1989年創立 個の出会いと交流の場 研究会インフォネット
HOME 研究会インフォネットとは 会員規約 お問い合わせ
会員専用ページ
過去のINFONET REPORT カレンダー 会員連載エッセイ なんでも掲示板
会員紹介 財務報告
会員連載エッセイ
最近の記事 以前の記事
老舗の店頭から
61 上七軒(かみひちけん)
2007年2月10日
齋藤 恵 齋藤 恵 [さいとう・さとし]

1948年埼玉県生まれ、1970年に大学卒業後、時計メーカーの輸出部門に就職。8年間の勤務の後、宮仕えには向かない自身の性格を認識して、父の経営していた小売店 (創業1912年 = 大正元年)に転身しました。歴史、風土、絵画、言語等に関心が強く、駄文ながら文章を書くことがストレス発散の手段のひとつになっています。ささやかながら、会社を経営するというのはそれなりにたいへんです。ここに書かせていただくことは、そうしたストレスの大いなる発散のためですので、お読みになる方もどうぞお気軽に。




























上七軒(かみひちけん)


たいして詳しいわけではありませんので、まことに僭越ですが、もう1回だけ、京都の花街についておしゃべりさせていただきます。今回は京都の「五花街」とか「六花街」とか言われる中で、もっとも長い歴史を持ち、そのため一番格式の高い、上七軒(かみひちけん)についてのお話です。

最大の規模を持つ祇園は、東山の四条通りを中心にしたあたりですが、上七軒は、京都市街地の北西の方向、菅原道真と梅林で有名な北野天満宮の近くにあります。ちなみに京都全体のこの業界の寄り合いの時などは、この「上七軒」さんが最も上座に座るならわしなのだそうです。

北野天満宮の東門を出ると、道が2手に分かれています。それを境内に沿った道ではなく、斜めに走る、紅殻(べんがら)格子や軒先の提灯、二階にかけられたすだれなど、見るからに風情のある家々が立ち並んでいる方へ行くとそこが上七軒通りです。

ここは室町時代に北野天満宮の大改築が行われた際、廃材や用材の残りで7軒の茶屋を建てたのが始まりといわれ、京都で最古の歴史を持つ花街です。

こちらは地理的に西陣がすぐそばですので、かつては西陣の機屋の旦那衆が主な顧客であったということです。室町時代に7軒のお茶屋さんから始まったこの花街も、西陣織物の最盛期には30数件のお茶屋さんがあったのだそうですが、西陣が衰えた現在は、11軒だそうです。私達がお世話になったそのお茶屋さんは、現在のおかみが4代目と言っておられましたが、元気に賑わっておられました。もともと7軒で始まったことですし、とおかみも言っておられました。

花街の基本システムは、前述しましたが、お茶屋(舞妓や芸妓さんを呼んで遊ぶ座敷)、置屋(舞妓、芸妓が所属し、日頃芸を磨き、ここから派遣される)、料理屋(仕出し料理をお茶屋に運ぶ)の3つで構成されています。

一般に「仕出し」と聞くと、冷えた、おいしくない、いわゆる「仕出し料理」を連想しますが、京都のお茶屋さんで出される仕出し料理は、まったく違います。見事に上質の京料理を温度管理をきちんとして出して来ます。まあ、お茶屋さん1軒が、自分で料理人をかかえることなく、何軒かのお茶屋さんが共同で発注する料理屋さんと思えばいいわけで、合理的ではありますね。

名のあるお茶屋さんは「一見さん」は入れないと言われておりますが、たしかにそういう雰囲気はあります。これは気位やプライドをしっかり持ち、安売りを嫌う京都の精神が基本にあることもたしかなのでしょうが、料金支払いシステムからも、そうならざるを得ないところがあります。

まず芸妓さんや舞妓さんを呼びたい時は、客は置屋ではなくて、お茶屋に予約を入れます。そしてそこでお気に入りやお馴染みの妓が居れば指名をします。そして芸妓・舞妓と、お茶屋の部屋に空きがあれば、そこで予約が成立するわけです。

客が芸妓さん達と一緒するのは、お茶屋さんばかりとは限りません。彼女達を料亭に連れて行くこともできますし、他の飲み屋などに連れて行くことも出来ます。でもそれはすべてお茶屋さんを通してすることが原則です。ですから、花街遊びのキーパーソンは、お茶屋のおかみということになります。

