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老舗の店頭から
54 AOC
2006年11月28日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。
AOC


「AOC」という言葉をキーワードにして検索エンジンにかけると、かなりいろいろ出てきますね、やはり。 たとえば、「Australian Olympic Committee」、「Architect of the Capitol」、「Aircraft Operations Center」、「Advanced Optical Component」、それに「Aromatherapy Organisations Council」 などなどです。世の中にはいろいろあるものですね。

でも私がここでおしゃべりする「AOC」は、それらのどれでもありません。ワインに関する言葉なのです。きっとどこかでお聞きになったことがありますよね?

AOCとは、フランス産ワインの品質を表示するためのカテゴリーのひとつで、「Appellation d’Origine Controlee (原産地呼称統制)」 の略であり、同名の法律である「原産地呼称統制法」(1935年制定) の規定に基づいて製造されたワインに付与される称号のことです。 AOC指定は、国立原産地名称研究所 (INAO) というフランス農務省の関係団体が管轄しています。

そもそも、フランスワインは、品質表示の点から、AOC、VDQS (Vin Delimite de Qualite Superieure)、 Vin de Pays (ヴァン・ド・ペイ)、Vin de Table (ヴァン・ド・ターブル)の4種類に区分されており、AOCはこの品質区分の最上位に位置します。

それではまず、AOCについてのおしゃべりを始める前にその他の3つのカテゴリーを簡単にご紹介しておきましょう。

1)まず、VDQS (Vin Delimite de Qualite Superieure = ヴァン・デリミテ・ド・カリテ・スペリュール)ですが、これは上質指定ワインのことです。 AOCに次ぐ品質ということで、使用葡萄品種、栽培法、最大収穫量、醸造法、ワインの最低アルコール濃度に関する規定などが、AOC のそれよりもやや緩やかではありますが、きちんと定められています。まあ、はっきり言えば、VDQS は、AOC ワインへ格上げされる可能性のある予備軍で、その過渡的段階にあるものです。ですから、生産量は極めて少なくて、あまりお目にかかることはありません。フランスワインの全生産量の1%あるかないかで、しかもその8割はフランス国内消費ですから、ラベルに切手のような VDQS と記されたマークが付いているこのカテゴリーのワインは、日本ではむしろ貴重品です。


2)Vin de Pays (ヴァン・ド・ペイ)は、いわば日常的に飲む「地ワイン」とでも言うべきものでして、もうひとつ下のカテゴリー、ヴァン・ド・ターブルの中で、特に生産地域や葡萄品種などを指定されたものです。つまり他地域のワインとブレンドしてはいけないわけでして、ここがヴァン・ド・ターブルとは決定的に異なる点です。現在、140ほどの地域が指定されています。割安感を感じることの多いワインだと言えそうです。生産量的には、全フランスワインの30%弱といったところで、AOCに次ぐ量です。


3)Vin de Table (ヴァン・ド・ターブル)は、4つのカテゴリー中、最下位に属するもので、生産量は全フランスワインの約18%程度。実質的にまったくコントロールはありませんので、もっともお手軽なワインです。サザビーズのワインに関する本には、このカテゴリーのワインについて、こう書いてありました。
These wines are cheap in every sense of the word.
(これらのワインは、言葉のあらゆる意味から言って安物です。)


さてそこで、いよいよ最高ランクの AOCに入るわけですが、そもそも全フランスワインの約半分はこれですので、生産量はもっとも多いカテゴリーです。

実際には、<Appellation d’Origine Controlee ○○○○ > という表記がなされ、○○○○ の個所にさまざまな原産地名が記されます。現在、この指定を受けている AOC は470以上あります。

AOC法は、農産物は原産地の個性を反映するものであるという考えの下に、原産地とそこで生産される農産物を厳密に関係づけ、品質の保証を図ることを目的としたものです。

原産地とそこで生産される産品との関係性を明確化するために、生産区域の他に、ぶどう品種、最低アルコール度数、単位面積当たりの最大収穫量、栽培方法、剪定方法、醸造方法等、実に多岐にわたります。また、建て前ですが、評価委員会によるテイスティングも行われます。

AOC指定の基準は、指定の対象となる原産地が地方、地区、村、畑と限定されるほど細かく厳しくなり、その分、品質の高い上位クラスのワインとみなすことができます。

例えば、ボルドーを例にりますと、まず、ボルドー地方全体を対象とする「AOC ボルドー」があります。次ぎに、ボルドー地方にはメドック、グラーブ、サンテミリオン、ポムロル等様々な地区がありますが、それぞれの地区を対象とした「AOCメドック」、「AOCグラーブ」、「AOC サンテミリオン」、「AOCポムロル」等があります。

