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57 京都花街概論
2007年1月1日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。















































京都花街概論


あけましておめでとうございます。

思い返しますと、ちょうど1年前の2006年1月からこの場をお借りすることになり、私の好き勝手なテーマで雑文を書かせていただきました。このような機会を与えてくださった管理人の中山さんをはじめ、会の皆さんにあらためてお礼を申し上げます。

数えてみましたら、昨年は1年間に56回投稿をさせていただきましたので、おおよそ週に1回くらい書かせていただいたわけです。今後も同じペースでというわけにはいかないと思いますが、なにせ本業の老舗の経営は、続けることにその本質があります。ですから、私にとりましては、休まずに続ける、継続するということは、いわば「習い性」となっているのです。というわけで、今後とも事情の許す限り駄文を書き続けたいと思いますので、少しでもご関心をお持ちの方はおつき合いいただけたら幸いです。

ところで新年最初の投稿文が、「京都花街概論」というのは問題ありかとも思ったのですが (こういう場合、日本の政治家はよく、「いかがなものか」という表現をしますが、あれはイヤな言葉ですね。私は反対です、とはっきり言えばよいのにと、いつも思います)、ここまで好き勝手をさせていただきましたので、まあいいか、と決断した次第です。そう言えば、最初の投稿も京都に関することでした。「京都名刹めぐり その1 西山光明寺」というタイトルでした。昨年「お寺」から始まったこの投稿が、今年は「花街」になったのは、進歩というべきか、あるいは「退歩」と言ったらよいのかは、皆さんのご判断におまかせいたします。

ところでまず、お断りしておきたいのですが、「京都花街概論」などというご説明ができるほど、私は京都の花街に詳しいわけではありませんし、ましてや、お茶屋遊びの経験が豊富なわけでは決してありません。きっと、本当に体験豊富な方は、こんなことを書こうという気にはならないと思いますし、私のような素人の部外者だからこそ、こういうことを調べて書きたくなるのですという点は、まず弁明とお断りをさせていただきます。

にも関わらず、京都の花街には、独特の魅力と文化があるのはたしかです。歴史が長いことがその主因であると思いますが、京都が育んだ文化の一部 (それも不可欠な一部) を構成していることも、その理由だと思います。そのあたりが、私がこれを書こうという気になった原因なのです。

京都には、「五花街」とか、「六花街」といわれる場所があります。「五」と「六」では違うではないかと思われることでしょう。たしかに違うのですが、でもそのいずれも間違ってはいないのです。

まず「五花街」とは、上七軒、祇園甲部、祇園東、先斗町、宮川町のことを言います。ここには、舞妓さんや芸妓さんが居て、客を待ちかまえています。

「六花街」とは、これに島原が加わったものです。ただし、島原は遊郭ですから、舞妓さん、芸妓さんはおらず、太夫さんがおります。ですから、島原は他の5つとは、ちょっと性格が異なる花街だったのです。

八坂神社門前の水茶屋を起源とする祇園、(その後、これが祇園甲部と祇園東に分かれました)、歌舞伎とつながりの深い宮川町、北野天満宮前の水茶屋に始まる上七軒、鴨川と高瀬川の間にあり舟を使った交通輸送の要所として栄えた先斗町、とそれぞれ独自の歴史、文化を持ち、今日までその伝統を伝えています。

お座敷で舞をはじめとする芸事や会話などをちょっと体験してみると、なんと言っても若い舞妓さんよりも、芸歴の長い芸妓さんの方が、はるかにお座敷の相手としては面白いのですが、まず、この両者の違いからご説明させていただきます。

「舞妓さん」と「芸妓さん」の決定的な違いは年齢です。基本的に20歳を境目にしています。そして、芸妓さんは、基本的に舞妓さんを何年か経験した人でないとなれないのです。それらの関係をまず、年齢的に順を追ってご説明してみます。

「仕込みさん」
これは、舞妓さん候補者でして、中学校を卒業した段階で、置屋に入り、約1年間、芸ごとの稽古、京言葉や行儀作法などの基本的な事を学びます。この期間は、いっさいお座敷には出ません。この時期を「仕込みさん」と言います。

