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僕の偏見紀行
118 メコンへの旅(8)さよなら、チェンライ!
2011年3月23日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ チェンライの寺院にて。出家するための儀式を待つ若者。
▲ チェンライの市場にて。調理用バナナを売っていたオヤジさん。
▲ 同じくチェンライの市場にて。肉屋で活躍するイケメンふたり。
チェンライ滞在最終日、今日は一日何の予定もない。のんびりと町を散策し、明日からの移動に備えよう。

朝方いつものランドリーへ行った帰り、近くの寺院をのぞくと普段より人が多い。お堂の外に並んだイスに人々が座り、何かの儀式が始まるのを待つ様子である。

おそるおそる中をのぞくと、頭をまるめ、透き通った白い袈裟をまとった若者が一人イスに座っている。声をかけていいのか迷ったが、思い切って何が始まるのか尋ねた。

「私はこれから僧侶になります。」

彼は分かりやすい英語で静かに答えてくれた。

美しい袈裟を見て、僕はてっきり結婚式が始まるものと早合点していた。ところがそうではなかった。続いて彼が語ったところによると、専門学校を卒業後、一旦社会に出たものの、思うところあって仏門へ入ることにしたのだという。

集まったのはそれを祝う一族や知り合いの人たちらしい。みんなそれぞれ祝いの花束やお供物を抱え、かたわらの献金箱にお金を入れている。僕も並んで御参りさせてもらった。タイではこのように僧侶は尊敬されているのだ、僕はそのことを実感した。

寺院を出てぶらぶらと市場へ向かう。どこもそうだが、アジアの市場は豊かな自然の恵みに溢れ、人々は活気に満ちている。何も買わず、見て歩くだけで楽しい。

屋台に青いバナナを山のように積み上げて売っている。一房買えば当分デザートに困らないし、非常食にもなる。ところが店のオヤジさんは首を横に振るのみで、売る気配がない。なぜだろう、訳を聞いたが言葉が通じない。

身振り手振りも交えようやく分かったことは、これは調理用バナナだ、ということだった。野菜として料理に使うものでそのままでは食えない。ようやく僕が理解するとオヤジさんは心底ホッとした様子だ。黙って売っても誰も文句をいうはずはないのに、律儀なオヤジさんの気持ちが嬉しい。

肉屋の店頭にはブタのアタマが二つ鎮座している。顔面、つまり皮の部分だけなら那覇の公設市場にも並んでいる。しかしアタマそのものが並んでいるのは初めてだ。

イスラム圏で積み上げられたヒツジのアタマも見たが、巨大なブタのアタマは一段と迫力がある。土地の人はこれを見て、旨そうだ、と思うのだろうな。ちょうど僕らがマグロのアタマを見て、ほほ肉が旨いんだ、などと思うように。

肉を捌いているのは若者二人、兄弟だろうか、よく似た雰囲気のナイスガイである。最近の言い方では、イケメンというのか。きびきびと手際よく肉を捌き、無駄の無い動きがカッコいい。

思わず下手な英語で、「カッコいいねえ。さぞ女の子にもてるだろう。」と言ってやった。すると理解したのか、嬉しそうに笑った。

市場を抜けると大通りに出た。通りに沿ってしばらく歩くと町外れの大きな寺院があった。はずれにあるせいか、観光客の姿もなく境内はひっそりとしている。午後の日差しは強く、とても暑い。しかし空気が乾いているので、日陰は涼しい。

心地よい風のくる寺の一角で一休みする。すると寺院の物陰にネコの親子がひっそりと寝ているのが見えた。そっと近づいて写真を撮る。あどけない子ネコが気づいてオヤネコの陰に隠れる。思わず近づいて地面にしゃがみこんでアップを狙った。

その僕の動きを怪しんだのか、境内にねそべっていたノラ犬たちが吠えながら近づいてきた。危険を感じた僕は急いで立ち上がり、イヌをにらみつつ後ずさりをし、ゆっくりとその場を後にした。

見知らぬ国でイヌに噛まれるのはちょっとやばい。特にアジアの田舎については情報が少ないので気をつけるよう、航空券を手配した代理店から注意を受けていた。

無事ノラ犬から逃れた僕は通りに面したカフェで休憩した。ホットミルクティーを一杯。ホコリっぽい通りだが、日よけの下は涼しくて気持ちがいい。行き交う車と人々をぼんやりと眺める。何の目的もない、なすべき用もない時間が過ぎていく。

明日はいよいよメコン川を渡ってラオスへ入国する。そのためにまずバスでチェンコーンへ移動するのだ。バスセンターでルートと時間を確認する。どうも2つのルートがあるようだ。直線で向かうルートとどこかへ立ち寄る迂回ルートがある。いずれのルートも1時間に1本はバスが出ている。早くチェンコーンに到着する直線ルートに乗ろう。

一日の終わりに、すっかりなじみとなったホテルそばの食堂へ行く。いつものニイチャンがメニューを持ってきてくれた。言葉は通じないけど彼とはもうおなじみサンなのだ。明日はもうチェンコーンへ行くと身振り手振りで伝えた。

すると彼はサービスのつもりか、いつもビールを頼むとカンビールをそのまま置いていくのだが、今日はカンに氷入りのコップを添えてくれた。生水および氷類は用心した方がいい、ちらとそう思ったが、彼の気持ちをむげにはできない。彼の心遣いのこもったビールのオンザロックは旨かった。  (続く)
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