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僕の偏見紀行
117 メコンへの旅(7)嗚呼!黄金大三角
2011年3月14日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ メーサイからゴールデントライアングルへ行くソンテオ。これに10人くらい乗って1時間はちょっと辛かった。
▲ ゴールデントライアングルを示す記念塔(標識?)前で記念撮影。中国人夫妻に撮ってもらった。画面右手のてすり後方に三角形の三色案内板が見えている。その向こうの中洲に建築中の建物はカジノらしい。
▲ 同じくゴールデントライアングルで出会った巨大オブジェ?
ホコリっぽい道路を1時間走った後、ソンテオは眼下に大河を望む高台へ到着した。40バーツ払って車を降りる。運転手に次は何時ごろここへ来るかを尋ねた。「今日はもう終わり」運転手はそれだけ言うとソンテオに乗って去っていった。

僕はこの後もメーサイからソンテオが来て、それが次の町チェンセーンセーンまで行くだろうと思っていた。チェンセーンはここから車で15分くらい、そこからバスで今日のうちにチェンライに戻ろうと考えていたのだ。

まあ何とかなるだろう、そう思って歩き出す。道路沿いには大型バスや乗用車の駐車の列が続き、観光客がゾロゾロ高台の広場へ歩いている。

広場の先端にはなにやら極彩色の記念塔が立っている。そこから見下ろすと、大空の下を緩やかなカーブを描く大河メコンが悠然と流れ、眼前には広大な中州が広がっている。

派手な記念塔にはゴールデントライアングルの文字が躍り、その脇には緑・黄・赤の三色に塗り分けた三角の案内板が設置されている。その左半分の緑はビルマを、右の赤はラオスを、手前の黄色はタイを指している。

なるほどここに立てば、案内板が示すそれぞれの方向に3つの国が広がるのが一目瞭然、という仕掛けになっている。

本来のゴールデントライアングルは、山岳部の3つの国境が接するあたりをいうのだが、紛争が治まった今は観光用として、このメコン川と支流の合流ポイントを指すようになったらしい。

ツアー客を乗せた大型バスやグループ旅行の乗用車が溢れるかたわらには、国籍不明の奇妙なけばけばしい建造物や像が立ち、不思議な雰囲気をかもし出している。僕は寄らなかったが麻薬博物館なるものもあるらしい。

川向こうの中洲には金ぴか屋根の巨大建築が進行中で、まわりの観光客がカジノらしいと言っていた。俗悪といえば俗悪極まりない場所に立ちながら、僕はこれはこれでいいのだ、と思った。

かつては複雑に入り組んだ国と民族の争いに翻弄され、ケシの栽培地となったゴールデントライアングル、今姿を変えて、別のポイントが観光地として人を集めている。いい加減ともいえるが、平和にカネを稼げるならそれはいいことだ。カジノでも何でも、血を流すよりましだ。

記念塔の前で中国人らしい中年夫婦が記念写真を撮ろうとしていた。声をかけ二人を撮ってあげると、お返しに僕の写真も撮ってくれた。一人旅ではこんな機会でもないと自分の写真はなかなか撮れない。

ゴールデントライアングルのタイ側に立ち、ビルマ・ラオスの空をしみじみ眺めることができた。こんなに近いところに他国との入り組んだ国境があるのだ、もめるのも無理からぬことだろう。住民にとって、国境などというものは、国家権力同士が勝手に作った邪魔ものではなかろうか。

気がつくとお腹が空いていた。ホテルから持ってきたパンケーキをいくつか食べただけだ。何か麺類でもと食堂を探した。川沿いに歩いていたら、入り口でネコが昼寝している食堂があった。早速タイに来ておなじみになったヌードルスープと冷たいビールを頼んだ。暑い日差しにかわいたノドにビールがうまい。

満足して食堂を出るともう午後3時を過ぎている。バスや車の並ぶ辺りに急ぎ、チェンセーン行きのソンテオを探した。ところが停まっているのは貸し切りバスと乗用車ばかり、それらしき車は見当たらない。

チェンセーン到着が遅くなるとチェンライ行きのバスに間に合わない。あせる気持ちを抑えながら、付近を探しまわる。観光案内所があったが誰もいない。歩き回るうちに先ほどの食堂へ戻ってしまった。

困った僕は仕方なく店の女の子に事情を話し、チェンセーン行きの車はどこで乗れるか尋ねた。するとそのやりとりを店の隅で食事中の若い夫婦が聞いたらしく、チェンセーンへ行くのか、と訊いた。

そうだ、とうなずくと女性のほうが、この人が後でチェンセーンへ行くから乗っていけばいい、といってそばの男性を指した。男性は黙ってうなづいて食事を続けた。後で分かったが、この若夫婦は食堂の経営者だった。

ご主人の真新しい日本車に乗せてもらうこと10分くらいでチェンセーンに着いた。固辞されたが、僕は礼を言いながら100バーツ札をご主人に押し付けて車を降りた。

バス停には、朝より小ぶりで年代モノのチェンライ行きバスが停まっていた。運転手はベンチに座り、乗って待ってろ、と身振りで示した。

バスは町のあちこちで停まり、客を拾いながら走った。いきなり町外れで停まると、普通の格好をした娘が一人乗り込み、乗車賃を集めだした。彼女は車掌なんだ。それにしても途中で乗り込んでくる車掌さんは初めてだ。

バスには冷房など気の利いたものはない。運転手の頭上に小型の扇風機が廻っているが、時々パタンと止まる。そのたびに運転手は手を伸ばして扇風機を叩く。するとまたいやいやながら廻り始め、しばらくしてまた止まる。また叩く。

道路の両側には枯れ草色の田園地帯が続き、窓からは心地よい風が入ってくる。窓枠にもたれながら、ぼんやりと走り去る風景を眺める。なんと言うことない眺め、そしてゆるやかに過ぎる時間、僕にとって旅する楽しみの一つだ。

ホコリを浴びてノンビリ走ること1時間半、無事チェンライへ戻ったのは5時を過ぎていた。  (続く)
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