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88 金鉱の陰で(追記)カリフォルニアで
2006年5月11日
雨宮 和子 雨宮 和子 [あめみや かずこ]

1947年、東京都生まれ。だが、子どものときからあちこちに移動して、故郷なるものがない。1971年から1年3ヶ月を東南アジアで過ごした後、カリフォルニアに移住し、現在に至る。ボリビアへの沖縄移民について調べたり書いたりしているが、配偶者のアボカド農園経営も手伝う何でも屋。家族は、配偶者、犬1匹、猫1匹、オウム1羽。
▲ メスキート金鉱の遠景
▲ 延々と続く鉄条網の柵
▲ ゲートから金鉱へと続く道に、「地カメ生息地に付き、要注意」という標識がある。金鉱会社はこんな標識を立てて、「地カメを保護していますよ」とでも言いたいのかしら…
5月4日、私は連れ合いと2匹の犬と一緒に出かけた9日間のテキサスへの旅の最終行程を走っていた。アリゾナ州からコロラド川を渡ってカリフォルニア州インペリアル郡に入ると、高速道路を出て、対面交通の田舎の道を選んだ。急いでいれば高速道路を利用するけれど、なにせつまらないからだ。(アメリカでは高速道路のほとんどが無料なので、田舎道を選ぶのは物好きだけかもしれない。)

しばらくの間、アリゾナとカリフォルニアの州境でもあるコロラド川とほぼ平行に走った。そこはコロラド川の水を引いて大々的に小麦やアルファルファを栽培している農業地帯だ。灌漑設備がなかったら、インペリアル郡全体が砂漠のままだろう。

農業地帯を過ぎると、道は南西に向かい、サハラ砂漠はこんな感じだろうかと思わせる大きな砂丘群の間を通り抜ける。砂丘群には若者たちがデューンバギー(dune buggy)というオフロード用の三輪車で走り回るために集まって来る。実はこれが自然環境に良くない。砂しかないように見えるけれど、小さな動物や植物が生息していて、微妙な自然のバランスを保っているのだから、迷惑な騒音だけにとどまらず、環境破壊につながるのだ。が、その日は平日だったので、デューンバギーはどこにもいなかった。やれやれ。

砂丘群を通り抜けると、今度は小さな灌木しか生えていない低砂漠が果てしなく続く。どちらの方向からも滅多に他の車には出会わない。
「この道はグラミス(Glamis)を通るよ」と、連れ合いが言った。たしかに、地図にも載っている。

グラミスとは、ホンジュラスのシリア盆地で金採掘操業をしているあのグラミス・ゴールド(グラミス金鉱会社)が、カリフォルニアでも同じように操業しようとした所だ。その計画は、インペリアル計画(Imperial Project)と呼ばれている。だれがその場所をグラミスと名付けたのか知らないが、地図にもちゃんと載っているところをみると、町とまではいかなくても、ガソリンスタンドがあるくらいの集落が出来上がったのかもしれない。

たまたま前日の5月3日は,カナダのトロントでグラミス・ゴールドの株式総会が開かれ、そこでグラミス金鉱の被害に遭っているホンジュラスとグアテマラの地域の代表が声明を発表したはずだ。そんなことを考えながら、車を飛ばした。

しばらく走ると、忽然と、砂漠を横切る鉄道線路に出会った。そのすぐ向こう側の左手に、数台の大型トラックがUターンできるくらいの空き地に倉庫とも事務所ともなんともわからない建物と鉄道に関係するらしい鉄の塔が建っていた。その地点から、道路の右手に沿って鉄条網の塀が延々と続き始めた。これがグラミスに違いない、と気がついて、塀の向こう側をよく見ると、はるか遠くに、どうも人間が手を加えたような平らな「丘」がずうっと続いている。

あれがカリフォルニアのグラミス金鉱だ! −と思った。

「丘」の形がホンジュラスのグラミス金鉱にそっくりだ。ホンジュラスで金鉱を見ていなかったら、あれが金鉱だとは気が付かずに、不思議な地形だと思い込んでいたかもしれない。資本家は自分のイメージに合わせて世界を造り変える、とマルクスが言った(と思う)が、まさに資本の原理があらわに動いているところは地球のどこでも同じようなイメージに変形するものだ。

さらに2マイルほど行くと、道路から塀の中へ導く道がある。もちろんゲートは固く閉まっている。ゲートの前に石碑があり、それによるとここはメスキート金鉱(Mesquite Mine)とあり、グラミス金鉱ではなかった。ここに金が発見されたのは1876年で、細々とした金採掘が100年余り続いたという。

帰宅してから調べてみると、インペリアル郡の金鉱石の質は低くて(つまり金含有量が低い)、1オンス(1 troy ounce = 37.8g)の金を得るのに422トンもの鉱石が必要なのだそうだ。メスキート金鉱は1986年から本格的な操業を始めたが、採算が合わなくて2001年には操業を中止している。ある環境保護団体のリポートによると、メスキート金鉱のおかげで、先住民の遺跡は破壊され、地下水の動きが妨害され、灌木は枯れ、砂漠の地カメやその他の野生動物の生息地が荒らされたままになっているという↓。

http://www.earthisland.org/EIJOURNAL/new_articles.cfm?articleID=80&journalID=43

採掘操業を中止したメスキート金鉱だが、前のオーナーが掘り起こした鉱石の山にシアン化物を通して金を摘出する作業は続けている。アメリカ経済の先行きに不安が漂い、米ドルが下落しつつあるのと逆比例して金の価格が急上昇している現在、その作業にはピッチが上がっていることだろう。

同時に、メスキート金鉱から10マイルの地点にあるというグラミス金鉱のインペリアル計画は、操業開始を目指してブッシュ政権に圧力をかけているに違いない。「金鉱の陰で(中)」で触れたように、先住民と環境保護者たちの強い反対を反映してか、クリントン政権が環境保全と先住民遺跡保護のためにインペリアル計画の操業開始にストップをかけた。その後ブッシュ政権がその決定を覆したので、カリフォルニアが操業終了後は採掘場を元通りに直すことという条件をつけたところ、グラミス・ゴールドはそれを損害として訴えていて、まだ決着が付いていないのだが、ブッシュ政権があと2年半も続くことを考えると、楽観はできない。

5月3日のグラミス・ゴールドの株式総会で、ホンジュラスのシリア盆地とグアテマラのシカパカの代表が、グラミス金鉱に環境を汚染され、農業生産が下落し、また住民の健康が冒されている状況を訴え、操業の即時中止を要求したという。カナダのオンタリオ州北部の先住民居住地でも、同じような問題が起きていると、ホンジュラスで世話をしてくれたサンドラさんが知らせてくれた。中米とカナダ先住民のリーダーたちは、オタワでこの問題について意見と情報の交換をしたそうだ。

自分が身に着けるものの生産過程で、環境を脅かしていることはもちろん、政治経済的に最も力のない人々を犠牲にしているなんて、これまで思いも及ばなかった。グラミス・ゴールドのある人が、「社会のみんながこれまで通りの生き方をしていこうというのなら、採鉱は続きますよ」と言ったそうだが、実際その通りだ。地球上のすべての人々と生物、そして自然環境に責任を持った消費者として、私は自分の生活様式を再検討して変えていこう。そう思うこのごろです。


(註)カリフォルニアのグラミス金鉱の問題については、以下↓のサイトによくまとめられています。
http://www.foe.org/camps/intl/greentrade/GlamisBriefingNote.pdf
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