たとえばお茶屋さんの座敷で舞妓や芸妓を呼んで、そこで食事をし、それから他の酒処に連れて行くとします。まずお茶屋に予約を入れる時点で何時から何時間、芸妓たちに居てもらいたいのかを告げなければなりません。その前後の彼女たちのスケジュールがあるからです。ここでまず、料金が発生します。お茶屋さん以外の場所に出かける時間があれば、もちろんそれも時間計算で置屋さんからお茶屋さんに請求が行くことになります。

それから、お茶屋さんは自前で料理はしませんから、料理は料理屋に注文し、料理屋さんがお茶屋さんに仕出しします。そして、ここでの料理屋の請求は、客ではなくてお茶屋さんに行きます。

そしてまた、そこから他の飲処に行った場合も、すべてお茶屋を介して手配されますので、その料金請求は客ではなく、お茶屋に行くのです。つまり、その時点では客は一切の支払いはしなくてよく、すべてお茶屋が肩代わりするのです。お茶屋は各業者や他店からの請求があった後にそれを清算し、お茶屋の利益を加算し、初めて客に料金を請求するのです。

もちろん芸妓や舞妓の料金の内訳は均一ではありません。人気のある芸妓・舞妓はその分、ご祝儀代と言いますが、それが高くなります。そのような支払いシステムですので、お茶屋としても「本日、清算したい」と客に言われても、正確な金額は提示できないのです。もちろん、すべての請求にお茶屋さんの利益がのりますから、決して安くなることはありませんが、お茶屋さん遊びをするということは、遊びの質と安全を保証される代りに、それを承知して行くものなのだそうです。

またお茶屋さんとしても、すべてが後日清算ですので、確実に支払ってくれる確かな客か、またはたしかな紹介者があり、万一の場合はその紹介者が支払いを保証してくれるというお客でなければ受け入れられないわけです。これがよく言われる「一見さんお断り」のひとつの理由なのだそうです。

もうひとつの理由は、その花街で遊ぶにはそれなりの礼儀と品格が要求されるのだそうです。たとえば芸妓さんや舞妓さんは、厳しく長い芸の修行を経て来ていますし、自らの芸にそれなりの誇りとプロ意識を持っています。

「この方は京のこの花街で遊べるお人」と判断した客でなければ受付けたくないのです。紹介のない初めての人だと、その人がどんな人なのかがわかりませんので、当然危険があります。これは女性中心の業界が、日本全国から押し寄せてくる豪腕の男の腕力から自分達を守る自衛手段として、長年の間に自然に成り立ったシステムなのでしょうね。

上の2枚の写真は、上が上七軒の芸妓さんで、下は同じお座敷の舞妓さんです。この舞妓さんは、あと数ヶ月で芸妓さんに「ならはる」ようです。両者は、髪型、着物、帯、装飾品、すべてがまったく違いました。とりわけ、帯の堅さは驚くほどで、舞妓さんの帯は、鉄板でも入っているかと思うほど、カチンカチンでしたよ。当然それは重いということにもなるわけでしょうが。

ご本人達も、言っておられました。あの締め付けと着物の重さに堪えることができるのは、20歳までがいいところだと。なんの世界でも厳しいことはありますね。

祇園の踊りは、井上流ですが、上七軒の踊りは、花柳流なのだそうでして、より華やかなのだと芸妓さんに聞きました。私にはよくわかりませんでしたが、身のこなしは、たしかに「美」でした。

花街の女性達には、客の呼び方に決まりがあるのだそうです。こういうのも何度か足を運んでいるうちに学んだことなのです、どうでもよいことと言えば、まさにそうなのですが・・・。

馴染み客のことはもちろん名前で呼びますが、そこまでの関係がない客の場合は、通常その人の立場で呼び分けるのだそうです。それには年齢や企業規模はまったく関係なくて、社長や自営業、料亭の女将や飲処のママさんなど、経営者や経営側の人達は「おとうさん・おかあさん」。

それに対して、いかに大企業の社員であろうとも、社長でなければ、肩書きや年齢に関係なくすべて、「おにいさん・お姉さん」なのだそうです。

はじめて芸妓と接する時に、「失礼どすけどお客はんは、おとうはんどすか? おにいさんどすか?」 と聞かれたら、そういう意味なのだそうです。 もっとも、そんなことは予約の段階で事前にきちんと調べはついていることでしょうから、まずそんなことを聞かれることはないでしょうが。え、私はどうだったかですって? 年齢のせいかと思っていたのですが、お座敷ではいちおう、「おとうはん」と呼ばれていました。