「見習いさん」
「仕込みさん」を半年から1年ほどして、ある程度、芸事や作法が身に付くと、「引いてくれる」(指導してくれる)お姉さんが決まり、「見習いさん」としてお姉さんと一緒にお座敷に出られるようになります。この時期にお座敷での作法や、お客さんの接待の仕方などを学ぶ訳です。この期間は、まだ正式の舞妓さんではありませんので、帯は舞妓さんの特徴である「だらりの帯」ではなくて、「半だら」という短い帯をつけています。私も祇園のお茶屋さんで、2回ほどこの「半だら」さんを見かけたことがあります。

「舞妓さん」
「見習いさん」をしばらくした後、「店出し」と言うお披露目をして正式に「舞妓さん」としてデビューします。この時から帯は、「だらり」の帯に変わります。なお、舞妓さんは紅は下唇しか塗っておりませんので、機会があったら注意してご覧ください。なお、舞妓さんの髪は自分の毛で結い上げます。芸妓さんが、基本的にはかつらをかぶるのとは違う点です。

「芸妓さん」
舞妓さんとして何年かお座敷をつとめて、芸ごとの修行に励んでから、初めて芸妓さんになります。髪型、着物、化粧法などすべて舞妓さんとは異なります。もちろん盛大なお披露目をするのですが、昔はある特定のスポンサー(旦那)が付いた時におこなっていたそうですが、現在は20歳という年齢を目安にしているそうです。

ところで、花街でのキーパーソンは、「お茶屋のおかみ」です。お茶屋さんは、基本的に場所貸し業でして、料理は仕出し屋さんから、芸舞妓は置屋さんから提供してもらうのですが、客が注文し、お金を払うのは、お茶屋さんに一本化されているのです。つまりお茶屋さんは、自分の所では料理をさばくわけでもなく、芸舞妓さんをかかえているわけでもないのですが、客とこれらの専門職を仲介し、結びつける役割を果たしているのです。ですから客はあくまでも、お茶屋さんに注文し、また支払いもします。客が仕出し屋さんや置屋さんに直接支払うことはありません。お茶屋さんが後日、仕出し屋さんと置屋さんに支払う仕組みになっています。

最近は、舞妓さんの志願者は、京都の地元の人はほとんどおらず、大半は全国各地からの応募者だと聞きました。そう言えばこれまで何度かお座敷でお会いした舞妓さん(芸妓さんも)は、全員京都のご出身ではなかったですね。

ですから、京言葉を身に付けるのが、まずひと仕事だと言っておられました。舞妓さんとしてまず使う京言葉は、「おおきに」と「おたのもうします」だとか言っていた舞妓さんが居ましたよ。お客さんやおかあさんが何か言わはったら「おおきに」で、最後に「おたのもうします」と言っていれば、なんとかなりました、なーんて言ってましたっけ。

その他基本の挨拶言葉は、
お客さんが見えはった時の「おいでやす」や「おかえりやす」
朝は「おはようさんどす」
夜は「おやすみやす」
昼は「こんにちは」のままなんどす。イントネーションは独特のものですが。
家に帰ってきたら「ただいまどす」
いってらっしゃいは「いっといでやす」

とまあ、このくらい言えたら、「見習いさん」くらいにはなれるかもしれません、京言葉だけについて言えば。

そう言えば、「五花街」は、すべての点で独立しており、何事も重複しないようになっているらしいのですが、舞の流派もそのようでした。かつて、祇園の芸妓さんに聞いたところによりますと、こんなふうになっているらしいのです。
上七軒:  花柳流
祇園甲部: 井上流(京舞)
祇園東:  藤間流
先斗町:  尾上流
宮川町:  若柳流

これまで少ない体験ですが、私が感銘を受けた舞は、「上七軒」の花柳流の名手と、「祇園甲部の小富美さん」でしたね。くわしいことは分かりませんが、上七軒は、花柳流らしく艶めいた動きに見えたのに比べ、祇園の井上流は、能の影響が強いと言われているせいか、姿勢の良さとステップの切れの良さが目立ちました。どちらにせよ、芸を極めるというのはたいへんなことですが、また美しくもある、と本当にそう思いました。

以上、素人の観察で恐縮ですが、京都花街概論でした。ちなみに私が体験したお座敷は、すべて女性のお客様を家内とともにご招待したものばかりですから、決して自らの道楽で出かけたわけではないのです、念のため。

下段の写真は、舞妓さんを卒業して、現在祇園で芸妓さんとしてご活躍中の3人の舞です。さすがに小富美さんほどではありませんでしたが、それでもなかなかのものでした。左端は、里美さんという大阪ご出身の気っ風のよい芸妓さん。お座敷で会うのが2回目でした。

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