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老舗の店頭から
52 シャトー・ラトゥール
2006年11月5日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。











































シャトー・ラトゥール (Chateau Latour)


上段の画像をご覧ください。ちょっとラベルの文字が薄くて恐縮ですが、中央と右の2本が今回のお話のテーマ、シャトー・ラトゥールです。ちなみにこの写真のラトゥールは、ボルドーの瓶サイズ規格で、まん中がジェロボアム (jeroboam = 4 リットル)、右はドゥーブル・マグナム (double magnum = 3 リットル) ビンです。通常の750cc と比べると数倍の量が入っており、もちろん価格もそれに見合って高いのですが、味はまず間違いなく通常サイズのビンのものよりも、おいしいと思います。残念ながら日本には、あまり入ってきておりませんが。

ちなみにワインの瓶のサイズには(一応ボルドーがスタンダードなのですが)、こんな種類があります。標準的なサイズ、つまりもっともよく見かけるのは、750cc です。

1) demi-bouteille (ドゥミ・ブティーユ)     375cc
2) regular size                   750cc
3) magnum (マグナム)             1500cc
4) double-magnum (ドゥーブル・マグナム)  3000cc
5) jeroboam (ジェロボアム)           4000cc
6) imperiale (アンペリアル)           6000cc

シャンパンの場合は、10リットルを越えるような大瓶までありますが、ワインの場合は、一応6リットルの「アンペリアル」が最大ということになります。

こんなことは、知らなくとも生活上でまったく困ることはないのですが、でも知っていると、ちょっとだけ人生の幅が広くなったような気がする雑知識です。考えてみますと、私が書き込んでいるのは、すべてこのタイプですね。すみません。

ところで、上段の画像のワインは、私が持っているものではありませんので、念のため。これは1997年 (もう9年も前になります) のクリスティーズのロンドンでのオークションに出品されたもので、当時のことで落札予想価格は、まん中の 1961年 jeroboam が4400ポンド(当時のレートで約88万円)、右の1959年 double magnum が2600ポンド(同じく約52万円)でした。今ならきっとそれよりもずっと高いと思います。誰が買うのか知りませんが、ほとんど必ず売り切れています、この種のグラン・ヴァンは。つまり、最高級ワインというのは、たいへん換金しやすい資産なのです。

下段の写真がそのラベルを見やすくしたものですが、ラトゥールの名前は、ラベルの上部にあるトゥール = Tour = タワー = 塔 に発していることは容易に想像がつきますね。(これは私のワインセラーにあるものを撮影しました。)

そういえばトゥールで思い出しましたが、パリ5区、ノートルダム寺院に近い場所にある名門レストラン、トゥール・ダルジャン (Tour d’Argent)、つまり 「銀 (argent) もしくはお金の塔」という名の、鴨料理が名物のレストランも「トゥール」がつきました。 まさか「お金の塔」では格好がつかないから、「銀の塔」と言うのでしょうが、フランス語の argent には、銀という意味の他に、たしかに貨幣、お金という意味もあったと思います。このお店は、東京のニューオータニにも、たしか支店を持っていましたね。

妻も私も、このレストランをあまり好きになれなかったせいか、なんだか「お金の塔」の方が似合っているように思えてしまいます。ご自慢の鴨料理が、私のクチに合わなかったのと、食べた鴨にシリアル・ナンバーがついており、あなたの召し上がった鴨は、当店の鴨料理の通し番号○○○○○○番でした、なーんていう変な証明書をくれるのも、私達の趣味に合わなかったのです。お好きな方にはごめんなさい。

すみません、話が横道にそれてしまいました。ワインのラトゥールに戻します。実はこのワイン、ボルドーの5大特級赤ワインのひとつで、この他は、ラフィット、ムートン、マルゴー、オーブリヨンの4つです。

まず下段の写真でラベルを見てみましょう。

塔の図の下には、 GRAND VIN DE CHATEAU LATOUR (グラン・ヴァン ド シャトー・ラトゥール)と書いてあります。グランは、まさにグランド = 偉大なるという意味で、ヴァンはワインのことです。

つづいて記載されているのは、PREMIER GRAND CRU CLASSE (プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ、直訳すれば、第一級格付け銘醸畑とか、第一級優良ワイン蔵とでも言いますか)、要するに、1855年のボルドーワインの格付け時にトップになった最高のワインにのみ許されている呼称です。