ちなみに、やはり若い舞妓さんよりは、芸妓さんの方が、踊りも、おしゃべりも私には快適に感じられました。でも、一番話があったのは、60歳代かと思われるおかみだったように思いますので、私は所詮、舞妓さん・芸妓さんの世界にはあまり向いていないのだと思います。

でもプロが作り出す、すばらしい時間を楽しめました。何よりも、たいへん品のよいお座敷であることと、耳新しい情報をたくさん聞けた楽しい時間であったことがうれしかったですね。

最近の記事 ページトップへ 以前の記事
ボーダーを越えて
雨宮 和子
かくてありけり
沼田 清
葉山日記
中山 俊明
寄り道まわり道
吉田 美智枝
NEW
僕の偏見紀行
時津 寿之
NEW
老舗の店頭から
齋藤 恵
ぴくせる日記
橋場 恵梨香
縁の下のバイオリン弾き
西村 万里
やもめ日記
シーラ・ジョンソン
徒然.... in California
明子・ミーダー
きょう一日を穏やかに
永島 さくら
ガルテン〜私の庭物語
原田 美佳
バックナンバー一覧
166 京都名刹めぐり その30 梨木神社 Part 2
165 京都名刹めぐり その30 梨木神社 Part 1
164 優れた作家の感受性のすごさ
163 「アウトドア般若心経」
162 紫紺の闇 (しこんのやみ)
161 言論を奪われ、異論を排除した時、戦争は止められなくなる。
160 法の精神(8月15日に際して)
159 戦争は、防衛を名目に始まる。
158 平泉 澄(きよし)
157 アンビグラム (Ambigram)
156 白虹事件
155 山崎と大山崎 その4 (ニッカウヰスキーと大山崎山荘 後編)
154 山崎と大山崎 その3 (ニッカウヰスキーと大山崎山荘 前編)
153 山崎と大山崎 その2 (大山崎山荘の誕生)
152 山崎と大山崎 その1
151 修学院離宮 Part 2
150 修学院離宮 Part 1
149 「漢詩のリズム」
148 最澄と空海 その3 (まとめ) 両雄並び立たず
147 最澄と空海 その2 薬子の変
146 最澄と空海 その1 還学生と留学生
145 桂離宮と豊臣秀吉
144 「漱石枕流」
143 忘れられない写真
142 松方コレクションと国立西洋美術館
141 カタロニア讃歌 (Homage to Catalonia)
140 「乱」と「変」
139 パナマ運河疑獄事件
138 水晶栓 (Le bouchon de cristal)
137 シュール・リー (sur lie)
136 「斉藤」、「斎藤」、「齊藤」、「齋藤」
135 宋靄齢・宋慶齢・宋美齢
134 マカオ今昔 その4 (最終回)
133 マカオ今昔 その3
132 マカオ今昔 その2
131 マカオ今昔 その1
130 四神(しじん)
129 森 恪 (読みにくい名前を、もう1件)
128 大給 恒
127 ローマの休日 (Roman Holiday)
126 ラファエル前派
125 京都名刹めぐり その29 大覚寺
124 京都名刹めぐり その28 金戒光明寺
123 京都名刹めぐり その27 清閑寺
122 京都名刹めぐり その26 山科の毘沙門堂
121 京都名刹めぐり その25  正伝寺と圓通寺の借景
120 BYO ワインクラブ
119 「懐石料理」と「会席料理」
118 ナイト・ホークス
117 景徳鎮・有田・マイセン
116 瑠璃光院の不思議
115 葭と葦 (永源寺にて)
114 「プラハの春」、「ベルリンの秋」、「ウィーンの冬」
113 アルクイユ (Arcueil)
112 カンパリ (CAMPARI)
111 耕論 「ミシュラン、おいでやす」
110 美術展作品の輸送について
109 エトルタの針は空洞か? 
108 「無縁社会」
107 秋艸道人
106 白毫寺(びゃくごうじ)
105 2人のラ・トゥール
104 ブラジリアン・マジック
102 ジュール・シュレ美術館の盗難事件
101 シャントルイユの「空」
100 白凛居へ行って参りました。
99 イコン異聞 (日本人イコン画家 山下りん)
98 新たな気持で
97 セザンヌ、その光と陰
96 「マキシミリアン」の謎解き
95 マキシミリアン (Maximilian)
94 土佐派
93 カトリーヌ & マリー
92 真珠の 「耳飾り」 と 「首飾り」
91 ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル
90 私と絵画
89 八点鐘 (はちてんしょう)
88 五山の送り火クイズ
87 白い送り火
86 春 (La Primavera)
85 カラバッジオ (Caravaggio)
84 一度は消えた画家
