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僕の偏見紀行
119 メコンへの旅(9)川を渡ってラオスへ
2011年3月30日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ チェンコーン行きバス。これで約2時間かかった。見た目はいいが、年代モノだった。
▲ メコン川を渡りラオスへ。ラオス側の船着場。画面の小船で国境を越える。
▲ ラオス国境の町フェイサイの朝、托鉢の少年僧たち。このあどけない少年たちの読経の声に圧倒された。
チェックアウト前にモンキーバナナ一房、ホテルの朝食からピックアップしてきたパンケーキ3枚、水のボトル3本、これらを予備の食料としてリュックに押し込んだ。移動日にはどこで食事が摂れるか分からない。下手すると昼飯抜きになりかねない。

昨日調べたチェンコーン行きのバス乗り場へ行くとすでにバスが待機している。客引きのオバサンがさかんに「チェンコーン、ラオ・ボダー」と声を張り上げている。直行便で約2時間、65バーツらしい。

バスはマイクロバスをひとまわり大きくしたくらい、小ぶりでかなりの年代ものだ。フロントガラスにチェンコーンと書いてあるのを確認して乗り込む。スーツケースはどこに収納するのか、心配だったがバスの後部にまわるとちゃんと荷物入れがあった。

しかし観音開きのドアは簡単な取っ手があるだけで鍵はない。もし走行中に振動でドアが開いても誰も気づかないだろう。気になった僕はバスが走り出してからも、時々後方の路上を確認した。

バスは田舎道をホコリを立てながらトコトコ走り、約2時間後チェンコーンに到着した。すぐ数人のトゥク・トゥクの運転手が寄ってくる。口々に「ラオ・ボーダー、ラオ・ボーダー」と叫んでいる。

国境まで確かに行くのか、念をおして値段を訊ねた。30バーツだという。乗り込むとさらに客を呼び集め、狭い荷台に3人乗りとなった。確か一人で30バーツのはずだったが、降りるときにはそれぞれが30バーツ取られた。

トゥク・トゥクは、町なかのバス停から10分ほど走り、メコン川を望む高台に到着した。メコン川はゆったりと流れ、その向こう岸にはラオスの町並みが小さく見えている。

高台から道路は急坂となって川岸へ下り、坂の途中に小さな建物が見えている。近づくとそこがタイのイミグレーションだった。窓口にはオジサンがひとり、のんびりとパスポートをチェックしている。簡単にスタンプをもらって川岸まで下る。

水際の砂地に数台の細長い船外機付ボートがもやってある。10人乗りくらいのボートの1台にはすでに7〜8人の客が乗りこみ出発を待っている。僕もあわてて川岸のテントでキップを買って乗り込んだ。水際を急ぐ途中、引きずるスーツケースのキャスターが砂地に埋まり難儀した。

ボートはほんの5分ほどでメコン川を渡りラオスに到着した。岸辺の砂地はぬかるみ、足をとられそうになる。何とか上陸した後、急坂をスーツケースを引きずってイミグレーションへ向かった。

初めての国への入国に少し緊張したが何の質問もなかった。手数料40バーツを払うと、無口な係官は簡単にパスポートにスタンプが押してくれた。

さらに坂道を上るとフェイサイの大通りへ出た。当たり前の話だが、川べりの町はどこも雨季にそなえ水面からかなり高いところにある。乾期に船で到着すると町へ入るのが一苦労だ。

フェイサイは小さな町だった。大通りをゆっくり10分も歩けばもう町外れだ。雑貨屋、食堂、小さなスーパーなどの間に新しいゲストハウスやカフェができている。観光化の波がここにも押し寄せている。

ホテルは大通りの中心にあった。町一番の老舗という3階建ての立派な建物だ。フロントにはうるさ型のオヤジが陣取り、にらみをきかしている。ホテルの入り口では両替所も営み、代々この地に根を下ろして手堅く稼いできたようだ。

部屋はやや古びているが清潔、旧式のエアコン・冷蔵庫・テレビが付いている。バスルームを覗くと小さな給湯器付のホットシャワーのみ。開け閉めに難儀する窓にはくたびれたカーテンがぶら下がっている。はるばると遠くまでやって来た、という旅情が募る。

