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僕の偏見紀行
127 メコンへの旅(17)夕陽の中で
2011年6月19日
時津 寿之 時津 寿之 [ときつ としゆき]

1945年、九州にて誕生。2010年4月65才で長年勤務したメーカーを定年退職。家族は息子2人が独立し、今は配偶者と二人暮し。趣味は読書、散歩、旅行。読む本は何でもジャンルを問わず、旅先も国内外を問わずどこでも、気の向くところへ。
▲ ラオスとタイを結ぶ「友好橋」の上、メコン川の真ん中あたりの光景。この看板までしか行けない。向こうはタイ。車道の真ん中には鉄道線路が延びている。
▲ メコン川のほとりを夕陽を浴びて散策するビエンチャンの人々。
▲ 夕暮れのメコン川沿いの路上食堂にて。僕と同じ一人旅のさえないオヤジさんに撮ってもらった。
ビエンチャンは大都会だった。以前読んだ旅行記によると、通りを走る車も少なく、これが一国の首都なのか、と思っうほどだったらしい。それが今では大通りを車がひっきりなしに走り、交差点で信号待ちをすると排気ガスで息苦しい。

ここ数年のアジアの経済発展はすさまじい、当然のことながらラオスも例外ではないようだ。勝手な幻想を抱いて訪れた僕は期待を裏切られ、もっと早く来ればよかったと少し悔いた。

町を散策していると大きな市場があった。近づくと大規模な改装工事中だ。古くなった建物を取り壊し、新しいショッピングセンターを建設するようだ。現場には新しい市場のイメージを描いた大看板が掲げられている。見ているとバンコクやホーチミンの光景と重なって、何か虚しい。

市場裏手のバスセンターには沢山のバスが出入りし、人が群れている。「友好橋」へ行ってみようとバスを探す。ところがバスの行き先表示や乗り場の案内板が読めない。どのバスに乗るのか、待合室で読書中の若者に尋ねた。言葉がよく通じないが、どうやら外にたむろしているトゥクトゥクに乗れといっている。

しかしそのドライバー達を見るとなんとなく胡散臭い。ハノイで嫌な目にあった記憶がよみがえる。河岸を変えようと少し歩き、公設のタクシー乗り場を見つけた。オンボロ車の人のよさそうなドライバーをつかまえて交渉する。友好橋、そう告げると往復25ドルという。何度かやり取りして待ち時間を含め20ドルに値切った。

タクシーが、ホコリっぽい道路を30分くらい走り、到着したのは大きな陸橋の下だった。降りると頭上を巨大な高速道路が走り、我々が通って来た一般道がその下を通り抜けている。高速道路はそのままメコン川を越え、タイへと続いている。これが「友好橋」だった。

橋へあがる通路脇のテントには警備の兵士らしき男が座り、1ドル払えば橋を歩くことができるという。この橋は観光スポットなのだ。タイとラオスを結ぶ、全長1174mのこの橋は1994年にオーストラリアの援助で完成した。

橋の上は強い日差しが照りつけ、全く日陰がなくとても暑い。欄干に沿って延びる歩道をテクテク歩いた。橋の真ん中辺りに来ると通行止めの看板があり、それ以上先には進めない。そこに立ってタイ側を眺める。メコンの雄大な流れのはるか先に建物が小さく見えている。

橋の中央部分を鉄道線路が続き、タイのノーンカイ駅とラオス側に一区間だけ入り込んだターナレーン駅を結んでいる。ラオス鉄道は殆ど未整備で、国内の鉄道としてはこのわずか一駅分がその全てなのだ。それでもこの区間を、タイとラオスを結ぶ国際列車が1日2往復しているという。いつかの日か乗ってみたい鉄道だ。

市内へ戻り町歩きを再開、外国人向けのスーパーへ立ち寄る。輸入食材がメインの店だが、ラオス産のコーヒーやお茶なども販売しており、お土産を買うのに便利だ。クルーズ船で飲んだラオス茶が美味しかったので購入した。価格はドルとラオス通貨キープ(kip)の両建て表示だ。

ラオスはドルやタイ・バーツも流通しているので、ドルの小額紙幣を用意したほうが便利だと聞いていた。しかし実際はそうでもなかった。特にルアンパバンなどの地方はほとんどキープが主で、続いてバーツ、そしてドルの順だった。数年前の中央アジアあたりは圧倒的にドルが強かったのだが、これも時代の流れだろう、ドルが弱くなったように感じた。

3種類も通貨があると買い物やタクシーの支払いに気を遣う。キープの場合、10,000kipが約100円にあたり、支払う金額の桁が大きくなる。そのため市場やタクシーなどでは、外国人向けに価格を告げる際、たとえば10,000kipを単にtenとだけいって、thousandを省略することがある。さらに通貨の呼称をいわないことも多いので注意が必要だ。

特にトゥクトゥクなどの価格交渉に際して、10と聞いたお客が1万kipだと思ったのに、実際に請求されたのは10ドルだった、ということになりかねず注意が必要だ。

ベトナムの通貨ドンでも同じような問題が起こっており、観光客は注意するようにいわれている。こんなことは海外に出るなら当然覚悟すべきだと思うが、疲れる話ではある。

ビエンチャンでは手軽な食堂を見つけることができなかった。探せばあるのだろうが、大きな町だし、滞在日数も少なかった。そのかわり屋台やファーストフード店のサンドイッチなどが旨かった。パンが美味しいとの評判は聞いていたが、確かにそうだった。特にバケットの類は、いい具合に焼けた皮がパリパリと香ばしく、かみ締めると小麦粉の滋味がじんわりと溢れた。

ビエンチャン最終日の夕方、市内を流れるメコン川のほとりで夕陽を眺めた。乾期のメコン川は両側に広大な河川敷を見せ、悠然と流れていた。

広い土手の上には遊歩道や遊具の整った広場が続き、多くの家族連れが夕陽の中を散策中だ。あたりは河川敷まで、屋台や路上食堂が軒を連ね、盛大に肉を炙る煙をあげている。

沈む太陽を眺めながら歩いていると、四苦八苦しながら露天食堂の座席にカメラをセット中の男に気づいた。夕陽を背景に自分を撮りたいらしいが、三脚が無いらしく、自分の汚い靴でカメラを支えようとしている。

どことなくさえない、ヒゲもじゃで頭がややサミシクなった白人オジンだ。考えてみれば、いや考えるまでもなく、かくいう僕も同類だ。見かねた僕は同じ仲間のよしみで声をかけ、彼の写真を撮ってやった。

大いに喜んだ彼は、お返しに同じように僕の写真を撮ってくれた。旅の終わりにいい記念ができた。明日はもう帰国するだけだ。僕にとってはやや長い旅がこれで終わった。今回はいろいろあったが、ここまで何とか無事にたどり着けて本当によかった。

夕陽の中でメコンを見つめる僕の右手首に、チェンマイの高僧が付けてくれたお守りが未だ残っていた。(終わり)
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71 小笠原の旅(1)波路はるかに
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63 暮れの浅草昼酒
62 雨の東北、芭蕉と紅葉旅
61 南会津の旅◆扮の尾瀬沼)
60 南会津の旅 弁愡浚村)
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21 春の東北ローカル線の旅
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1 東北紅葉雪見風呂
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