83 マニュエル・ゴドイ (Manuel Godoy)
82 フリーダ・カーロ (Frida Kahlo)
81 ジョージア・オキーフ (Georgia O’Keeffe)
80 ラ・リュッシュ (La Ruche)
79 マルディ・グラ (Mardi Gras)
78 接吻 (Der Kuss)
77 ワイエス
76 ラス・メニーナス (Las Meninas)
75 オールドホーム (The Old Home)
74 私と村 (Moi et le village)
73 メデューズの筏
72 破戒僧と尼僧
71 遠近法とパオロ・ウッチェルロ
70 オシュデ (The Hoschede)
69 アプサント (L’absinthe)
68 草上の昼食 (Le dejeuner sur l’herbe)
67 オランピア (Olympia)
66 ジオットとEU
65 オルナンの埋葬
64 フェルメールの魅力
63 レカミエ夫人の肖像
62 コタン小路
61 上七軒(かみひちけん)
60 祇園のお座敷便り その1
59 サント・ヴィクトワール山 (La Montagne Sainte-Victoire)
58 ワインのホワイト・ホース、シュヴァル・ブラン
57 京都花街概論
56 ネゴーシアン (negociant)
55 オノレ・ドーミエ (Honore Daumier) のカリカチュア
54 AOC
53 世田谷美術館へ出かけませんか?
52 シャトー・ラトゥール
51 セーヌ川をはさんで
50 グランド・ジャット島の日曜日の午後
49 ムートン・ロートシルト
48 ポール・デュラン−リュエル (Paul Durand-Ruel)
47 イケーム (Yquem)
46 タリスマン (Le talisman)
45 アリスカン (Les Alyscamps)
44 月と六ペンス (The Moon and Sixpence)
43 京都名刹めぐり その24 古知谷 阿弥陀寺
42 オルセー美術館にある方が模写なのです (ガシェ医師の肖像)
41 シャトー・マルゴー (Chateau Margaux) 本編
40 シャトー・マルゴー (Chateau Margaux) 前置き編
39 パリ市民とバリケード (barricade)
38 シャトー・ペトリュス (Chateau Petrus)
37 返却されなかった名画 <アルルの寝室>
36 真夏の夜のワインの夢 in ロンドン   
35 ヴィンセント・ファン・ゴッホとオーヴェールの教会
34 Ullage (アリッジ)
33 複雑な素朴派、アンリ・ルソー
32 フランス・ワイン通史 その2
31 フランス・ワイン通史 その1
30 風の花嫁
29 カナの婚礼
28 切り分けられた名画、ショパンとジョルジュ・サンド
27 「都会の踊り」 と 「田舎の踊り」
26 京都名刹めぐり その23 高台寺
25 京都名刹めぐり その22 法然院
24 京都名刹めぐり その21 平等院(宇治)
23 京都名刹めぐり その20 東福寺
22 京都名刹めぐり その19 泉涌寺
21 京都名刹めぐり その18 智積院
20 (突然ですが・・・)ドレフュス事件とエミール・ガレ
19 京都名刹めぐり その17 六波羅蜜寺
18 京都名刹めぐり その16 実相院
17 賀茂一族
16 京都名刹めぐり その15 正伝寺
15 京都名刹めぐり その14 六道珍皇寺
14 閑話休題 「I have a reservation.」 
13 京都名刹めぐり その13 狸谷山不動院
12 京都名刹めぐり その12 安井金比羅宮
11 京都名刹めぐり その11 圓光寺 (えんこうじ)
10 京都名刹めぐり その10 金福寺 (こんぷくじ)
9 京都名刹めぐり その9 東山大文字の火床はこうなっておりました。
8 京都名刹めぐり その8 五山の送り火異聞
7 京都名刹めぐり その7 大河内山荘
6 京都名刹めぐり その6 京都五山の送り火(大文字焼き)体験記
5 京都名刹めぐり その5 上賀茂神社の斎王代
4 京都名刹めぐり その4 祇王寺
3 京都名刹めぐり その3 光悦寺
2 京都名刹めぐり その2 善峯寺
1 京都名刹めぐり その1 西山光明寺
ページトップへ
Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved. Copyright(C) FORUM INFONET, All rights reserved.
掲載の記事・写真・イラスト等、全てのコンテンツの無断転載・複写を禁じます。
0 7 5 9 4 7 1 8
昨日の訪問者数0 3 6 6 2 本日の現在までの訪問者数0 3 2 9 6