気を取り直して部屋のベランダで遅めのランチをとる。パンケーキ3枚とバナナ数本、眼下に流れるメコン川を眺めながらゆっくり食べた。川面には国境を行き交うボートや投網漁をする小船などが見えている。

国境線である川岸は両側とも自然のまま草木が茂り、そこにはフェンスも何にも無い。警備兵なども見当たらない。イミグレーションから少し離れた場所なら、誰でも簡単に手続きなしで越境できそうだ。

日暮れ前に川岸の高台にあるレストランへ行った。通りから一段下ったところの、新しいゲストハウスと同じ敷地だ。中庭ではセンタク物が風に吹かれ、子供たちが駆け回っている。家族経営のレストランのようだ。

一番奥の席に座るとすぐ目の下をメコン川が流れている。夕闇の迫る川面には未だ数艘の小船が漁をしている。親子で釣りをする船がシルエットになり墨絵のようだ。日がく暮れるにつれ急に気温が下がってくる。オープン席のレストランを涼しい風が吹き渡る。

小学生くらいの男の子が持ってきたメニューと格闘の末、ラオス風の川魚料理とトムヤムクンなどを注文した。蒸した白身魚は淡白な味わいで、ほぐした身を付け合せのソースで食べたが、豊かなスパイスの香りと魚醤らしい風味が未体験の旨さだった。

仕上げは勿論僕の大好物、スパイシーな酸味のきいた辛ウマ、トムヤムクンのぶっ掛けめし、これにつきる。いささか行儀が悪いが、一人旅の気楽さ、大いに満足した。

これにビールを飲んで支払いは490バーツ、高かった。ここは外国人相手のレストランだから仕方ないが、タイの町食堂からするとずい分高い。メニューはラオス通貨KIP表示しかなく、ドル払いはあまり歓迎されないようだ。

僕はKIPの持ち合わせが無かったのでバーツで支払ったが、バーツは全く問題なかった。先日のビルマ入国手数料もドルよりバーツといわれた。これはドルの時代の終焉を意味するのだろうか。

ホテルへ戻りシャワーを浴びて明日に備え早めにベッドに入った。心細いシャワーは時々ぬるくなったが、幸いにも途切れることは無かった。

翌朝早めの朝食を済ませた頃、町の通りが騒がしくなってきた。何事かと外へ出ると、人々がお供物を抱えて道端に座っている。遠くに黄土色の僧衣を着た人の列が見えている。やがてその列が近づくにつれ、朗々たる声明が聞こえてきた。

あけたばかりの明るい空の下、僧侶たちの読経の声は辺りを圧倒し、初めて聞く僕の胸に美しいハーモニーとなって響いた。そしてそれは僕にとって、今まで聞いたどの男声合唱より感動的だった。

これがかの有名な上座部仏教の托鉢なのか、これほどの迫力とは思わなかった。初めて目の当たりにする光景に、僕は思わず立ちつくしてしまった。

近づいてきた僧たちに、人々は抱えていたお供物を競うようにささげる。一掴みのご飯やお花、あるいはお金など、いろいろだ。僕もあわてて人々の隣りに座り手を合わせた。

僧たちは若かった。みんな少年僧といってもいいくらいの年恰好だった。それにしても幼いといえるほどの若い僧たちの読経が、どうしてあんなにも力強く美しいのだろう。
  (続く)
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60 南会津の旅 弁愡浚村)
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32 ハワイ島滞在記(1)
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28 ラムネの湯「長湯温泉」はいいぞ
27 また「再会の時」道後温泉にて
26 大自然の力、姥湯温泉
25 知床の青いそら、光と風 その
24 知床の青いそら、光と風
23 春の東北ローカル線の旅
22 春の東北ローカル線の旅
21 春の東北ローカル線の旅
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18 さらば、災の年よ。
17 僕たちのセンチメンタルジャーニー
16 台風を避けて信州へ
15 青島印象記
14 よるべない孤独にみちた宿
13 海があまりに碧いのです
12 安曇野の光と水、そして高瀬川渓谷葛温泉
11 鞍馬山の向こうへ、大悲山峰定寺
10 雪の会津鉄道トロッコ列車の旅
9 初春初旅救急車
8 年の暮れ、峩々温泉再訪記
7 東北紅葉旅峩々温泉
6 蔦温泉、蔦沼、ブナの森
5 雨の幕川温泉再訪記
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1 東北紅葉雪見風呂
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