つづいて PAUILLAC 1983。 これはメドック地区ポイヤック村の産で、1983年産の葡萄を使ったワインであることを示しています。

一番下の段に、APPELATION PAUILLAC CONTROLEE (アペラシヨン・ポイヤック・コントロレ)、つまり、メドック地区、ポイヤック村の名称権 (A.O.C による。A.O.C. については後述しますね)が認められていることを表しています。

一番上に、MIS EN BOUTTEILES AU CHATEAU (ミザン・ブティーユ・オ・シャトー) つまり、どこかの共同作業所か、ネゴーシアン(仲買人)の手によってではなく、そのシャトーで独自に、自力でビン詰めされたものである、という宣言が書かれています。これは銘醸ワインの条件のひとつです。

以上がラベルに書かれたおおまかな情報です。この結果、以下のようなことがわかります。これは何もラトゥールに限ったことではありません。かなり汎用性がありますから、憶えておかれてよいと思います。

1)原産地統制名称制度 (A.O.C.) 上の原産地名称権を持つポイヤック村所在のシャトー・ラトゥールの畑で栽培された A.O.C.指定葡萄品種を使っていること。ちなみに A.O.C. とは appellation d’origine controlee (アペラシヨン・ドリジーヌ・コントロレ) のことで、フランスでは大切な法律のひとつで、ワインの銘醸産地名を製品にうたうための資格を厳密に定めたものです。

2)畑1ヘクタールあたり、4キロリットル 以下の葡萄果汁を収穫していること。

3)A.O.C. の規定に従い、醸造から貯蔵・瓶詰めまで一貫してこのシャトーで行ったこと。

4)製品のアルコール度数は 10.5% 以上であること。

とまあ、こんなことが分かります。このポイヤックという村には、ラフィット、ムートンという最高峰が他に2つもあるのですから、ラトゥールを含めれば、5つの最高銘醸ワインのうち3つまでがこの村にあるわけで、まあメドック地区最大の銘醸酒の産地と言えるでしょうね。

ラトゥールはこの3つのうちでは、村のもっとも南にあり、南隣のサン・ジュリアン村の境界に接しています。そしてジロンド川にも近く、その地勢のせいか、女性的なボルドーのグラン・ヴァンの中では、もっとも男性的と言われています。骨太と言ってもよいのかもしれません。

「ラフィットをすんなりとして優雅なレカミエ夫人に例えるとすれば、ラトゥールは、同じ美女でもルーベンスの画に登場する、がっしりした美女だ」 とワインと女性を表現することにかけては、すご腕のフランス人の書いたものを見たことがあります。なーるほど、レカミエ夫人とルーベンスの画か、と私はほとほと感心しました。

ところで、このラトゥールには、他の4つのグラン・ヴァンと比べても、強みと言える長所が2点あります。たいていのワインの本に書いてありますが、私の経験でもその通りだと思いますので、ご案内させていただきます。

まず、長命さです。メドックのグラン・ヴァンの同じヴィンテージのビンを開けるなら、どの順番がよいか。フランス人は、こんなことも研究しているのです。それは、一般論ですが、ラフィット、マルゴー、ムートン、ラトゥールの順番だと言うのです。これにも、私はうーんと脱帽しました。さすがにワインのことをよう知ってますね、あの人達は。

それから第2点は、年による品質のばらつきがもっとも少ないと言われています。これもまったく同感です。昔、友人にお祝いのテーブルで、思い切ってラトゥールをご馳走したことがありました。ワインの知識にはほとんど関心がない人でしたが、今でも会うと、あのワインはおいしかった、と感謝されています。

ヴィンテージは私も憶えていないのですが、ラトゥールの場合は、一定の年数が経過したものであれば、別に豊作の年のものでなくても、結構いけるのです。そうして見ると、意外と安いのかもしれません。現に10年以上経っても感謝されてりゃ、こりゃあ安いものでした。

ちなみに私のワインセラーに現在寝ているラトゥールは、1983, 1985, 1986, 1988, 1989, 1990, 1991 です。いくら長命さを誇っているからと言っても、いつまでも持ち続けて、そのうち持ち主の方がこの世からいなくなってしまったらアホみたいなことになりますから、そろそろ飲もうかな、と思っているのです。でも、ワイン収集の楽しみのひとつは(私の場合はですが)、あれを飲むまでは死なない、という気合が入るのです。これ、意外と効き目があるような気がしませんか、長寿法としては?


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