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60 祇園のお座敷便り その1
2007年1月30日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。































祇園のお座敷便り その1


祇園と言えば、京都最大の花街です。その祇園に1年に2晩だけ、「お化け」が、堂々と出ます。まあ、歴史の長い花街ですから、1年を通じて、お化けというか、妖怪というか、すごい人種が住み着いているのはたしかなのですが、この「お化け」は特別なのです。

もっとも、「お化け」と言いましても、幽霊、ゴーストの類ではありません。幽霊はきっと見える人にしか見えないのでしょうが、ここで言う「お化け」は、そこに居る人なら全員が鮮明に見ることのできるものなのです。

実は、毎年節分の晩、2月3日と4日の2晩だけ、祇園全体を巻き込んで行なう花街の仮装遊宴のことを、節分の「お化け」と言います。

上段の写真は、私達が席を設けていたお茶屋さんのお座敷に、その晩登場した数組の「お化け」のひと組です。浮気がバレて女房に痛めつけられている殿様のあわてぶりをみごとに演じています。狂言からの題材のようでした。

演者は、もちろん祇園の中堅の芸妓衆です。(舞妓さんは、まだ参加できません) こうした「お化け」のグループ(だいたい2〜3人で1組を作るようです)が、祇園全体で20組以上できて、それらが何軒ものお茶屋さんを順次回って、お座敷を訪ねてくるわけです。まあ、一種の仮装カーニバルのようなものですね。

そう言えば、ヴェネツィアのカーニバル (仮面をつけて仮装するあれです) も、たしか2月下旬の寒い季節に行なわれます。寒さのために客数が減少し、生活も単調になりがちな季節に、刺激を持ち込んで、客数を増やし、自分達も楽しむという発想なのだと思います。

祇園の「お化け」の場合は、お座敷にはすでに通常の芸妓さん、舞妓さんが居ますので、いわば注文もしないのに、勝手に乗り込んで来てくれるわけで、客としては余分に芸を楽しめる分、トクをすることになります。この晩、私達のお座敷に訪ねて来た「お化け」グループは、6〜7組あったと思います。

しかし、「お化け」になる芸妓さん達はたいへんです。普段とは違った衣裳をまとい、一晩に20〜30のお座敷を回るのだそうで、これはもう体力の勝負だと思います。

かつては、お座敷に居る客も仮装をして、とっかえひっかえやって来る「お化け」達を、自らも「お化け」になって迎えたのだそうです。(もちろんご祝儀もたっぷりとはずんで・・・) でも今は、私のような者までが客のはしくれになっておりますので、それは無理です。

もう2〜3年前になるのですが、この年の「お化け」は祇園の「桝梅」さんという格式のあるお茶屋さんで楽しみました。おかげさまで、すばらしい厄よけをしたようで、あの年は、心なしかより多くの幸運にめぐまれたような気がしています。(こういうのは気持の問題ですから、そう思えれば十分値打ちがあるのです。)


ところで下段の写真は、別の折ですが、同じく祇園のお茶屋さんのお座敷でお目にかかった舞の名手、小富美さんという芸妓さんです。このお辞儀は、小富美さんが舞を終えて下がる時のものですが、いかがですか、丁寧なことはもちろんですが、なにやらすごいものでした。写真からもそんな雰囲気が伝わって来ませんか?

どんな分野でも、物事を極めたものには、崇高とも言える美があります。この時は、お辞儀ひとつでも、美というものはあるものと、感嘆しながら芸を楽しませていただきました。

日本舞踊など、まったく門外漢の私が見ても感動するような舞でしたから、もっとおわかりになる方だったら、きっとさらに楽しめたことでしょう。小富美さんは、決してお若いとは言えない芸妓さん(多分60歳代)でしたが、極めるというのは、すばらしいことですね。

ちなみにこの後、小富美さんに彼女の舞のすばらしさをお伝えしましたら、たいへんうれしそうでしたが、あくまでも謙虚に、「もしそうやったら、お師匠さんに感謝します」とおっしゃっておられました。 「お師匠さん」とは、祇園甲部でしたから、京舞 = 井上流の先代家元さんのことです。

おおげさな言い方で恐縮ですが、私はこの方の舞とお辞儀を見ただけでも、この晩、祇園のお茶屋さんに行った甲斐があったと感じました。ちなみにこの時も、仕事で女性のお客様を数人ご招待したお席でした、妻と共に。

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