しているのかしら…日本の建設援助はだいたいは評判がいいけれど、ボリビアの橋へ向かう舗装道路の部分で人があまり注目しないような場所はちゃっかり手抜きしてあった。

でも、テグシガルパの交通の要となるこの橋は、まぁいわば日本の看板作業だろうから、手抜きはしなかっただろうな―「日本橋」を渡りながらそんなことを考え、コマヤグエラに入った。

大通りからちょっと外れた所にCNTCの事務所はあった。パオリノ・セラヤ会長が2階の会長事務室でCNTCの説明をしてくれた。部屋の中でも帽子をかぶっているセラヤ会長の赤銅色の膚の横顔は、ホンジュラスの英雄、レンピーラを彷彿とさせる。農地改革が不徹底に終わったホンジュラスでは、土地を持たない農民世帯が40万もあるという。農地改革を求める農民組織はいくつかあるが、腐敗した政府と妥協せずに根本的な農地改革を要求し続けているのはこのCNTCだけだと、ツアー引率責任者のサンドラさんがここに来る前に言っていた。

会長の部屋の部屋の壁にかかっている大きな白板は、スタッフの業務予定でびっしり埋まっている。ホンジュラスでは40万もの農民世帯が自分の耕す農地を持たない。(40万世帯というのは、全人口700万の3分の1近くを占める大変な数だ。)世界銀行の統計によると、2003年には農村人口の51%が貧困レベル以下の収入しかない。1999年の統計では、1日2ドル以下で生活する貧困層は全人口の44%にも達し、1日1ドル以下で生活する極貧層は21%もいる。土地を持たず、貧困に喘ぐ農民たちは、かろうじて自分たちが食べるぐらいを収穫するのがやっとだ。現金収入は出稼ぎ労働で賄うしかない。

目下のところ、根本的な農地改革が行われる見通しはないということなので、CNTCは会員を増やし、農民の意識を高めて地道に地盤を固めて行くしかないだろう。が、前途は多難だ。一方には、政府と癒着した大土地所有者からの圧力がある。それはCNTCメンバーが大地主の手先に銃殺されるという事件をいくつも起こし、リーダーたちは不当逮捕の危険にもさらされたりしている。農地改革を求める運動を続けるのは命がけの仕事なのだ。他方、それもさることながら、グローバリゼーションにより外国産の農産物が大波のようにホンジュラスにも押し寄せ、貧農層を圧迫している。輸出されるような農産物は機械化された大農方式か、あるいは安い労働力を大規模に使って生産され、品質が一律で値段も安いから、零細農民が生産する農産物などたちまち押し倒されてしまう。

たとえば、アボカド。テグシガルパで宿泊したホテル付近の道路は、大風呂敷1枚分ぐらいの売り面積に野菜や果物や雑貨を置いた商人でびっしりだったが、アボカドもいっぱい売っていた。その種類はハースが多かったが、ホンジュラスではそれを「メキシカン・アボカド」と呼んでいる。(ハースについては、「15 ハースマザーの木(上)」をご覧ください。ハースの出生地はメキシコではなく、カリフォルニアです。)つまりハースはすべてメキシコから入って来るのだ。後に行った別の町の果物屋さんでも同じだった。

ハース、いや、メキシカンと並んで、ホンジュラス産の黒くならない種類のアボカドもメキシカンより安い値で売られてはいる。が、おいしいメキシカンの方を好む人が多く、メキシカンが地元産のアボカドを市場から追いやっていると、パオリノさんは言った。ホンジュラスは上質のコーヒーを生産して、コーヒーができる所はメキシカン(ハース)を育てるのにも適しているから、ホンジュラスでも生産できるはずなのだが、メキシコの大アボカド園経営者たちは強大な財力を持ち、政治家とのつながりも強いから、ホンジュラスの零細農民には最初から勝ち目がない。

カリフォルニアのアボカド生産者の大部分は小規模である上に生産コストも高いので、メキシコのアボカドにはとても太刀打ちなどできない。来年からメキシコのアボカドがカリフォルニアにも流れ込んで来るので、アボカド生産を諦めようという生産者が続出している。それでもカリフォルニアのアボカド生産者には選択の余地があるから恵まれているといえよう。ホンジュラスの零細農民は都市に流れて労働者になるか、国を離れてアメリカで地下労働者になるしかない。どちらにせよ、家族は散り散りになってしまう。そうなると農地のない農業労働者たちの協力地盤は足元から崩れてしまうのだ。パオリノさんはその懸念を淡々と述べた。

それにしても、こう言っては失礼かもしれないが、高等教育はもちろんのこと、中等教育もどこまで受けられるか怪しい環境に育ったパオリノさんが、理路整然と主張を述べ、質問に答え、しかも世界の趨勢にも精通しているらしいことに、私はすっかり感心してしまった。

ホンジュラスの人々は僻地の田舎に住んでいてたいして学校教育を受けていないような人でも、政治に深い関心を持っていて、政治意識と国際情勢の知識は普通のカナダ人の20倍はある、普通のアメリカ人と比べたら30倍だろうと、サンドラさんは言っていた。国際情勢の動きが小国ホンジュラスの人々の生活にすぐ響くからだろうが、学歴の有無にかかわらず情報をきちんと聞き分けられるのは、信念を持って生き続けてきたからだろうか。

反政府活動をしたために暗殺されてしまった人々の家族とともに闘うノエミ・ペレスさん(「ホンジュラス(4)消え去った人々」)に続いて、私はパオリノさんの勇気に圧倒されたまま外に出た。


<補足>
CNTCにのしかかる圧迫を報告し、支援を求める国際団体の訴え↓
http://www.fian.org/fian/index.php?option=com_urgentactions&Itemid=81&uaID=49
http://www.amnestyusa.org/justearth/document.do?id=741F3AAFA3A83E238025701B0052C726
http://www.foodfirst.org/node/1146
http://www.landaction.org/display.php?article=92

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