さらに、例えばメドック地区の中には数多くの村がありますが、そのうち「サン・テステフ」、「サン・ジュリアン」、「ポイヤック」、「マルゴー」、「ムーリー」、「リストラック」の6つの村については、特に村名のAOCが認められています。

また、ボルドーでは村名の AOC までしかありませんが、ブルゴーニュではさらに限定的に、村の中の個別の畑がAOCの対象になっている場合があります。

というわけで、AOCの対象になるためには、「原産地」 以外にも生産方法等に関する厳しい基準をクリアする必要があり、例えば、メドック地区のサン・テステフ村で生産されていても、「AOCサンテステフ」として必要なすべての基準を満たしていなければ、「AOCサンテステフ」は名乗れず、より下位のクラスのAOCである「AOCメドック」や「AOCボルドー」というカテゴリーになります。

なお、AOC指定上の原産地名は、必ずしも行政区域としての地方、地区、村と正確に一致するわけではありません。例えば、ある村名AOCの対象地域には、当該名の村以外にその周辺の村も対象地域に入っている場合があります。

とまあ、以上が建て前なのですが、それが完全に実施されているとはとうてい思えないところが、この世界の面白いところなのです。

以下にサザビーズのワイン専門家達の言をご紹介してみます。

1) AOCワインは、公的な分析とテイスティングを経ているということになっていますが、テイスティングなどは、まさに噴飯モノなのです。今日、テイスティングを実際に行なう評議会の各地域のメンバーは、ほとんどすべてがその地域のワイン生産者達で構成されています。ですから、私(この本の著者)が会った生産者全員が認めていましたが、誰が見ても明らかな欠陥ワイン以外は却下できる状況ではないのです。

例えば、本来的なワインの品質、ブドウの性質を反映しているか、地域の特徴を出しているか、などということを評価して、仮にあるワインを審査で不合格にしてしまうと、落とされた生産者は、その仕返しに落とした生産者のワインに同じことをするだろうと思うと、とうてい不合格は出せない。とまあこういうわけです。

ですから、あの膨大な量のAOCワインのテイスティングで実際に落とされるのは、毎年2〜3%に過ぎないのです。


2) 1995年にフランスのワインに関するトップ評者のひとり、Michele Bettane 氏がこう書いていました。「今日では、AOCは、品質も確かさもまったく保証していない。」と。

また、その当時、AOCの大本締め、INAO (国立原産地名称研究所 = Institut National des Appellations d’Origine)局長だった Alain Berger 氏も、「AOCの過去の栄光を表示しながら、あきれるほど品質が低いワインなどは、どこにでも出回っている。」と言っているくらいです。

AOCに関してでも、こうですから、その他のカテゴリーではもっとひどいと推測されますが、まあ、その他の場合は、初めから買い手が期待しておりませんし、価格もそれなりのものですから、問題は少ないと言えば言えそうです。


3) INAOも、実際、審査の現状には問題ありという認識を持っており、AOC審査改良のための委員会を作っていますが、実際にそれが効果を発揮するまでは、「the onus is very much on the knowledge of the consumer.=その任は一方的に消費者の知識に頼らざるを得ません。」


以上から出てくる結論は、要するにワインも他の品物と同じように、看板などに頼らずに、自分でしっかりと知識を身につけ、自分の舌や嗅覚と知識で評価しなさい、ということらしいですね。

ところで、AOCの中でも地域限定が強いほど格が上のワインとなることから「AOCによる格付け(AOC classification)」という言い方がされることがありますが、AOCが法律で定められた生産地と製品の関係づけに基づく、一応客観的なワインの品質保証制度であるのに対し、「格付け」は主として市場評価を中心としたより主観的なワイン(又は当該ワインを産するぶどう畑)の評価制度であり、両者は本来、別の制度ですから、混同を避けるために「AOCによる格付け」という言い方は避けた方がよいようです。

特に、ボルドー地方においては、「AOC」と「格付け」は全く別の制度として併存していますので両者を区別して理解することは重要です。もっとも、ブルゴーニュ地方においては、「Grand Crus」、「Premiere Crus」 といった畑に対する格付けがそのままAOCの分類に取り入れられており、AOCと格付けを一体のものと考えることができます。どうもこのあたりも、ワインの評価を難しくしているのかもしれませんね。

もっとも、営業的には、こういうことがあまり分かりやすくても困るというのも業界の本音としてあるのかもしれません。例えば、ジュエリー業界でのダイヤモンドの格付けだって、もう少し分かりやすくしてもよいのに、と私でも思うくらいですから、どの業界も似ている点があるのかもしれませんね。

以上、今回はいささか理屈っぽい、本当の 「飲んべえ」 なら、きっとどうでもよいとしか思わないワインの蘊蓄でした。こんなことをくどくど言うのは、本当はアルコールに弱い私のような物好きか、または業界人だけだと思います。

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